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325 一人旅

 俺は四頭立ての馬車を一人で走らせていた。

 進んでいるのはビエトナスタ王国を東西に貫く大きな街道で、もう少し先へ行くとエーベルスタ王国との国境があり、それを越えるとすぐにデルトの街へと到着する。

 馬車は鋼鉄製の外板で覆われており、上部にはイーサ(キャノン)が取り付けられていた。そう、俺が操っているのは『装甲戦闘車』なのだ。


 実は今回の叙勲の褒賞として望むものを問われた際、迷わずこの『装甲戦闘車』が欲しいと答えたのだ。うん、即答だったよ。

 どっちみち天井に固定されているイーサ(キャノン)については取り外して回収するつもりだったし、どうせなら帰国する際の足が欲しかったからね。

 いや、乗合馬車を使って帰国しても良いんだけど、知らない人が多いと気を遣うのだ。もはや忘れられた設定かもしれないけど、俺って実は『陰キャ』なんですよ。知らない人と旅するよりは、一人の方が気楽なんだよね。


 馬車自体はかなり重くて、鉄製の車輪が土の街道に(わだち)を刻んでいる。それでも四馬力だからね。普通の馬車と同じくらいの速度(スピード)は出せるよ。

 ビエトナスタ王国は元々、西のエーベルスタ王国や南のゴルドレスタ帝国との交易が盛んで、それは戦争が終わった今でも同様だ。

 かなりの数の行商人や交易に用いられている馬車とすれ違ったよ。そのたびに相手の馬車の御者がイーサ(キャノン)を二度見してくるんだけどね。いや、まさか魔道武器とは思わないだろうけど…。


 いや、待てよ。あの二度見って俺を見てたのかも?

 この装甲戦闘車、御者席も鉄板で覆われていて、細いスリットから外を見ることができるようになっている(まさに戦車だな)。でも、あまりにも視界が悪いので、俺は天井に座って手綱(たづな)を握っているのだ。

 通常の馬車が普通乗用車の視界なら、天井に座っている現状は大型トラックの視界ってところかな。目線が高くてなかなか爽快だ。

 もちろん、天井部分に快適に座れるよう、革張りの座席をきちんと(しつら)えているのは言うまでもない。晴れているときは吹き渡る風が気持ち良いし、とても良い改造を(ほどこ)したと思う(自画自賛)。


 なお、天井座席への移動方法だけど、御者席の天井部分を内側から()けて、そこに設置された梯子(はしご)を昇っていく形になっている。車内には簡易ベッドもあって、ちょっとしたキャンピングカーって感じだし、当然だけどドアには鍵もかかるようになっているよ。

 まじで良い物を貰ったものだ。動力が馬ではなく、何らかの機関(内燃か外燃か、はたまた魔法力でも良いけど…)だったらもっと良いんだけどね。


 のんびりと一人旅を楽しんでいると、街道のかなり先の方から喧騒が聞こえてきた。魔獣かな?盗賊かな?どっちだろう?

 俺は馬に(むち)をあてて、できるだけ速く『装甲戦闘車』を街道の先へと走らせた。

 緩やかにカーブした道の先には一台の馬車が停まっていて、その周りには護衛の冒険者らしき人たちが数人ほど戦闘中だった。その相手となっていたのが、なんか薄汚れているけどどう見ても騎士っぽい(よそお)いの集団だった。騎馬ではなく徒歩だったけどね。

 望遠鏡の視界では詳細が分からなかったので、俺は『装甲戦闘車』をさらに近づけてから大声で呼びかけた。

「どうしました?これは何事ですか?」


 ものものしい四頭立ての装甲馬車を目にして、馬車を襲っていた騎士っぽい男たちは(ひる)んだように動きを止めた。てか、これが装甲馬車であることに気づいたってことは、やはり本職の騎士なのか?

 冒険者らしき男性が俺の問い掛けに答えてくれた。

「俺たちゃ護衛依頼を受けた冒険者だ。こいつらは騎士崩れの盗賊たちだぜ。もしも戦えるのなら手伝ってもらえるか?」

 騎士っぽい男たちは、この言葉に対して何も反論しなかったので、どうやら真実のようだ。


 俺は『装甲戦闘車』の上に立ち、【アイテムボックス】から『魔道ライフル』を取り出してからそれを構え、こう言った。

「降伏しろ。でなければ殲滅する」

 彼らがこの『装甲戦闘車』を軍用装甲馬車と認識しているのならば、中に10名くらいの兵士が乗り込んでいると考えるはず…。それでも向かってくるだろうか?いや、逃げ出すかな?

 なお、冒険者の人数は5名、盗賊団のほうは10名だったので、俺が参戦しなければちょっとヤバかったかもしれない。てか、なかなか強い冒険者パーティーのようで、ざっと【鑑定】してみた結果の戦力比は【1:1.2】というところだった(兵数的には【1:2】だけど…)。微妙に押し負ける感じだな。


 盗賊たちは手を出さず様子見って感じで、戦闘は一時停止している。冒険者側は守備的に戦っていて、積極的な攻撃は控えている感じだしね。

 俺も『魔道ライフル』を撃つことなく、盗賊側の反応を待っているという状態だ。

 おそらく奴らが見定めているのは、装甲馬車から兵士が降車してくるかどうかだろう。そして数秒後、それが無いことを確信したのか、指揮官らしき盗賊が俺に向かって無言で剣を突きつけた。

 一斉に走り寄ってくる盗賊たち。かなり統制が取れている。

 俺は『魔道ライフル』を連射しながら、盗賊たちを次々と撃ち倒していった。距離は20~30mってところだったし、必中の距離だったよ。


 驚愕の表情で俺を見る盗賊の指揮官と護衛の冒険者たち。

 冷静に魔石カートリッジを交換しつつ、9名の盗賊たちを順に昏倒させていった。てか、一つの魔石カートリッジで5連射できるので、一度交換しただけなんだけど…。

 一発で敵一人を確実に撃ち倒していったわけだが、この『魔道ライフル』って【土魔法】の中級を発動するものだからね。威力的には十分すぎる。

 もっとも、魔法による石(つぶて)が敵の(よろい)を貫通することはなく、ただ単に命中の衝撃で昏倒していったという感じだ。でもそれで十分なのだ。倒れた敵については、冒険者たちが確実に無力化していったので…。


 最後に残った指揮官らしき盗賊についても、冒険者たちに包囲されたあと、彼らによって持っている剣を叩き落とされていた。どうやら完全勝利っぽいね。

 冒険者側に死傷者が出なかったみたいで、ほっとしたよ。

 てか、もしもこの場にナナがいたら、『テンプレだよ、お兄ちゃん』とでも言うのだろうか。いや、どういう状況をテンプレと言うのか、俺にはよく分からないんだけどさ。


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