270 密談
陛下とグロリア様、あとイザベラと俺の四人は先ほどの応接室へと戻った。色々と密談が必要なのだ。
あ、イーサ砲については献上品ではないので、俺の【アイテムボックス】内へ再度格納した。その際、グロリア様から凝視されたけどね(陛下が一緒にいたせいか、その件で話しかけてくることはなかったけど…)。
「よし、それではこれよりイーサ砲に関する会議を始める。全員、忌憚のない意見を望むものである」
応接室にて、そう第一声を放ったのは国王陛下だった。
「まずは改良の余地があるかどうかを確認しよう。宮廷魔術師長、そちはどう思う?」
「そうですね。一発撃つごとにレバーを引くという動作が必要な点を改善できないものでしょうか?」
グロリア様がこめかみに右手の人差し指を当て、少しだけ首を傾げながら発言した。的確な意見だな。
「ツキオカ男爵、どうだ?」
「はい。回転レバーを設けて、それを発射スイッチとコッキングレバーに連動させます。あとはそのレバーを手動で回転させることにより、弾丸を連続発射するような機構を作ることは可能です」
うん、できるはず…。あくまでも機械的な仕組みだからね。
「ふむ、しかしそれでは正確に狙いをつけることが難しくなるのではないか?弾を広範囲にばらまく用途であれば問題ないが…」
想像だけでこうした問題点を指摘できる陛下は大したものだよ。てか、ご指摘の通りです。
「余としては現状の仕様のほうが好みであるな。まぁ、回転レバーによる連続発射を好む者もいるであろうが」
陛下の射撃術があればそうだろうね。
「とりあえず量産を急ぐのであれば、現状の『AC-2010R』が最適でございます。こちらは生産性にも配慮した設計になっておりますので…」
そうなのだ。基本的に砲身や砲架、砲弾に至るまで鋳造品だからね。砲身へのライフリングが少し手間なだけだ。
何気に弾倉が製造に最も手間のかかる部分かもしれない。
「うむ。では月産製造台数の見込みは?」
この質問にはイザベラが回答した。
「はい。現状のルナーク商会の生産体制においては、月に1台を製造できるかどうかというところでございます。工場の拡張もしくは別の工場を建てない限り、如何ともしがたいというのが現状です」
ここで俺は陛下に一つ提案してみた。
「民間業者に頼るのではなく、王立の兵器工場を建設されてはいかがでしょう?」
これにイザベラも乗っかってきた。
「ニッポン国ではオオサカという地に『大阪造兵工廠』という国営の施設があり、かつてはそこで砲や弾丸を製造しておりました。もっとも、戦争に負けたため、今は存在しておりませんが…」
…って、詳しいな。あ、戦争ってのは太平洋戦争のことね。
「イーサ砲や砲弾だけでなく、それを搭載した装甲馬車もその『王立造兵工廠』で一緒に製造してはいかがでしょう?初期投資は大きくなりますが、長い目で見れば安く済むものと愚考致します」
俺も援護射撃しておこう。てか、こういう国防に関する案件は、国営でやるのが一番だと思うよ。
「勝手に国で作っても良いと申すか?」
「はい。権利料や発明者褒賞なども不要でございます。それはイザベラ嬢も同様かと」
「ルナーク商会としてもそれで問題ありません。商会長の兄に成り代わり、確約申し上げます」
イザベラも兵器の量産はしたくないみたいだね。俺もだけど…。
いや、だったら発明すんなよ…って言われそうだけど、こういうのって技術的検証自体が楽しいんだよな(おそらくイザベラも同じ気持ちなんだと思う)。
「うむ、分かった。それでは王宮の主要閣僚とも相談の上、その『王立造兵工廠』なるものを新設できるよう、検討を始めることとしよう。ただし秘密を守るため、『魔道基板』だけはツキオカ男爵に頼んでも良いか?」
「はっ。もちろん、ご用意させていただきます」
それくらいは全く手間じゃないし、【細工】のスキルレベルを上げる訓練にもなるからね。無償でも良いくらいだよ。
陛下の思惑としては、それこそが俺への褒賞なのかもしれないけどね。
ここで宮廷魔術師長であるグロリア様が俺に質問してきた。
「なぁ、ツキオカ男爵よ。ゼロ距離設定を他の攻撃魔法で試してみたかね?例えば【火魔法】の【ファイアアロー】や【水魔法】の【ウォーターカッター】で…」
「いえ、初めて試したのが【風魔法】の【ウインドブラスト】でして、それ以外は未検証ですね」
「ならば、初級魔法だけでも一通り検証しておきたいところだな。攻撃魔法限定で良いからさ」
陛下も興味をそそられたようだ。
「うむ、余もそれは気になるな。予算は国から出す故、実験結果を報告書として提出してもらえるか?」
「はい。仰せのままに」
まぁ、俺も気になるっちゃ気になるからね。
金を出してくれるというのなら、願ったりかなったりですよ。




