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256 毒混入事件①

 国境に最も近い街の宿屋(往路でも宿泊したところ)では、一人部屋を10室ほど予約済みだ。なので、俺たち『暁の銀翼』五名と日本人三名+エミリおばちゃんの泊まる部屋は確保できている。

 あと、第二騎士団第三小隊の副官も宿屋のほうへ一緒に泊まることとなった。ニホン人たちの護衛及び騎士団との連絡係だな。マルクル小隊長以下48名の騎士たちは、街を囲う壁のすぐ外側で野営する(宿屋に部屋の空きが無いため)。


 副官の人と俺たち『暁の銀翼』メンバーは往路ですでに顔見知りになっているんだけど、副官と勇者たちは初対面となる。夕食を()るために宿屋の一階の食堂に集まった際、そこで挨拶を()わしていた。

 ちなみに、副官はまだ若くて、年齢は20代半ばといったところだろうか(所属は第三小隊第五分隊らしい)。


 食堂には10人も座れるような大きなテーブルは無かったので、5人掛けのテーブルを二つ使っている。

 サガワ君(勇者)・ホシノさん(聖女)・クロダ先生(賢者)・エミリおばちゃん・副官の5人が座るテーブルと、アンナさん・サリー・ナナ・オーレリーちゃん・俺の5人に別れているよ。

 ナナが隣のテーブルに聞こえないよう小さな声で俺に言った。もちろん、エーベルスタ語だ(日本語ではなく…)。

「お兄ちゃん、日本人の三人は信用できそうだけど、あのおばさんってどうなの?もちろん【鑑定】したんだよね?」

「ああ、それなんだが、俺には【鑑定】できないんだよ。多分【耐鑑定】のスキルレベルが100以上あるのだと思う。まぁ、帝国政府の手先であることは間違いないけどな」

 これにはナナ以外のメンバーも驚いていた。

 いや、君たち、俺の【耐鑑定】も100だよ。魔装具(マジックアクセサリ)で底上げしてるけど…。


 …っと、ここで突然周囲の客たちの様子がおかしくなった。

 スープを飲むスプーンを取り落としたり、ブルブル震えながら苦しみ始める人が続出したのだ。

 俺たちのテーブルでも俺とナナ以外の三人が苦しみ始めた。隣の勇者たちのテーブルもエミリおばちゃん以外の四人がテーブルに突っ伏していた。

 即座に【鑑定】してみたところ、全員の『状態』が『毒状態(テトロドトキシンによる)』となっていた。…って、いわゆるフグ毒だよ。

 まだ初期症状のようで(しび)れや眩暈(めまい)麻痺(まひ)などの症状が出ているだけのようだが、このまま放っておくと呼吸困難から死に至るだろう。

 なお、俺とナナが無事なのは【状態異常耐性】スキルのおかげだな(おそらくエミリおばちゃんも…)。


 俺はすぐに【光魔法】の【エリアキュア】を発動して、周囲の人たちの毒治療を試みた。これは毒治療のための範囲魔法だ(スラム街でのO-157事件のときにも使用したね)。

 光の効果(エフェクト)が広がっていき、すぐに俺たちのテーブルと勇者たちのテーブル、さらに近くのテーブルの客たちの状態は改善したようだ(【鑑定】による『状態』の表記が『健康』に戻った)。

「ホシノさん、向こうのほうのテーブルの近くで【エリアキュア】をお願いしても良いかな?サリーとオーレリーちゃんは、まだ苦しんでいる人がいたら【レッサーキュア】を頼む。即死するような毒じゃないから、焦らなくても良いよ。ただ、できるだけ早く行動して欲しい」

「分かりましたっ!」「うん、任せてよ」「はい、頑張ります」

 左からホシノさん、サリー、オーレリーちゃんの返答だ。


 このあとの俺の行動としては、原因と思われる厨房に突入するつもりだ。料理に毒を混入させた犯人がまだいるとは思えないけど、念のためね。

「サガワ君はホシノさんの護衛を頼む。クロダ先生は【隠蔽(ハイド)】を発動して隠れていてください。アンナさんはオーレリーちゃんの護衛をお願いします。ナナは俺と一緒に厨房へ行くぞ」

 これで全員への指示が完了した。あ、俺には副官とエミリおばちゃんに対する命令権が無いから、彼らを除いた全員ってことね。

 ちなみに、毒が混入されていたのはスープだった。これはテーブルに並ぶ料理を【鑑定】したことで確定している。


 俺とナナは厨房へ向かって駆け出した。他のメンバーも散り散りになって毒治療を開始している。サガワ君とホシノさんのペア。アンナさんとオーレリーちゃんのペア。サリーだけは単独だ。

 副官は急いで食堂から出ていった。この異変をマルクル小隊長へ伝えるため、街の外へと向かったのだろう。

 ただ、エミリおばちゃんだけは、いつの間にか姿を消していた。まさか彼女が暗殺者だったなんてこと、無いだろうな。いや、まさか…。


 厨房の中はパニックになっていた。おそらく食中毒が発生したとでも思っているのかな?

 厨房に入った俺とナナは見咎(みとが)められることも無く、スープの入った寸胴(ずんどう)鍋の前まで辿(たど)り着いた。【鑑定】してみると、この鍋から毒物の反応が出たから、このスープが原因であることに間違いはない。

「ここの責任者は誰だ?」

 俺の強い言葉に一人の男性が怯えながら手を挙げた。

「わ、私です。ああ、食中毒を出したなんて、もうお(しま)いだ」

 この反応を見る限り、このおじさんが犯人とは考えづらいな。


「厨房の人間以外で、この寸胴鍋に近づいた者はいなかったか?」

「い、いえ。勝手に厨房に入った者はおりません。あ、あなたがた以外は…」

 うーん、だとしたら厨房で働く人間の犯行か?ここには責任者のおじさん(さっき挙手した人)と部下らしき若い男女が四人いるんだけど、この若者たちの中に暗殺者がいるのだろうか?

 いや、ステハイ(【隠密(ステルス)】と【隠蔽(ハイド)】)スキルか【認識阻害】スキルの持ち主が(ひそ)かに厨房内に侵入したという可能性も考えられる。

 とりあえず、彼らへの【闇魔法】を使った尋問は確定だな。

 あ、警吏を呼ぶのを忘れていたよ。副官の人が気を()かせてくれて、警吏への連絡をしていれば良いけどな。


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