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257 毒混入事件②

 とりあえず目についた人を【鑑定】しまくって、『職業』欄に『クロムエスタ神国諜報部員』(もしくは()の国の関係者)と表示されている人物がいないかを確認している俺。

 そうこうしているうちに客席のほうも落ち着いたようだ。これは聖女であるホシノさんやオーレリーちゃんの活躍による。


 このあとすぐに、警吏の制服を着た人間が5~6人ほど食堂内へ入ってきた。

「料理に混入された毒物によって無差別の殺人未遂事件が発生したとの通報があった。誰かこの状況を説明できる者はいるか?」

 俺は冒険者カードを提示しながらこう言った。

「Cランク冒険者のサトルと申します。俺の仲間が解毒の魔法でここにいる全員を治療しましたので、幸いなことに死者は発生しておりません。毒は厨房内にあるスープの寸胴鍋に混入されたようです。ただ、(いま)だ犯人は見つかっておりません」

「冒険者だと?胡散臭(うさんくさ)い奴め。まぁ良い。客も宿屋の従業員もここにいる全員が容疑者だ。お前たちも含めてな」

 激昂したナナを片手で押し(とど)め、俺は大人しく彼らの指示に従うことにした。警吏の人はこれが仕事だからね。


 しかし、俺の身分がバレたのはこのあとすぐのことだった。マルクル小隊長が副官と共に宿屋へとやってきたのだ。

「ツキオカ様、ご無事でしたか?」

 警吏の人が戸惑っていた。

「あ、あなたは騎士様のようですが、どちらのご家中(かちゅう)の方でしょうか?」

「王宮第二騎士団第三小隊の小隊長を務めるマルクル・オルテス騎士爵である。また、こちらのお方は冒険者ではあるが、男爵でもあられるサトル・ツキオカ様である。失礼の無いようにな」

 先程の失礼な言動を思い出したのか、だらだらと汗を流し始めた警吏の人に対して、俺は努めて優しくこう言った。

「ゴルドレスタ帝国から来られた国賓(こくひん)の方々を国境までお迎えにあがったのです。俺への無礼は別に気にしませんが、その方々への対応には気を配ってください」

 そう、勇者たちは国賓待遇なのだ。


 警吏の責任者、マルクル小隊長、俺の三人で今後の取り調べ方法などを協議していたのだが、そこへ突然現れた人物に驚かされた。

 両腕を後ろ手に縛られ、猿轡(さるぐつわ)を噛まされた男性を連行してきたのは、今まで姿を消していたエミリおばちゃんだったのだ。

「サトル様、この男はエーベルスタ王国の教会へと派遣されているクロムエスタ神国の上級神官でございます。魔獣召喚の人工遺物(アーティファクト)及びテトロドトキシンを主成分とする毒物を所持しておりましたので、緊急逮捕致しました」

 あれ?聞き覚えのある声だな。エミリおばちゃんの声はガラガラ声だったはずなのに、今は澄んだ美しい声だよ。てか、毎日(通信魔道具経由で)聞いていた声だっつーの。

「エミリさんではなくエリさんでしたか。見事な変装ですね。いえ、どちらが本当の姿なのか分かりませんけど…」

「サトル様が以前ご覧になっていた姿が本当で、こちらは変装です。そもそも私の年齢は、まだ30歳にも到達しておりません!」

 少し食い気味に返答されたよ。そんなところが女性らしくて可愛らしいね。ちょっと親しみを感じる。


「お兄ちゃん、この人があのエリさん?イメージと全く違うんだけど…」

「いや、本当のエリさんはかなりの美人さんだよ。イザベラの忠実なる(しもべ)で、忍者…いや、くノ一なんだよ」

 ナナとの会話はこそこそと小声で(おこな)っていたんだけど、エリさんには聞こえていたようだ。

「サトル様、美人さんとは照れますね。もしや私に気があるのですか?こちらとしては『バッチコーイ』という感じですよ」

 野球部かよ!あとで聞いたらイザベラから教わった言葉だそうだ。いや、それより美人というのは、あくまでも客観的な評価です。てか、『バッチコーイ』って冗談だよね?


 ・・・


 捕縛された男の取り調べは警吏の人に任せて、俺たちは王都への移動を再開することになった。

 それにしても無差別テロを起こすとは、上級神官が聞いて(あき)れるよ。狂信者め。

 で、ここからは特に問題なく(弱い魔獣との遭遇はあったけど騎士団が瞬殺していた)、二週間ほどで王都へと帰着したのだった。


 余談だけど、エリさんは旅の間、ずっとエミリおばちゃんとして過ごしていた。

 そうそう、ミノタウロススカウトにクロスボウの矢を放って転倒させたのは、やはりエリさんだったよ。さすがですね、エリさん。さすエリ!

 あと、俺たちが屋敷へ帰り着いた翌日、イザベラとエリさんが連れ立って遊びに来た。そのとき、仲間たちがエリさんの真の姿を見て驚いていたよ。エミリおばちゃんとの乖離(かいり)がすごすぎて…。


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