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308 王都防衛戦③

 微妙に混乱をきたしている(ように見えた)敵軍だが、いきなりアースドラゴンの歩みが速くなった。いや、小走りと言って良いかもしれない。

 アースドラゴンの後方には、それを盾にするかの(ごと)く、兵たちが追随しているのが見える。

「ツキオカ様、敵の進軍速度上がりました。このままでは東門が破られる恐れが…」

 チェリーナさんの声も焦っているように聞こえる。パレートナム課長補佐のほうは落ち着いた様子に見えるけど、内心は分からない。

「ツキオカ殿、どうする?その魔道武器で何とかならんのか?」

 そう言いつつも、彼はこの場の指揮官としての切り札をまだ切っていない。


 その切り札とは、ビエトナスタ王国にもある程度の人数が揃っている【土魔法】の魔術師たち…。

 東門付近の外壁上には彼らをずらっと並べているのである。別に【クレイウォール】による土壁の生成で防御を担当するのではない。彼らの役割は【ディグホール】という魔法を使って地面に穴を掘るのだ。

 要するに、落とし穴を即興で作るのである。

 アースドラゴンの巨体が【突進】スキルで近づいてきたら、その進路前方に穴を掘って前脚を落とすのだ。

 これにより脚の骨折を生じさせることができれば(おん)()。少なくとも敵の勢いを()ぐことで、門扉の破壊は防げるだろう。

 パレートナム課長補佐があまり焦っていない理由は、この対抗手段があるせいだね。もちろん、アースドラゴンが【突進】してくることが前提なんだけど…。


「再度、イーサ(キャノン)による砲撃を実施。ただし、砲弾の種別が異なるため、慎重に狙撃する」

 俺はミホ弾の入った弾倉(マガジン)に交換し、魔石カートリッジのほうも交換した。砲弾が軽く風の影響をより受けることになるため、できるだけ引き付けて撃ちたいところだ。

 そうだな。東門からの距離50m地点にあらかじめ照準をつけておこうか…。

 ただ、砲身を架台に固定せず、臨機応変に対処できるようにしておくのは言うまでもない。


 そして、その時は訪れた。

 アースドラゴンの頭部が照準位置に差し掛かった瞬間、俺はミホ弾を発射した。

 イーサ(キャノン)にとって、50mは超至近距離だ。音速の三倍で飛翔した砲弾は、アースドラゴンの首のすぐ後ろに着弾したと思われる。

 そして、命中個所にある強固な鱗を貫通したのは間違いない。なぜなら、一瞬の後、その場所から体液が噴き出したから…。

 もしかしたら、通常砲弾の命中により(もろ)くなっていた個所だったのかもしれないな。


 いずれにせよ、砲弾は貫通したようで良かった。ただ、アースドラゴンの絶命には至らず、まだ【突進】の速度は衰えていない。

 パレートナム課長補佐が右手を振り下ろして命令を発した。

「発動、今!」

 【土魔法】の魔術師たちが一斉に、自分の担当個所に向かって【ディグホール】を発動し、アースドラゴンの進路前方となる位置に穴を開けた。奴が東門に向かってくるのは分かっているのだから、あらかじめ各人の担当位置を決めておくことができたのである。


 横一列ではなく縦深的に開けた穴の一つにアースドラゴンの右の前脚がはまった。その巨体は脚の骨折を防ぐためなのか、もんどりうって前方へと回転し、腹を見せた状態で停止した。

 ものすごい地響きが生じたよ。その位置は東門から目と鼻の先、距離にして10mといったところだろうか。

 なお、奴の下腹は鱗に覆われていなかったので、中級魔法では7%、上級魔法であれば100%の確率でダメージを与えることができる。

 まさに今がチャンスだ。


「弓兵は矢を発射、魔術師は上級魔法を放て!」

 一斉に放たれる矢と攻撃魔法。上級魔法を撃てる魔術師がこの国にも存在するのである。

 ちなみに、俺は中級魔法までしか発動できないので見学だ。あ、上級魔法相当の【複合魔法】だったら俺でも発動できるけど、とりあえずは静観する(あまり手の内を見せたくない)。

 あと、イーサ(キャノン)のほうにしても、俯角(ふかく)が取れないため、やはり狙うことができないんだよね。ほぼ真下だし…。

 もがくアースドラゴンが身体を反転させて防御態勢を取るまでの間、かなりの数の矢と魔法が着弾したはずだ。それでもまだ絶命せず暴れているのを見ると、ドラゴン種の生命力の強さを実感させられる。


 これって、頭か心臓を破壊しないと止まらないんじゃないか?

 絶望的な気持ちになりかけたけど、ここで思いもよらぬ事態が発生した。

 アースドラゴンが門扉に背を向けて【炎息吹(ブレス)】を放ったのだ。つまり、東門の外壁上に立つ俺たちとは真逆の方角だ。【ファイアボール】の魔法と同規模の火球が奴に後続していた敵兵を襲う。

 火球の直撃を受けた兵は一瞬で燃え上がり、至近に着弾しただけでも手足に火傷を負った兵が多数生まれたようだ。さすがのドラゴンブレスである。


 え?なぜ味方を攻撃してるんだ?

「あー、ありゃ多分、調教(テイム)の効果が切れたな」

 これはパレートナム課長補佐の推測なんだけど、調教(テイム)が切れることってあるんだな。知らなかったよ。

 てか、こうなると敵の敵は味方だよね。もはやあのアースドラゴンはこちらの味方ってことになるのでは?


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