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282 リブラ再訪

 ここでドラゴンなんかが出現すればアインホールド伯爵様やエイミーお嬢様への良い土産話になったんだけど、そんなイベントは発生せず、極めて平穏に領都リブラへと到着した。もちろん、弱小魔獣はちょこちょこ出てきたのだが、(当然のことながら)ほぼ全員からの魔法の集中砲火によって瞬殺されていた。


 で、リブラへの到着後、とりあえずは大きな宿屋にて宿泊の手続きを(おこな)い、民間の配送業者に委託して領主(やかた)へ手紙を送った。いわゆる先触(さきぶ)れってやつだ(いきなりお屋敷を訪問するのはマナー違反らしい)。

 手紙の内容は『明日、訪問致します』という趣旨のものだ。なにしろ13人もの大人数だからね。突然の訪問は迷惑だろう(特に使用人にとっては…)。


 ・・・


 そして翌日、宿屋を出立した俺たちは、三台の馬車を(つら)ねてアインホールド伯爵家のお屋敷へと向かった。

 懐かしいな。以前、長期間に渡ってこの屋敷に滞在させてもらったからね。

 玄関先で訪問を告げ、馬車を馬丁(ばてい)に預けたあと、俺たちは執事さんの案内で屋敷の応接室へと入ったのだった。

「皆、よく来たね。歓迎するよ」

「皆様、お懐かしゅうございます。はじめましてのお客様もいらっしゃいますね。ご紹介をお願いできますでしょうか?」

 アインホールド伯爵様とエイミーお嬢様がにこやかに出迎えてくれたよ。お屋敷の使用人さんたちも(礼を(しっ)しない程度に)笑顔だった。主従共にとても雰囲気の良いお屋敷なのだ。


 訪問した13名の中で伯爵やお嬢様と初対面なのは、ユーリさんとエリさん、そしてニホン人三名だ。マリーナさんとサーシャちゃん姉妹はツキオカ男爵家の屋敷でお二人に紹介済みだからね。

 テレサ様の誘拐事件をここで話すわけにはいかないので、ユーリさんと出会った経緯(いきさつ)については誤魔化したけど、彼女が元・近衛騎士団員であることについては正直に話した。

 なお、エリさんはイザベラの配下ではあるけど、ヴォルザー準男爵家のご令嬢でもある。ハウゼン家の暗部としてではなく、貴族令嬢かつ(ルナーク商会の)商会員としての立場を紹介するに(とど)めたよ。


「君たちが噂の、ゴルドレスタ帝国がニホン国より招いた方々か。お会いできて光栄だ」

 おっと、よくご存知で…。てか、ニホン人情報の拡散は教会によるものだろうか?

 あ、だとしたら俺の『神使(しんし)』という肩書きもすでにご存知なのかも…。

「ツキオカ様が彼らの命を再三に渡ってお救いしたという内容の英雄譚をクロム教会が喧伝(けんでん)しておりますよ。なんでも神使(しんし)であられるとか…」

 くっ、やはりか。ここは全力で誤魔化すしかない。てか、彼らを紹介しつつ話題をずらすことで、神使(しんし)に関する話を有耶無耶(うやむや)にしよう。


「彼は勇者であるタイキ・サガワ君、彼女が聖女のアカリ・ホシノさん、そして賢者のサチ・クロダさんです。三人とも俺の同郷の人間です」

 日本ってだけじゃなく、出身高校も同じだったからね。まさに同郷だ(クロダ先生の出身は知らないけど)。

「「「よろしくお願いします」」」

 三人の声が同時に発せられた。シンクロ率すごいな。


「職業が『勇者』と『聖女』と『賢者』って、すごいですね。ツキオカ様と同郷のお方であるということは、ニッポン国の先進技術に関する知識をお持ちなのでしょうか?」

 エイミーお嬢様の目が輝いているよ。

「ま、まぁな。例えば、空を飛ぶ機械なんかも普通に使われていたよ」

「空を!そ、それはこの国では再現できないものでしょうか?」

「うーん、ジェットエンジンもターボプロップも、いやレシプロエンジンすら無いからなぁ。翼によって揚力を得る仕組みは簡単なんだけど…」

 サガワ君が美少女のエイミーお嬢様と少し照れながら会話していたよ。てか、ホシノさんの目が鋭くなっていることに気づけよ(まさに浮気を咎める妻の視線)。


 アインホールド伯爵様も不思議そうに質問してきた。

「ようりょく?それは鳥や魔獣など、空を飛ぶものが備えている仕組みなのかな?ツキオカ殿も知っているのかい?」

「はい。揚力を得る仕組みは極めて簡単です。『ゲッチンゲン翼型(よくがた)』は難しくても『クラークY』であれば作るのは簡単ですね。ただサガワ君も言っていたように、推進力を得る方法がありません。翼と推進力の二つが揃うことで揚力が発生するのです」

「うーん。難しい単語が多くてよく分からんが、現状で空を飛ぶのは難しいということか。それにしてもニッポン国はすごいな」

 いや、世界最初の動力飛行を(おこな)ったのはライト兄弟であって、日本人ではありませんけどね。

 あ、でも自作の飛行機で飛距離を競う大会(てか、テレビ番組)では、足でペダルを漕いでプロペラを回す飛行機もあったよな。ああいうのだったら作れなくもないのか?


「師匠はやっぱすげぇな。その『くらーく』ってのはどういうやつなんだ?」

翼型(よくがた)の一つで『クラーク(ワイ)』な。こういう断面になっているから、作りやすいんだよ」

 俺はメモ用紙にちょこちょこっと翼の断面図を描いてあげた。細長い水滴型の下面が()(たいら)になっているやつだ。

「お兄ちゃん、大学は何の学部だったの?そんなことをなぜ知ってるの?」

「いや、小学生の頃、ラジコン飛行機を自分で作っていたからな。バルサ材なんかで…」

 この世界でも模型のグライダーくらいなら作れそうだけどね。やはり一番の問題は推進装置(エンジン)だよな~。


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