265 攻撃魔法のゼロ距離発動②
俺はイザベラにも空気砲の構想を話して、鍛冶師のオウカさんの協力を得ることにした。俺自身は大砲なんて作れないので…。
とりあえず実験用として、直径3cmの鉄球を発射する尾栓付き砲身を鋳造で製作してもらった(いわゆる、鋳造砲だ)。もちろん、砲弾となる鉄球もね。
あと簡易な砲架も鉄で作ってもらい、しっかりと地面に固定できるようにしてもらった。
尾栓部分に取り付ける『魔道基板』については俺のほうで用意し、オウカさんに渡して取り付けてもらったんだけど、『魔石ケース』や『魔道スイッチ』なんかの配線は俺のほうで行った。つまり、この実験機材って、俺とオウカさんの合作ってことだな。
あ、ちなみに砲身は滑腔砲で施条は切っていない。砲弾を細長い形状にした場合はライフリング加工を施したほうが良いだろうけどね。
ちなみに、鉄球の重さは約110gだ。
王都郊外に作られた射撃実験場は、ルナーク商会の名義と資金で購入されたかなり広い土地だ。俺も金を出すって言ったんだけど、イザベラに断られてしまったよ。
もちろん、空気砲の実験機材の製作費用については出資しているけどね。
今この射撃実験場にはイザベラ、エリさん、オウカさん、俺の四人が来ている。
今から初の実験、てか実射なのだ。
「サトル君、楽しみだな。これがうまくいけばドラゴンですら簡単に倒せるようになるかもしれないぞ」
いや、さすがにドラゴンは難しいのでは?まぁ、初速がどれくらい出るかにもよるだろうけど…。
「オウカさん、砲架の固定は大丈夫ですかね?」
「はい、いつでも発射できるっす。ツキオカさんがスイッチを入れるっすか?」
「ええ、爆発することはないでしょうけど、なにかしらの危険性があるかもしれませんからね」
すでに鉄球は装填されていて、尾栓もしっかりと閉じてロックされている。いつでも発射可能だよ。
「皆さん、少し離れていてくださいね。…それでは撃ちます。発射!」
俺は周囲の安全を確認してから、魔道スイッチをオンにした。
ポスっという気の抜ける音がしただけで、普通の大砲のように轟音が鳴り響いたわけじゃない。
えっと、発射されたのかな?反動も砲架によって吸収されたのか、砲身自体は微動だにしなかったよ。
ところが、望遠鏡を使って鉄製の的のほうを確認していたイザベラが、興奮した声でこう言った。
「すごい!的を吹っ飛ばしたぞ」
照準をつけていた的は空気砲から100mほど先だったのだが、直接照準で撃ち抜いたらしい。
「イザベラ、時間は計測できたかい?」
「いや、無理だな。砲弾の到達まで一瞬だったから計測できなかった。これは的の位置を100mなんて近い距離じゃなく、もっと遠くにしたほうが良いかもしれん」
このあと、的を500m先と1km先にして実験してみた。どちらも平射(直接照準)で狙いをつけたのだが、さすがに1km先ともなると微妙に照準を調整しないと命中しなかった。おそらく風の影響も受けているのだろう。
…で、これにより砲弾の到達時間を計測し、その速度を計算してみた。
初速度を求める公式なんて覚えてないけど、単純に距離と時間だけで考えれば、速度は約700m/秒だったよ。
砲弾は110gなので、運動エネルギーは約27kJってことかな?
運動エネルギー(J)は、速度(m/秒)の二乗に質量(kg)を掛けて2で割ったものなので…。
…ってことは、砲弾のサイズを大きくすることで質量が増大した場合、それだけ飛翔速度も遅くなるってことか…。
実験した直径3cmの鉄球の倍のサイズである直径6cmでは、砲弾重量は8倍(約880g)になる。この場合、速度は250m/秒くらいになるのだろうか?
逆に直径2cm(質量は約30g)にすると、速度は1300m/秒くらいになるのかもしれないね。実験してみないと分からないけど…。
「サトル君、次は直径30mmの鉄球ではなく、20mm口径で先細りになった円筒形の砲弾にして実験してみよう。もちろん、砲身内部にライフリングも刻んでな」
「そうだな。直進安定性を考えるとライフリングは必要だよな。オウカさん、お願いできますか?」
「その『らいふり?』ってのが何なのかよく分からないっすけど、まぁ大丈夫だと思うっすよ」
ドワーフ族の鍛冶師で見た目がロリっ娘なオウカさんが、首を捻りつつ答えてくれた。そして、その言葉に違わず、後日実験機材の二号機が完成したのだった。




