298 ビエトナスタ王国行きメンバー
「私もツキオカ様と共に祖国へ戻ります」
突然、そう決意表明したのはイリチャム様だった。もちろん、ビエトナスタ語である。
まずビエトナスタ語の分かる者たちがギョッとした顔になり、侍女さんの通訳によって残りの全員も驚いた顔になった。いや、せっかく苦労して出国したというのに、何を言ってるんだって話だよ。
アインホールド伯爵様が少し眉根を寄せて発言した。
「イリチャム王女。あなたの身柄は僕が責任を持って保護させていただきます。それとも、極悪非道と名高いアインホールド伯爵家では信用するに足りませんか?」
「いえ、決してそういうことではありません。祖国にはこんな私に親切にしてくれた使用人が大勢います。もしも戦争になるのであれば、その者たちや民たちのためにも、私は自分にできることをしたいのです。最前線で兵たちを鼓舞する程度のことなら、無力な私にもできると思うのですよ」
王位継承順位は低くとも、王族の一員であるという自覚をお持ちなのだな。実に見事な心がけだと思う。この屋敷にいれば、命の危険もなく生活の心配もいらないってのに…。
「姫様、なりませんよ。きっとツキオカ様の足手まといになります。大人しくここで朗報を待ちましょう」
侍女さんが焦った様子で、イリチャム様に翻意を促していた。彼女の立場だったら当然の発言だね。
俺の負担になるかどうかについては、まぁそれなりには負担かな。正直に言えば…。
ただ、ここでイリチャム様にとっての援軍が現れた。
「私が責任を持って姫様を護衛致す所存であります。敵を駆逐して王都に凱旋する際には、旗印となる人物が必要だと思います。そして、そのお役目はイリチャム姫様にこそ相応しい!」
「私もこの命に代えて姫様をお守り致します。現在の王太子殿下を廃嫡し、イリチャム姫様を王太女と成すことこそ我が国の未来を明るくする体制であると愚考致します」
パレートナム課長補佐とチェリーナさんだった。特にチェリーナさんの発言は、めっちゃ危険思想だよ。もはや革命っぽい。あ、ちなみに『革命』とは『天命が革まる』ことであり、王朝が他家に切り替わることを指す言葉だ。…ってことは、革命とまでは言えないか…(王太子殿下とは親子だし)。
あと、パレートナム課長補佐の『敵を駆逐して王都に凱旋』というセリフだけど、それって俺の能力をめっちゃ信頼してくれているってこと?いや、なんかプレッシャーだよ。
で、結論としてはビエトナスタ王国へ向かうメンバーは、以下の通りとなった。
・イリチャム・ビエトナスタ姫(ビエトナスタ王国王女)
・マーヤさん(ビエトナスタ王国王宮侍女)
・パレートナム課長補佐(国防軍第二部第五課所属)
・チェリーナさん(国防軍第二部第五課所属)
・俺(サトル・ツキオカ)
自らの意見を曲げないイリチャム様に侍女さんが折れた形だ。
俺としては彼女たちに気を配る必要がある分だけ負担ではあるけれど、まぁ仕方ないね。
・・・
その日の夜、俺の部屋へイザベラとエリさんがやってきた。
「サトル君、イーサ砲の砲弾は何発用意している?」
「ああ、弾倉が10個と20mm砲弾が約200発はあるぞ。もちろん、魔石をセットした魔石カートリッジも10個ほどある。大軍相手に200発では焼け石に水だろうが、こればかりは仕方ない」
しかも、連続で発射できるのは100発までなのだ。弾倉への砲弾の装填と、魔石カートリッジへの魔石の組み込みは誰にでもできるものではないからね。
「うーん、一般兵相手ではなく、後方の指揮官を狙撃したり、ドラゴンを倒すのに使うしかあるまいな。そうそう、ミホ弾は何発か追加で作ったのかね?」
ミホ弾ってのはミノタウロススカウトの角を削り出して作った超硬い砲弾だ。鋼鉄製の大盾を貫通するくらい硬いよ。
「ああ、一応はな。この屋敷で時間の許す限り作りまくった結果、弾倉1個分、つまり10発は用意できてるぞ。もっとも、こいつを10発も撃ったら砲身のほうがダメになるだろうけどな」
砲身の替えが無いので、ミホ弾についてはあまり撃ちたくない。砲弾が硬すぎて砲身内部が削られてしまうのである。
「こんなことなら、イーサ砲をあと2~3門ほど作っておけば良かったな。後悔先に立たずだよ」
「いやいや、敵にドラゴンがいるってのにあまりプレッシャーに感じていないのは、たとえ1門でもイーサ砲を持っているおかげだからな。まじで君とオウカさんには感謝してるよ」
そうなのだ。敵がこちらの攻撃魔法を抵抗しまくるのは、十分に予想できるからね。
【魔法抵抗】スキルを無効化できる攻撃手段があること。これは僥倖(思いがけない幸運のこと)以外の何ものでもないよ。




