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304 現状把握

 第二部長は即座に片膝をついて、右腕を胸の前に、左腕を身体の後ろへと回して頭を下げた。多分、この国の拝跪(はいき)の礼なのだろう。

「イリチャム・ビエトナスタです。どうか頭を上げてください。今回、ツキオカ男爵に無理を言って同行させてもらいました。せっかくの国王陛下の厚意を無にするようで申し訳なかったのですが、この国の危機に際して、居ても立っても居られなかったのです」

 第二部長も副官の人も感動の面持(おもも)ちになっていた。それも当然か。王都を逃げ出す貴族たちが多い中、わざわざ最前線となる地へとやってきたんだからね。


「イリチャム姫様、あなた様はこの王都における国王陛下以外の唯一の王族でございます。国防軍一同、その勇気に対し感謝の意と変わらぬ忠誠を(ささ)(たてまつ)ります」

 え?王太子殿下は?あと、お(きさき)様(正室のこと)やお(きさき)様(側室のこと)、その子供たち(イリチャム様のご兄姉(きょうだい))は?

 このあと詳しい話を聞いたところ、王族は全員、この王都を脱出してゴルドレスタ帝国との国境に近い街(ここから南南西の方角)へと疎開したそうだ。驚いたことに、国王陛下お一人を残して…。

 …って、嘘だろ?

 イリチャム様の兄君たちって、全員20代って聞いてるぞ。王女たち女性陣が疎開するのは納得できるけど、成人男性が有事に際して逃げるってのはどうなの?

 王族失格というか、どう考えても王室への求心力が低下する行為だよ。


 このあと第二部長に案内されて、俺たちは国王陛下の寝室へと向かった。

 驚いたことに、ここにいる五人全員が陛下の寝室への入室を許可されたのだ。これは陛下のご指示によるものらしい。

「イリチャム姫よ、久しいな。そちがエーベルスタ王国まで逃げて、アインホールド伯爵家に保護されたことは第二部第三課からの報告で分かっておった。なのに、またここへ舞い戻ってくるとは、全く奇特なことよ」

「申し訳ありません、陛下。ですが、祖国が他国の軍隊に蹂躙されようというとき、安全地帯で見ているだけというのは耐えられなかったのです」


 国王陛下は一瞬嬉しそうな表情になったあと、すぐに厳しい顔つきになった。そして、(おごそ)かな口調でこう言った。

()はこの通り、病により前線には立てん。そちは()名代(みょうだい)として兵たちを鼓舞せよ」

「はい。無力なこの身ではありますが、王族として恥ずかしくない振る舞いを致します」


 次いで俺の方を見た国王陛下。

「そちがツキオカ男爵か。予想よりも(はる)かに若いな。今回の王都防衛戦、そちの活躍を期待しておる」

「はっ、お任せください。必ずや敵軍を撃退致しますこと、ここにお約束申し上げます。パレートナム課長補佐との契約だけでなく、イリチャム姫様の勇気に(こた)えるためにも」

「うむ。よろしく頼む」

 ベッドに横たわっている状態でも、目礼によって感謝の意を表してくれたことが分かったよ。


「第二部第五課所属のパレートナム課長補佐とチェリーナ君だったな。そちたちのおかげでツキオカ男爵をこの地へ招くことができた。心から礼を言う」

 驚愕の表情で即座に拝跪(はいき)の礼をとった二人。

 まさか国王陛下から直接お声がけしていただけるとは思わなかったのと、さらにお礼を言われたことに対してパニック状態になったようだ。二人とも顔から流れる汗がすごいことになっている。


 国王陛下は、最後にイリチャム姫の斜め後ろに控えていた侍女(マーヤ)さんのほうへと目を向けた。

「マーヤもよくイリチャム姫を補佐してくれた。今後ともよろしく頼むぞ」

「は、はい。もちろんでございます。この命に代えても姫様をお支え致す所存であります」

「うむ。それでは()は少し休ませてもらおう。ああ、言い忘れるところだったが、現在、この国の指揮を()っているのは国防軍総長である。()の者の指揮の元で全員一丸となり、リュミエスタ王国軍を撃退してほしい。各員一層奮励努力せよ」


 この言葉を発したあと、陛下は静かに目を閉じた。命の火が消えかかっているのを思い起こさせるご様子だった。ここまでかなり無理をしてしゃべっていたのだろう。

 俺を含むこの場にいる全員が、一斉に膝をついて頭を下げたよ。さすがの威厳だった。この王様の息子が例の王太子殿下なのかと思うと、何とも言えない気持ちになるね。


 ・・・


 陛下の寝室を辞した俺たち五人は、王宮内にある執務室へと案内された。

 普段は王太子殿下が政務を()っている部屋らしいけど、現在は国防軍総長を筆頭とする参謀たちのための部屋なのだそうだ。作戦指揮所とか大本営みたいなものかな?

「私が国防軍の総長を拝命しているバルトロでございます。国王陛下以外の全ての王族が逃げ出した今、イリチャム姫様がここにいらっしゃることはとてもありがたいことと存じます。必ずや兵たちの士気が高まることでしょう」

「私のような者でもお役に立てるのならば幸いです。どこへ(おもむ)けば良いのか、どうぞ気兼ねなくご指示をお願いしますね」

 総長だけでなく、この場にいる全ての参謀たちの心を鷲掴(わしづか)みだよ、イリチャム様。

 この戦争が終わったあとも、少なくとも軍部に関しては彼女の元に(つど)うことになるだろう。うん、彼らがイリチャム様の強力な後ろ盾になるのは間違いないね。


「あなたがエーベルスタ王国のツキオカ男爵ですか。【アイテムボックス】を持ち、アークデーモンを使役し、何やら強力な魔道武器をお持ちだとか。王都防衛戦ではそのお力を存分に発揮されることを期待しておりますぞ」

 え?めっちゃ情報が漏れてるじゃん。我が国の防諜が弱いのか、この国の第二部第三課が優秀過ぎるのか?多分、後者だろうな。

「魔道武器のことまでご存知とは、お見それしました。さすが第二部の情報収集能力は優秀ですね」

 ライアーン第二部長、パレートナム課長補佐とチェリーナさんが誇らしげだ。もっとも魔道武器については、初級か中級の攻撃魔法程度を想定している可能性もあるな。確かにイーサ(キャノン)は初級魔法なんだけど…。いや、もしかして『イーサ(キャノン)』ではなく、(中級魔法を発動する)『魔道ライフル』のことを言っているのかもしれないね。


「それでは、リュミエスタ王国軍の推定兵力と我が軍の動員状況をご説明しましょう。まずは…」

 ここから参謀たちによる状況説明(ブリーフィング)が始まった。てか、アースドラゴンの存在を今初めて知ったよ。

 果たしてその魔獣をイーサ(キャノン)で倒せるのだろうか?いや、ミホ弾もあるし、きっと大丈夫だと信じよう(ミホ弾に関しては、あまり使いたくないけど…) 。


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