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327 デルト到着

 その日の夕刻には最も近くの村へとたどり着いた俺たち。その村には小規模ながらも警吏の詰所があったので良かったよ。

 彼らに捕縛した盗賊たち10名を引き渡したのだが、報奨金については後日の受け渡しになるらしい。まぁ、俺は別に()らないんだけどね。

 商人として無償奉仕というのが違和感あると思って、『報奨金の半分』などと言ったんだけど、これってどうしよう?


「報奨金についてはピザロ商会へ全額をお渡しください。俺の取り分については、また後日お会いしたときに…」

 前半は警吏の人に、後半はピザロさんに対して言った言葉だ。

 『また後日』とは言っても、デルトの街に着いてから先は、もう二度と会わない可能性もあるのだが…。


「あ、護衛である冒険者の方々については、このままデルトまでうちの馬車に乗っていってくださいね。そのほうが俺としても助かるので…」

 そう、(はた)から見ればピザロ商会の雇った護衛の恩恵を俺が無償(ただ)で受けているようなものなのだ。実際は違うとしても…。

(わり)いな、兄ちゃん。歩かなくても良いってのは、まじで助かるぜ」

「スケーデル様、私からもお礼を申し上げます。この調子なら明日か明後日には国境の検問所に着くことでしょう」

「あ、様付けで呼ばれるほどの者ではありませんので、俺のことは『スケさん』とでもお呼びください」

「はは、承知しました。スケさん、どうぞ今後ともよろしくお願いします」

 大きな太鼓腹を揺らして愉快そうに笑うピザロさんは、見た目も中身も善人っぽい。なかなか良い人と知り合ったものだ。


 ・・・


 国境検問所ではビエトナスタ王国に入国したときの職員が俺のことを覚えてくれていた。

 商業ギルドの会員証を提示した際、言われたのだ。

「ああ、ミーツクニ商会のスケーデルさんですね。入国時は普通の幌馬車で、出国時には装甲馬車とはいったい何があったのですか?」

「はぁ、まぁ色々と…」

 言葉を濁す俺だったが、その職員からそれ以上追及されることは無かった。単なる世間話だったようだ。

 ちなみに、エーベルスタ王国側の国境検問所でも似たようなやり取りが行われた。どうやら黒髪、黒目という俺の身体的特徴が印象的で、覚えていたらしい。


 デルトの街に着いてからは、ピザロさんとその護衛の冒険者たちとはお別れだ。彼らはこの街の商会に祖国から運んできた商品を納入し、また新たに商品を仕入れた後、ビエトナスタ王国へ戻るとのこと。

「スケさん、本当にありがとうございました。ビエトナスタ王国北西部にあるクリムズという街にピザロ商会の店舗がございます。ぜひ近いうちにお立ち寄りください。誠心誠意歓迎させていただきます」

「兄ちゃん、馬車に乗せてもらって助かったぜ。帰りはまた歩きかと思うと、ちと憂鬱だがな。そうそう、兄ちゃんの商会からの指名依頼だったら、どんな依頼でも受けてやるぜ。クリムズの街の冒険者ギルドで『蜂蜜と熊』ってパーティー名で指名してくれや」

 俺の脳裏には黄色い熊の姿が浮かんだよ。なんだよ、そのパーティー名は…。


「ピザロさん、冒険者の皆さん。こちらこそ楽しい旅でした。また機会がありましたらぜひお会いしましょう」

 何となく、もう会えない気もするけどね。なぜって、もはやビエトナスタ王国へ来る用事が無いのだよ。

 あ、イリチャム姫の女王陛下即位の式典があるときには、観光で訪れたいとは思っている。とは言っても、行先は王都だけどね。


 で、彼らと別れた俺はちょっと高級な宿屋に泊まることにした。馬の世話が大変なので、きちんとした馬丁(ばてい)に頼みたいのだ。

 なお、明日にはこのデルトを出立してリブラの街(アインホールド伯爵領の領都)へと向かう予定だ。

 あと、冒険者ギルドへは顔を出さない。さっきの冒険者たちと鉢合わせする可能性があるからね。バッツさんやハルクさん、イーリスさんとも久々に会ってみたいとは思ったんだけど…。

 デルト準男爵のお屋敷へも挨拶に行かなくて良いだろう。なにしろ今の俺は一介の商人であって、貴族でも冒険者でも無いって建前なので…。


 ・・・


 翌朝、宿屋を出立する前に『装甲戦闘車』の装備を元の状態へと戻した。

 簡易ベッドを車内に設置して、天井にはイーサ(キャノン)を取り付けたのだ。まず無いとは思うけど、強力な魔獣と遭遇する可能性が絶対に無いとは言えないからね。


 最後に余談だけど、馬車の開放可能な扉は全て開け放ってから就寝した。なにしろ男臭いというか汗臭いというか、かなりの臭いがこもっていたからね。まぁ、仕方ないっちゃ仕方ないんだけど。

 昨夜、雑巾を使って車内の水拭きもしたし、現在は全くの無臭状態だ。いや、自分では気づかないだけって可能性もあるけど…。

 消臭剤的なものがあれば良いのだが、香水やお香など他の匂いで悪臭を上書きするというのが、この世界では一般的なのだそうだ。

 そういうのって、俺はあまり好きじゃないんですよ。イザベラがルナーク商会で消臭剤を開発してくれないだろうか?

 あ、俺は無理だよ。普通の元・大学生がそんな高度な化学知識を持っているわけないじゃん。


 こうして、また俺の一人旅が再開されたのだった。向かうはリブラの街である。

 アインホールド伯爵様やエイミーお嬢様が王都ではなく、リブラにいるのは分かっている。俺の仲間たちもね。

 これは通信魔道具による定期的な連絡によるものだ。まぁ、ピザロさんたちが同行しているときには通信することができなかったんだけどさ。


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