306 王都防衛戦②
イーサ砲の型式名は『AC-2010R』で、ビエトナスタ王国へ持参したのもこれだ。
ただ、根本的な部分は変わらないのだが、発射機構と架台を自力で少しだけ改良してみた(ビエトナスタ王国の王都へ来てからの数日間で…)。
発射機構については、手回しハンドルによる連射を可能にした。コッキングレバーを引いてから元に戻し、発射ボタンを押すという一連の動作をハンドルの回転によって行うのだ。
これにより(手動ではあるが)ハンドルを回すだけで砲弾を次々と発射できるようになる。もちろん、ハンドルとコッキングレバーを切り離し、これまで通りの撃ち方も選択できるようにしているけどね。
砲弾が貴重なので、実際に発射実験を行ったわけじゃないけど、うまくハンドルとコッキングレバーが連動するのは確認済みだ。
もう一つの改良点は架台なんだけど、照準が定まったあと、その状態をロックする機構を追加した。
架台上のイーサ砲本体は上下左右に自由自在に動かせるんだけど(ただし、上下の角度…仰角と俯角…には制限あり)、あまりにも軽快すぎてコッキングレバーを引く動作だけでもすぐに動いてしまうのである。
これは命中を確認したあと、同じ諸元で連続して発射したい場合にちょっと困る。ゆえに、砲身を架台に固定するためのロック機構を設けたってわけ。
この二つの改良点によって、攻撃は次のような手順になるだろう。
まずは通常の発射方法で試射を行い、命中を確認したら効力射を実行するのだ。効力射では最初に砲身を架台に固定し、次にハンドルをコッキングレバーに接続する。あとはそれを回転させることで、同一諸元による連続発射を実現するわけだね。
これにより、ほぼ同じ個所に砲弾を集中させることができるはずだ。風の影響などもあるし、ハンドルの回転による砲身の微妙な上下運動もあるため、全く同じ位置に着弾するわけじゃないだろうけど…。
…で、呼称だけど、当初のイーサ砲を『AC-2010R11型』、俺が改良したバージョンを『AC-2010R22型』と呼んでいる。十の位が発射機構、一の位が架台のバージョンというわけだ(どちらもバージョン2ってこと)。
・・・
現在、リュミエスタ王国軍、その中核たるアースドラゴンへ砲身を向けているイーサ砲は、その『AC-2010R22型』である。
傍らには弾倉と魔石カートリッジが10個ずつ積み上げられている。100発の砲弾を連射する態勢は整っているってわけ。あ、弾倉の内、1個だけは10発全てがミホ弾になっているけどね。
まぁ、できるだけミホ弾を使いたくないので、連射可能なのは(正確には)90発ということになる。しかし、これだけあればアースドラゴンを倒すこともできるはずだ、おそらく…。いや、倒せれば良いなぁ。
「ツキオカ様。アースドラゴンまでの距離、そろそろ200mになります。本当にこの遠距離で攻撃を開始するのですか?」
望遠鏡を使って敵陣を観察しているチェリーナさんが報告してくれた。
「うん、それじゃぼちぼち撃とうかな。チェリーナさん、弾着確認よろしくね」
俺はコッキングレバーを操作して初弾を装填、ざっくりと狙いをつけたあとに発射スイッチを押した。
「アースドラゴンの左斜め後方で馬上にいた敵騎士が落馬したのを確認しました。信じられません。この距離であの威力とは…」
どうやら鎧を貫通したわけではなさそうだ。戦争なんだから人の命を奪う覚悟はしてきたけど、別に積極的に殺したいわけじゃない。敵兵を戦闘不能にするだけで良いのだ。
落馬したという敵の騎士が絶命したのかどうかは不明だが、職業軍人なんだから仕方ないことだと思う。正直言って、徴兵された農民たちに当たらなくて良かったよ。
「気持ち右の方へ修正する。俯角はそのままで」
この二射目はアースドラゴンの周囲の人間には当たらなかったようだ。遠くてよく見えなかったけど…。
「アースドラゴンの背中部分で何かの破片が飛び散ったような気もしましたが、よく分かりませんでした。申し訳ありません」
「うーん、ほんの少し砲身を下げたほうが良いのかも…。まぁ、三射目いってみよう」
向こうも歩みが遅いとはいえ、こちらへ近づいてきているわけだからね。高い外壁の上から地表部分を狙うため、俯角(砲身を下げる角度のこと)をちょっとだけ大きくしたほうが良いのかもしれない。
「頭部の少し上で何かがはじけたのが見えました。おそらく鱗が砕けて、その破片が飛んでいるのではないかと推測します」
「よし。それでは次弾から効力射に移行する。引き続き弾着観測を頼む」
俺はイーサ砲の砲身を架台にロックするためのレバーを押し下げ、次いで回転ハンドルとコッキングレバーを連結した(もちろん、これは発射スイッチとも連動している)。
そして勢いよくハンドルを回し始めた。だいたい1秒間に2発というペースで、弾倉に残っていた7発の20mm砲弾がわずか3~4秒で撃ち尽くされた。
「アースドラゴンが首を振って暴れています。もしかして傷を負わせることができたのかもしれません」
うーん、全く同じ個所に砲弾を命中させることさえできれば、鋳造された鉄の砲弾であっても奴の鱗を破壊することができるかもしれない。いや、それがめっちゃ難しいことなのは重々承知しているのだが…。
チェリーナさんと同じように望遠鏡で敵陣を観察していたパレートナム課長補佐が言った。
「おいおい、この魔道武器は何なんだよ。アースドラゴンの鱗ってのは剣や槍、弓矢を全て弾き返すだけの強度があるんだぞ。そもそも、魔法による攻撃は一切効かないはずだ。いったいどうなってるんだ?」
ふふふ、どうですか?詳細については国家機密なので言えないけど、本当はめっちゃ自慢したい俺がいる。
てか、これでアースドラゴンが退却してくれると良いんだけど、調教師が操っている以上、これまでと変わらず進軍を続けるんだろうなぁ。
それにしても奴の鱗の強度は大したもんだ。ミホ弾のほうも一発くらいは試しておいたほうが良いかもしれないね。




