275 横領グループ
俺はイザベラとエリさんを除く全員に事情(行政府側の対応)を説明し、今日発ったばかりの宿屋へと戻った。
宿の人は驚いていたようだけど、その反面ちょっと嬉しそうだったよ。ちなみに、(あくまでも現時点での話だけど)俺たち以外の今日の宿泊客はいないそうだ。これからチェックインしてくる旅人は(もしかしたら)いるかもしれないけどね。
なお、宿泊料金についてだけど、事前に客から質問された場合は答えるものの、聞かれなければ教えないようにと行政府から指導(てか、実質的には命令)されているってさ。酷い話だ。
宿の人も少し投げやりになっているのか、俺たちには割とぶっちゃけてくれているのが面白い。てか、ありがたい。
出立の予定が足止めをくらってしまい、丸一日分の時間が空いてしまった。なので、宿でまったりする者、連れ立って買い物に出かける者等、それぞれが自由にすごしている。
もっとも、イザベラと俺は宿屋で待機だ(エリさんからの連絡待ち)。
あ、宿屋の食事は夕食と朝食付きなんだけど、サービスで昼食を出してくれたのはこの宿屋の良心ってやつだろうか。なにしろ今日の宿泊分についても260万ベルの支払いになるからね。
魔道具談義をしながらイザベラと待っていると、夕刻にはエリさんが戻ってきた。
「お嬢様、サトル様。ただいま戻りました。早速ですが調査結果をご報告申し上げます。まずは…」
エリさんが行政府で調べた内容をまとめると以下の通り。
・もともとハウゼン侯爵領では税率が高く、領民は苦しい生活を余儀なくされていた。
・疲弊した農村の復活等、この領の立て直しには資金が必要。そのため、税率を上げて税収を増やしたいところだが、これ以上の増税は難しい。
・ハウゼン家の資産を全て差し押さえたが、それほど多くの資産は残っていなかった(要するに、かなりの額が浪費されていたらしい)。
・領都ラドハウゼンには金を落としていた(つまり、無駄遣いしていた)ので、商人たちは肥え太っていると思われる。
・ならば、商家への増税によって税収を確保しようと考えた。
…と、ここまでは行政府の判断としては妥当だ。俺もここまでだったら理解できる。
ところが…。
・この領都ラドハウゼンの位置は、王都への中継地点として極めて重要であり、旅人(行商人)も多く通過する。
・数多ある宿屋への増税措置は当然として、それ以外に各宿屋へ(宿泊客一人当たりの)人頭税を課す(ただし一律ではなく、宿屋のランクによって額は変動)。
・これが行政府へ納税されるものなら問題ないのだが、実際は行政府の中に存在するとあるグループ(横領グループ)へ件の人頭税のみを集約する仕組みが作られている。
・横領グループのリーダーは課税徴収部長、メンバーには調査部や総務部等、色々な部署の人間が部門横断的に所属しているらしい(どういう繋がりなのかは不明)。
・さすがに横領金額の総額と横領グループメンバーの全員については、時間が無くて調べきれていない。
なるほどねぇ。今回の増税のタイミングに合わせて、いかにもその一環であるかのように実際には認可されていない課税制度をぶっこんできたわけか。
しかも横領グループのリーダーが課税徴収部長だったら、絶対に発覚しないじゃん。
「エリさん。申し訳ないんですが、引き続き詳細な調査と断罪するための証拠集めをお願いできますか?」
「はっ、お任せください。ただ、日数はそれなりにかかるかと思われますが…」
それは仕方ないだろうね。元々この旅は仕事ってわけじゃないし、途中のトラブルで足止めされるのは想定内だよ。
イザベラが真面目な表情で言った。
「五泊もしたら1300万ベルにもなるし、十泊では2600万ベルだぞ。エリ、できるだけ早く頼むな」
「お嬢様、承知致しました。明日中にはなんとか目途をつけたいと思います」
エリさんのその言葉に嘘は無かった。
翌日の夕食時には(宿泊業に関する)過去の納税書類等が宿へと持ち込まれ、【会計】スキルを持つマリーナさんによってその犯罪行為(不正な金の流れ)が明らかにされたのだった。
・・・
結局、この宿屋には三泊した。
この街へ来て四日目、今度こそ本当にチェックアウトした俺たちは、三台の馬車を連ねて行政府を目指し出発した。
さぁ、断罪の時間だ。犯罪者ども、首を洗って待ってろよ。




