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273 社員旅行

 アインホールド伯爵領への旅行を計画し、出発したのはそれから二週間後のことだった(ニホン人たちやイザベラの都合を考慮したので、ちょっと調整に時間がかかった)。

 現在はその旅路の途中である。


 王都を()ってから、すでに三日目だ。俺たち一行は旧ハウゼン侯爵領の領都ラドハウゼンに到着した。

 なお、すでにここってハウゼン領では無いんだけど、街の名前については変更されていなかったよ。きっと面倒だったのだろう。


 ちなみに、今回の旅における一行の編成は次の通りだ。


【一号車】(ルナーク商会所有の箱馬車)

・御者:俺

・同乗者:イザベラ・エリさん・ナナ・サガワ君(勇者)


【二号車】(うちの幌馬車)

・御者:オーレリーちゃん

・同乗者:アンナさん・サリー・ホシノさん(聖女)


【三号車】(ルナーク商会所有の幌馬車)

・御者:サーシャちゃん

・同乗者:マリーナさん・ユーリさん・クロダ先生(賢者)


 総勢13名の大所帯だ。

 戦闘力について期待できないのは、オーレリーちゃん、ホシノさん、マリーナさん、クロダ先生の四人だけ。それ以外の九人は武術・魔法・魔道武器の違いはあるけど、十分な戦闘力を持っているよ(サガワ君、ホシノさん、クロダ先生の三名は魔道武器免許を取得したものの、まだ魔道武器自体は所持していないのだ)。

 弱い魔獣や小規模な盗賊団だったら楽勝な感じの戦力だよ(いや、過剰戦力かも…)。


 ラドハウゼンの街の門を通過したあと、俺はイザベラに言った。

「イザベラ、君の故郷だよな。懐かしいんじゃないか?」

「いやいや、私を誰だと思ってるんだ?侯爵令嬢が屋敷の外へほいほい出掛けたりはしないぞ。だから街並みを見ても別に感慨は()かないな」

 なるほど。まさに箱入りってか?

「だったら街の人たちにも気づかれることは無さそうだな。なぁ、元・ハウゼン家の人間ってことは隠しておいたほうが良いんだよな?」

「まぁな~。私の父親は良い領主とは言い(がた)かったし、無用なトラブルを避けるためにも秘密にしておいてくれたまえ」

 御者席に並んで座っているイザベラと俺がそういう会話をしているうちに、今日宿泊する予定の宿屋へと到着した。予約無しだけど、13人くらいは問題なく泊まれそうな割と大きな宿屋だった。ちなみに、案内してくれたのはエリさんだ。


「お兄ちゃん、なかなか良い宿屋だね。ちょっと高そうなところだけど」

 ナナのやつ、(いま)だに貧乏人気質が抜けないようだな。少しは男爵家のご令嬢という自覚を持ってくれよ。

「ナナ様。こちらの宿ですが、一泊二食付きでお一人様5万ベルでございます。一年前の情報ではありますが…」

 エリさんが宿泊料金を教えてくれた。…って、(たか)っ!めっちゃ高級宿じゃん(…って、俺も貧乏人気質が抜けてないっぽい)。


「師匠、ここまでって弱い魔獣すら出てこなかったから腕がなまりそうだよ。剣を振れるような場所ってあるかな?」

「サガワ様。この宿にはそこそこ広い中庭がございますので、そこで訓練することは可能でしょう。宿の人に許可を取る必要はありますが…」

 サガワ君の質問にもエリさんが答えてくれた。詳しいな。

「ユーリさんに頼んで胸を貸してもらえば良いと思うよ。あ、タイキ君。『胸を貸す』と言ってもエッチな話じゃないからね」

 ナナの発言に一瞬で顔を真っ赤に染めたサガワ君だった。純情かよ。

 てか、ナナって元々は一人っ子なんだけど、サガワ君のことを弟のように可愛がっている(いや、からかっていると言うべきか)。可愛いお姉さんに(いじ)られて、サガワ君も満更(まんざら)でもないって様子だけどね。


 ・・・


 事件は翌朝発生した。いや、事件ってほどのものじゃないんだけど(単なるトラブルとも言える)。

 てか、俺の行くところ何らかの事件が発生するのは何故(なぜ)なんだ?


 実は、宿屋をチェックアウトする際の宿泊費精算時に、フロントの人間と一悶着(ひともんちゃく)あったのだ。

「一人20万ベルで、13名分が260万ベルってのはどういうことだ?どう考えてもぼったくりだろ?」

 イザベラが激昂して宿屋の従業員に食ってかかっていた。

「こちら料金表になります。当方では一年前よりこの料金で営業致しておりますが…」

 ハウゼン侯爵領から王室直轄地になったタイミングで料金改定したってことか。それにしても高過ぎるとは思うけどな。

 なぜか宿屋の人も申し訳なさそうにしてたけど…。


 これを聞いて、エリさんがめっちゃ恐縮していた。

「お嬢様、申し訳ありません。私の情報収集不足でした。まさか宿泊費が四倍にも上がっていたとは…」

「値上げには理由があるのではないですか?」

 俺の質問に口ごもっている宿屋の従業員。


 ただ、しばらく(言うべきか言わざるべきかを)葛藤した様子だったけど、結局は人目をはばかるように小声で教えてくれた。

「お客様、申し訳ありません。行政府からの指導なのです。ちなみに、値上げ分は全て税金として徴収されるため、当方としましては利益が増大しているわけではありません。いえ、かえって売上高が減少しているため、それに伴い純利益も減っているのが現状でございます」

 え?どういうこと?

 この地は王室の直轄だから、優秀な官僚チームが派遣されていたはずだよな。で、公正に統治されているんじゃなかったのか?

 国王陛下はこのことをご存知なのだろうか?


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