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295 ユーリさんとアキさん

 アインホールド伯爵家でイリチャム様を保護してから数日後、冒険者ギルドへ出掛けていたサリーとナナが屋敷へと戻ってきた。

 BランクかCランクの依頼の中に面白そうな案件が無いかを確認しに行ったのだ。サリーとナナはDランクとEランクだけど、アンナさんと俺がCランクだからね。したがって『暁の銀翼』としてはBランクの依頼まで受けることができるのだ。


「お兄ちゃん、大変、大変!」

「サトル、1億の依頼が貼り出されてたよ。しかもランクによる受注制限無しで、受注手続きも不要ってやつ」

 なんだか面白そうな案件だな。ただ、サリーとナナの顔はあまり楽しそうではなかったが…。

「へぇ~、よほど難しい依頼なのかな。どんな案件なんだ?」

「実はね…」

 ここから語られた内容は(俺たちにとっては)あまり楽しいものではなかった。そう、その依頼書に記載されていたのは、二人の女性の捕縛依頼だったのだ。

 そして、その捕縛対象者の容姿の記載は、イリチャム様とお付きの侍女さんであることがすぐに分かるものだった。


 イリチャム様に真偽を問い(ただ)すと、こう言われた。

『その侯爵家でしたら、父の側室の一人のご実家ですよ。おそらくは私の代役として、その方の娘、つまり私の腹違いの姉が選ばれたということでしょう』

『家宝を盗んだというのは?』

『もちろん、思い当たる(ふし)はございませんし、そのようなことをする理由もありません』

 なるほどね。その王女が(イリチャム様の代わりに)人質として隣国へ行きたくないから、母親の実家の権力・財力を使って冒険者ギルドに依頼(イリチャム様の捕縛依頼)を出したというわけか。

 あ、路地裏で不良冒険者に襲われていたのって、そういうことだったのか…。ようやく謎が解けたよ。


 この屋敷の使用人の中に1億ベルという依頼達成報酬に目が(くら)む者はいないと思うけど、伯爵様に言って箝口令を敷いておくべきだろうか?

 一応、念のためね。

 あと、イリチャム様が外出することは無いとしても、侍女さんのほうは出掛ける用事があるかもしれない。きちんとこの状況を説明して、屋敷の外へ出ないように言っておかないと…。


 ・・・


 上記の騒動の翌日のこと。

 今日は騎士団の訓練場の一画を借りて、武術系スキルの鍛錬をしている。参加メンバーはサリー、ナナ、ユーリさん、サガワ君、そして俺の五人だ。

「サリー、リブラの街へ来てたのか。おっとサトルも久しぶりだな」

 …っと、そこへ突然、背後から女性の声で話しかけられた。

 振り返るとそこにはアキさん、いやアーキンアトキンセル嬢が立っていた。彼女はサリーの従姉(いとこ)で【棍術】が100(マスター)以上、そろそろ110(エルダー)に届こうかってくらい強い騎士さんなのだ。

 サリーと同じ獣人族でもある。

 なお、元々はハウゼン侯爵家騎士団員だったのだが、何やかやとあって現在はアインホールド伯爵家騎士団員となっている。


「アキ姉ちゃん。私たちがこの屋敷へ来たときって、ここに居なかったよね?」

「ああ、地方の村を巡回する任務でリブラの外へ出てたんだ。てか、来るなら来るで、事前に連絡くらいしろよな」

 正直、すっかり忘れていた俺だった。サリーもバツの悪そうな顔になっていたから、忘れていた可能性が高い。


 俺はこの場を誤魔化すように、初対面のユーリさんとサガワ君を紹介した。

「何ぃ~、【剣術】が120(レジェンダリー)だと!それはぜひ一度お手合わせ願いたい。私の【棍術】のスキルレベルは現在111だが、人族ではなく獣人族だからな。体格が劣ってるからと言って、甘く見てもらっちゃ困るよ」

 ユーリさんは女性にしてはかなりの大柄で(俺よりも背が高い)、アキさんはサリーと同じように小柄な女性だ。その体格差はまさに大人と子供って感じなんだけど、『棒の騎士』であるアキさんの強さって、決して(あなど)ることができないんだよね。

 てか、アキさんの【棍術】がすでに長老(エルダー)レベルに到達していたとは思わなかった。なお、彼女のスキルレベルの上限は(ユーリさんと同じく)120(レジェンダリー)である。


 こうして、このあと俺たちは異次元の戦いを見ることになる。

 【剣術】120の人族と、【棍術】111の獣人族との戦いだ。技術的及び体格的にはユーリさんに軍配が上がるが、アキさんの強みは獣人族ならではの筋力の強さだ。

 ユーリさんが隻腕(せきわん)状態のままだったら勝負は分からなかったかもしれない。しかし、さすがに両腕で剣を振るユーリさんに(かな)う者はそうはいない。


 結局、僅差ではあるがユーリさんの勝ちと判定された。てか、達人同士の戦いって、素人が見てもよく分からん。両者の動きがあまりにも速すぎて…。

「なかなかやるな。あんたのスキルレベルが120(レジェンダリー)まで育てば、私との勝負の行方は全く分からなくなるだろうよ。まったくこんな辺境で化け物に出会うとはな」

「真の化け物のあんたには言われたくないね。でも私にとって、これからの目標ができてとても嬉しいよ。ふふ、次は負けないからね」

 なんだか女同士の友情が生まれたみたいで、めっちゃ意気投合していたよ。というか、この二人が並んで立ってると、ちょっと怖い(口には出せないけど…)。

 でもまぁ、ツキオカ男爵家騎士団長であるユーリさんの勝利は、ツキオカ男爵家当主として嬉しく思うよ。

 もっとも、アキさんってば、俺にとっては師匠同然(【棍術】を【コーチング】してもらった)なので、どちらが勝っても嬉しいんだけどね。


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