278 断罪劇②
「その『指南役』なる者の名前と、指示の詳細を教えていただきましょうか」
俺の質問に課税徴収部長が苦しげな表情になった。
「顔も名も知らん。指示は全て手紙によるものだったからな」
「横領の金額は莫大なものになると思いますが、あなたがたは不正な金を全く受け取っていないと?」
「い、いや…、それは…」
「【闇魔法】による尋問を行っても良いのですよ?」
観念したのか、課税徴収部長は不正の詳細を素直に語り始めた。確信は持てないが、おそらく本当のことだと思う。
「儂らは全員月々20万ベルを受け取っておるよ。ほぼ10か月だから総額でも200万ベルぽっちだがな」
「ふむ、それでも10人分で2000万ベルですか。横領の総額は、累計で1億ベルを優に超えると思うのですがね」
そのほとんど(8割以上)は『指南役』に渡っているということか。
というか、『200万ベルぽっち』と言うけど、なかなかの不正収入だからね。普通の人が一年間は十分に生活できるほどの金額だよ。
アンナさんが俺に言った。
「サトルさん、『指南役』の正体は誰なのでしょう?この者らを尋問しても、埒が明かない可能性が高いようですが…」
「ですね。姿の見えない犯人か…。まさに黒幕ですね」
ここで突然、離れて座っていたナナが俺に話しかけてきた。
「ねぇ、その『指南役』からの手紙があれば、お兄ちゃんの持つスキルで誰が書いたのか調べられるんじゃない?」
…って、そんなスキルなんて持ってねぇよ。ん?いや、なるほど。そういうことか。
多分、ナナが疑っているのは行政長官だろうな。彼を罠に嵌めようってか?
俺自身は行政長官のことを疑っていないんだけど、とりあえずはナナの嘘に乗っかってみた。
「あぁ、ナナ。確かにそうだな。テオドールさん、その『指南役』からの手紙ってまだお持ちですか?」
「もちろん、儂の机の鍵付きの引き出しに入れて厳重に保管しておるよ。いざというときのためにな」
「でしたら、その手紙を持ってきてもらえますか?その手紙さえあれば、すぐに『指南役』が誰なのか判明するでしょう。サリーとユーリさん、二人は彼に同行していただけますか?」
「お安い御用だよ」
「畏まりました」
縛られたままの課税徴収部長、そしてサリーとユーリさんの三人が長官公室から退室した。実はもう一人、この場からいなくなっていた人物がいたんだけど、誰一人として気づいていなかった(てか、俺も気づかなかったよ)。
・・・
10分から20分くらいは経っただろうか。
部屋を出ていた三人が戻ってきた。いや、なぜか四人だった。課税徴収部長、サリー、ユーリさんに加えて、行政長官の女性秘書さんがサリーによって片腕を拘束されていたのだ。
「これはどういうことだ?」
俺の質問にはサリーが返答した。
「手紙の束を鍵付きの引き出しから取り出して、いったんは無造作に机の上に置いといたんだよ。んで、全員が机から少し離れた位置に立って、何か話し込んでるフリをしたんだ。要するに、わざと隙を作ったってわけ」
おぉ、さすがはサリーだよ。何も指示していないのに、ナナと俺の意図を汲んでくれたんだな。まじで素晴らしい!
「こっそりとその机に近づいて手紙を奪取しようとした彼女を捕まえたってわけさ。きっと行政長官の命令じゃないかな?」
続けて発せられたサリーの言葉に顔色を変える行政長官。
「わ、私は知らんぞ。何も命令してないし、この横領事件に関与してもいない」
ふむ。それはこの秘書さんを尋問していけば分かることだろう。
「あーあ、バレてしまいましたね。でも最大の目的は達成しましたから、私は満足です。あ、こいつらに配分した以外の横領した金については、全てお返しします。もはや金があっても何も意味がありませんから…」
この言葉がどういう意味なのか、それはこのあとの秘書さんへの尋問によって明らかになったのだった。




