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286 ビエトナスタ王国の王宮① ~第三者視点~

 ビエトナスタ王国において、40代の王太子殿下が次期国王となることは確定している。

 その政治的手腕はなかなかのもので、高齢の国王陛下に代わって国政を見事に舵取りしている彼の能力については万人の認めるところである。

 ところがその反面、下半身の節操の無さについては彼の最大の欠点となっており、国民から恨みを買う原因ともなっていた。平民の女性であっても、その容姿を気に入った者がいれば王城に召し上げ、囲ってしまうのだ。たとえ恋人または婚約者がいたとしても…。

 ちなみに、隣国であるエーベルスタ王国のエイミー・アインホールド嬢に入れあげ、軍を動かした挙句(あげく)、結局は見事に失敗して賠償金を支払ったのは記憶に新しい。


 正室一人に側室九人、子供たちは男女合わせて約30人にも及ぶが、その中には平民出身の側室とその子供も存在する。

 そして、当然のことながら貴族家の後ろ盾を持たない平民出身の側室は、王城内で(しいた)げられる立場にある。いや、その側室が王太子殿下の寵愛を受けている間は良かったのだが、若くして病で(はかな)くなった場合、残された子供は極めて不遇な立場となるのだ。

 なにしろ王太子殿下にとって、子供とは政略の道具であり、そこに何の情も抱いていないので…。


 まさに現在、その立場にあるのが、イリチャム・ビエトナスタという名の王女である。王位継承順位は第28位であり、その年齢は14歳。

 この国では女性であっても王位に()くことができるのだが(女王として即位し、王配を(めと)る)、継承順位を考えると名ばかりの王女と言っても過言ではない。

 彼女の母親は、市井(しせい)から王城へと強引に(拉致同然に)連れてこられた平民であり、娘を生んだ10年後には亡くなっている。公式には病死とされているが、他の側室たちによる毒殺ではないかとも噂されていた。


 母親の死後、育児放棄(ネグレクト)とまではいかないが、この王女へは質素な食事しか与えられていなかった。それによる成長の阻害が見てとれる。14歳にしては発育が悪いのだ。

 また、教育にも問題があり、他の王子や王女が家庭教師を雇って外国語や算術、作法(マナー)やダンスなどを学んでいるのに対し、彼女は心ある使用人から読み書きや算術を教わることができただけである。

 そう、(きさき)たちや兄姉たちからは(しいた)げられているものの、使用人からは可愛がられているのがイリチャムという存在なのだ。生前の母親の薫陶によるものであろうか、彼女の優しい性格を侍女たちが好ましく思っているからである。


 また、祖父にあたる現・国王陛下からは普通に孫として可愛がられているのは救いと言っても良いだろう。ただし、彼女だけ特別扱いではなく、孫たち全員を公平に扱っているのだが…。

 国王陛下不在のホームパーティーの席などでは、父親を始めとする家族全員から存在しない人間として扱われている。しかし、身体的暴力を伴う(いじ)めなどが(今のところ)無いのは不幸中の幸いか。


 ・・・


 そんな(つつ)ましくも平穏な日々をすごしていた彼女だったが、ある日珍しく彼女が暮らす離宮に父親である王太子殿下がやってきた。

「そのほう、名は何と言ったかな?」

「はい。イリチャムと申します。王太子殿下にはご機嫌(うるわ)しゅう、(つつし)んでご挨拶を申し上げます」

 自分の娘の名すら覚えていない、いや覚える気の無い王太子殿下だった。それに対し、質素なドレスに身を包みながらも、見事な(カーテシー)を披露する王女。これもまた侍女たちによる教育の賜物(たまもの)である。


「うむ、それではイリチャムよ。王女としての務めを果たすときが来たぞ。そのほうには隣国の後宮へ入ってもらう。王を(たぶら)かし、子を()して、()の国の実権を握るのだ。分かったか?」

「…承知しました」

 詳しい説明も無く、一方的な宣言を(おこな)った王太子殿下は上機嫌で帰っていった。

 残されたのは意気消沈した王女と、彼女を痛まし気に見つめる侍女たちのみ。


「この件、国王陛下がご存知なのか、すぐに確認させていただきます」

 気を取り直した離宮の筆頭侍女が、すぐに国王陛下の療養する王城の一画へと部下である一人の侍女を走らせた。これにより国王陛下の裁可は得ていないことが判明した。

 ただ、国政を任せている王太子殿下の行動に口を出すことは難しいとのこと。為すすべなく、王女の輿入(こしい)れの準備は進むのであった。


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