260 魔道武器の勉強会
ゴルドレスタ帝国との国境まで往復するのに一か月、さらに王都へ戻ってきてからの経過日数もすでに一か月になる。
王都を発つ前に注文していた『魔道ライフル』が、ついに屋敷に納品されてきた。
イザベラの『魔道ライフル』を作った業者に全く同じデザインで発注したため、(すでに設計図が存在したためなのか)一台あたり800万ベルで購入できた。二台を同時に頼んだのも割引された理由かもしれない。
予算2000万ベルだったのが、二台で1600万ベルになったのだ。ただ、値引きしてもらった分、魔石カートリッジを追加で作ってもらったから総額はそれほど変わらなかったけど…。
表通りからは見えないように屋敷の裏庭に作った魔法訓練場で、納品された『魔道ライフル』の試し撃ちを行うサリーと俺。
アンナさんやナナも興味深げな様子で、見物人として参加している。
木製の的までの距離は30mくらいしかないため、中級魔法の【ストーンライフル】を発動する『魔道ライフル』にとっては割と近距離であると言える。
あ、ちなみに鋼鉄製の的もあるんだけど、貫通せずに跳弾したら怖いので、確実に貫通する木製にしている。
ストックを肩にあて、照星と照門を一致させる。
安全装置を解除し、ゆっくりと引き鉄を引いた瞬間、【ストーンライフル】の魔法が発動した。
目視することもできないくらいの速度で発射された弾丸は、狙い過たず木製の的を粉砕した。ただ、的のどこに当たったのかまでは分からなかったよ。
「うーん、やはり確実に魔法が発動するというのは良いな。しかもこれって中級魔法だからね」
俺の横で同じように試し撃ちしていたサリーも、満足そうかつ愛おしそうに『魔道ライフル』を撫でていた。
「お兄ちゃんさぁ、私も免許を取りたくなっちゃったよ。講習会には参加せず、試験だけを受けても良いんだよね?」
「ああ、できるぞ。ただし、その場合の合格率は約10%らしいけどな。講習会を受講してからなら6~7割は合格するみたいだから、免許を取るなら講習会も受けろよ」
日本で言えば自動車学校みたいなものかな。魔道武器所持免許の試験において、実技試験が免除になるのだ。
「いや、実技も法令もお兄ちゃんが教えてくれれば良いじゃん。テキストもあるんだしさぁ」
アンナさんも便乗してきた。
「そうですね。この屋敷で勉強会を行うというのはどうでしょう?講師はサトルさんとサリーで、希望者は全員参加できるようにしては?実は私も教わりたいです」
おぉ、アンナさんがそう言うなら、やっても良いかな。
なお、本来の講習会(警吏本部主催)は毎月一回決まった日程で実施されているんだけど、試験だけであれば警吏本部でいつでも受験できるのだ。ただ、不合格になった場合、次の受験は一か月以上経っていないとダメらしいので、かなり勉強して自信がついてから受けるべきだろう。
逆に、警吏本部主催の講習会に参加するのが、免許取得への一番の早道なのかもしれないけどね(たったの三日間だし…)。
・・・
日本人たちの面倒を見るというのは、(実際は王宮からの命令だけど)冒険者ギルド『エベロン支部』からの指名依頼になっている。なので、魔獣討伐や護衛等、通常の冒険者としての活動についてはほとんどやっていない。
それでも、たまに入る『暁の銀翼』への指名依頼(そのほとんどがルナーク商会からの依頼だけど…)を受けることもあるんだけど、それはめったにあるものではない。
何が言いたいのかというと、要するにそこそこ暇なのだ。お世話すべき日本人たちは週に二日しかうちに来ないし、それ以外(週五日)は王宮から出ないからね(警備の問題もあるので…)。
なので、(アンナさんも言っていた)魔道武器の勉強会をうちの屋敷の中で開催することにしたよ。ただ、サガワ君とクロダ先生も勉強会への参加を申し出たため、その都合に合わせるような日程でね。
裏庭でサガワ君とクロダ先生が『魔道ライフル』をいじりながら発言した。
「師匠~、エアガンとは迫力が違うっすね。まさに本物の銃って感じっす」
「ツキオカさん、これって思ってたより重いですね。鉄の塊じゃないですか」
ストック部分は木製だけど、それ以外は鉄製だからなぁ。プラスチックのような軽くて強度もある樹脂みたいなやつが存在しないから、多少重くなるのは仕方ないのだ。アルミニウムやジュラルミンも無いしね。
ちなみに、ホシノさんも屋敷へは来ているし、勉強会にも参加しているんだけど、受験する気は無いそうだ。要は、サガワ君やクロダ先生の付き添いってことだな。
あ、そうそう。勉強会の参加者だけど、日本人たち以外にはアンナさんとナナ、それにサーシャちゃんが参加している。
オーレリーちゃんは馬たちの世話や庭いじりをしているし、ユーリさんは屋敷の警備だ。マリーナさんはそもそも好戦的な性格ではないから、魔道武器にも興味は無いらしい。
「サトル、この『魔道ライフル』って、さらに追加発注するの?」
サリーが心配そうに質問してきた。免許保持者が増えた場合、自分専用の機材ってわけにはいかなくなるからね。
「心配しなくても免許を取った人数分だけ、魔道武器も揃えておくつもりだぞ。この『魔道ライフル』と同じ設計とは限らないけどな」
そう、【土魔法】とは別の属性で、デザインも変えたものを作りたいんだよね。自分で作るか業者に作ってもらうかは分からないけど…。
サリーも安心したように微笑んでいた。
「ねぇお兄ちゃん。ライフルスコープやレーザーサイトって作れないの?それができれば、長物である必要は無いよね。ハンドガンなんかも作れそうじゃない?」
魔道武器が長物、つまりライフル銃の形状である理由は照準の問題なんだよな。照星と照門の距離が長いほど命中精度が高くなるからね。
ちなみに、ライフルスコープは光学系の機器なので作れそうではあるけれど、レーザーサイトはさすがに難しいだろうな。
てか、ナナのやつ、何気に詳しいな。前世でサバイバルゲームでもやってたのか?




