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267 陛下へのお披露目①

 ミュラー公爵が(テレサお嬢様や侍女のローリーさんと一緒に)ご領地へ向かったのは昨年の秋頃のことだった。なので、現状王宮への伝手(つて)が無い。

 公爵閣下が再び王都へやってくるのは今年の春先なんだけど、その前に『イーサ(キャノン)』のことを国王陛下へ伝えておきたいと思っているのだ。

 俺は、ダメもとで陛下への拝謁申請を提出してみた。ところが驚いたことに、申請の三日後には拝謁が実現したのだ。ちなみに、イザベラも一緒だ。高位貴族ならまだしも、男爵位程度でこの対応は極めて異例なことらしい。

 高度な機密性(セキュリティ)が必要な案件であることを事前に伝えていたので、謁見の()ではなく応接室(以前、通信魔道具に関する話をした部屋)での拝謁となった。


「ツキオカ男爵、イザベラ嬢、久しいな。また内密の話があるとのことだが、今度は何だろうか?実はかなり楽しみにしていたのだよ」

 ずらっと貴族たちが居並ぶ謁見の()での発言ではないため、ざっくばらんな口調で表情も柔和な感じだった。一国の国王陛下だというのに親しみやすさを感じるよ。

「はい。ここにいるイザベラ嬢と共同で、新たな魔道具を開発したことをご報告申し上げます。実は…」

 ここから『イーサ(キャノン)』の諸元について、詳細に報告していった。


・型式名 :AC-2010R

・使用魔法:【風魔法】初級の【ウインドブラスト】

・砲身長 :1m

・砲口径 :20mm

・砲種別 :ライフル砲

・弾丸重量:50g

・最大射程:不明(目安は1km程度)

・装弾数 :10発

・架台形式:三脚

・特記事項:弾倉(マガジン)及び魔石カートリッジについては交換可能

・愛称  :イーサ(キャノン)


「鋼鉄製の大盾を貫通するほどの威力はございませんが、それでもAランク魔獣を一撃で(ほふ)るくらいの威力はあるはずです。魔獣相手の実戦はこれからですので、あくまでも推測ですが…」

「ほう。それは一度使っているところをこの目で見てみたいものよな。宮廷魔術師の魔法訓練場…、いやそこでは狭いな。騎士団が使う訓練場のほうが良いか。一辺が500m四方ゆえ、対角線を使えば700mの距離で実験できるぞ。今日は実物を持ってきておらぬのか?」

「いえ、持参しておりますので、お時間があればご覧いただくことも可能でございます」

 陛下は部屋の片隅に控えていた侍従を呼んで、訓練場の手配(てか、騎士団への連絡と人払い)を(おこな)うように申し付けていた。ところで、陛下ご自身の(国王陛下としての)仕事は大丈夫なのだろうか?


「よし。それでは一緒に向かおうではないか。くくっ、楽しみで仕方ないわ」

 通信魔道具のときにも思ったんだけど、我が国の国王陛下って割と好奇心旺盛だよね。楽しそうで何よりです。

 10分ほど歩いて向かった先は第一及び第二騎士団が使用している戦闘訓練場だった。近衛騎士団用の訓練場はまた別の場所にあるらしい。

 すでに侍従によって手配されていたのか、訓練場の四つの(かど)の一つに左から木製の(まと)、鋼鉄製の大盾、鉄製の(まと)が準備されていた。できる侍従さんだな。

 俺は、(まと)とは反対側の対角線上にある(かど)の位置に、【アイテムボックス】から取り出したイーサ(キャノン)を設置した。固定方法だけど、三脚のそれぞれの脚に(くさび)を打ち込む方式だ。三つの(くさび)をハンマーで叩いて土の地面に打ち込むってわけ。


 ちなみに、いきなり何も無い所からイーサ(キャノン)を取り出した俺に陛下が胡乱(うろん)な視線を向けてきたけど、特に何もおっしゃらなかった。

 すでに弾倉(マガジン)や魔石カートリッジはセットされているので、コッキングレバーを引いて弾丸を砲身内へと装填する。

 砲身の先端には直径10cmの鉄の輪が取り付けられていて、輪の中には細い鉄棒が十字に交差している(薩摩島津家の家紋みたいな形状)。この十字の中心を目標に合わせることで狙いをつけるのだ。


「準備完了致しましたので、これより発射します。まずは左端の木製の(まと)を狙います。発射!」

 (まと)までの距離は約600mほどだと思うのだが、時折吹いている横風の影響か、命中しなかった。

「わずかに右へ修正」

 望遠鏡を覗いていたイザベラが修正諸元を俺に指示した。コッキングレバーを引いて次弾を装填したあと、先ほどよりも気持ち右のほうへ砲身を向けて発射した。

「命中!一撃で破壊しました」

 イザベラの声も嬉しそうだ。


 国王陛下も侍従から手渡された望遠鏡を使って(まと)のほうを確認していたみたいだけど、命中の瞬間、なんか(うめ)いていた。

「次いで、右端の鉄製の(まと)を狙います。発射!」

 今度は初弾命中だ。風の影響をすでに把握しているからね。

 貫通こそしなかったけど、地面に固定していなかったため(支柱が自立していただけなので)、命中の衝撃で(まと)自体がゆっくりと後方へと倒れていった。


「最後は中央の大盾を狙います」

 大盾は地面と垂直に立てて、岩と土で簡単に固定しただけのものだ。

 最初の命中弾ですでにグラグラと揺れていて、吹っ飛んだのは3発目の命中弾によるものだ。

 結局トータルで6発を発射したことになる。


 俺は国王陛下に提案した。

「弾倉内には残り4発がございますので、よろしければお撃ちになってみませんか?」

 不敬かな?いや、絶対に撃ってみたいと思っているはずだ、この国王陛下であれば…。


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