254 魔獣襲撃②
Bランク魔獣のミノタウロススカウトが俺たちに気づいたようで、こちらへ向かって駆け寄ってきた。いや、そんな柔らかい表現ではあの迫力は描写できないな。奴はまさに所持しているスキルの通り『突進』してきたのだ。
100m走の世界記録を塗り替えるようなスピードでやってきたそいつは、大盾にぶつかって押し止められた。ゴォーン!という、ものすごい音がしたけどね。
しかも20人の騎士たちで作ったバリケードが少し後方へ移動させられたことから、その運動エネルギーのすごさを実感できるというものだ。
ミノタウロススカウトの角が突き刺さった大盾は、そいつの頭の一振りで空中高く舞い上がった。即座に後方にいた別の騎士が最前線と入れ替わり、再び大盾の障壁を維持したよ。見事な連携だ。
間髪入れず、左右から10騎ずつの騎兵が突撃し、左右同時攻撃を仕掛けた。
ミノタウロススカウトが自身の持っている斧で一方の攻撃を捌いている隙に、もう一方の攻撃がダメージを与えていた。これは楽勝か?
俺たち『暁の銀翼』は、負傷した騎士たちを治癒すべく後方待機となっている。俺とオーレリーちゃんは【光魔法】、サリーは健康銃、アンナさんとナナは治癒ポーションを準備して、いざというときに備えているよ。
ただし、馬を駆る騎兵たちはヒット&アウェイを繰り返していて、決して無理な突撃はしていない。なので、現時点での怪我人は生じていないようだ。
そして騎兵による何度目かの突撃で、ついに剣が奴の心臓を貫いた。勝負ありだな。
…って、結局、俺たちは何もしてないじゃん。
弛緩した空気がこの場に流れた。まさに完全勝利だな。
「マルクル小隊長、さすがですね。見事な連携攻撃でした」
彼らを褒め称えることしか、することがないよ。
・・・
「お兄ちゃん!」「サトルさん!」
ナナとアンナさんの叫び声が同時に聞こえた。
彼女たちの指さす方向には、先ほどと全く同じ光景が現出していた。いや、同じではないな。さっきは一体だったけど、今度は三体だ。
即座に望遠鏡越しの【鑑定】を試みると、微妙にスキルレベルの数値は異なるけど、種別としては先ほどと同じミノタウロススカウトだった。ただし、この三体の【魔法抵抗】スキルは73・87・89だったけどね。
これは中級魔法が抵抗されない確率を計算すると17%・3%・1%ということだ。ただ、上級魔法なら100%ダメージを与えることができる。
俺は20人の騎士たちが作る大盾の障壁の後方に、【土魔法】を使って魔法攻撃の足場となる土台を構築した。高さ2mの土壁とその後ろに1mの土壁、さらにその後ろに50cmの土壁だ(階段状ってことだな)。
1mの土壁の上に立って魔法攻撃を行えるようにしたのだ。
サガワ君とホシノさん、それにクロダ先生もだけど、俺のことを驚愕の表情で見ているよ。まぁ【土魔法】が使えることは言ってなかったからね。
「マルクル小隊長!先ほどと同様の対応をお願いします。今度は俺たちもここから魔法攻撃を行いますので、よろしくです」
続けて、仲間たちへの指示だ。
「アンナさんは『複合魔法』を。サリーとナナは俺たちの背後を警戒。オーレリーちゃんとホシノさんは後方待機で負傷者の治癒を。サガワ君も【火魔法】の中級を頼む」
クロダ先生には戦闘力が無いから、特に指示は出さない。
俺の作った土壁の上には左からサガワ君、アンナさん、俺の順に並んでいる。準備万端だ。
街道の遥か先では、三人の人間らしき姿も確認できたのだが、ミノタウロススカウトによる殺戮劇の対象となっていた。
おそらく自分の魔力を使って魔獣の召喚を行った者たちだろう。
てか、魔獣召喚の人工遺物って、結構な数が出回っているのかな?
三人の召喚主を殺害して興奮状態となったのだろう。鼻息荒く周囲を見回していたミノタウロススカウト三体は、どうやら俺たちにも気づいたようだ。そして、先ほどと同じくこちらへ向かって突進を開始した。
【魔法抵抗】89の個体が中央先頭を走り、その右斜め後ろに【魔法抵抗】73が、左斜め後ろに87の個体が楔型陣形で突進してきている。つまり、こちらから見ると左から73・89・87ってことだな。
角を突き出し、頭を下げた前傾姿勢で突進してくるミノタウロススカウトたち。
奴らの目線は下を向いているため、閃光銃による目潰しは難しいかな?
俺は隣にいる二人に攻撃目標を指示した。
「左からA・B・Cと呼称する。アンナさんとサガワ君はAの足元を攻撃!俺は中央Bを攻撃する」
「「了解!(っす)」」
本当は胸元(心臓部)や腹部を攻撃したいところなんだけど、奴らが前傾姿勢なので狙うことができない。とりあえず怖いのは『突進』なので、機動力を奪うことを優先したのだ。
最初の奴と同じであれば、8~9秒で大盾の障壁まで到達するだろう。魔法攻撃が可能な時間は極僅かだ。
サガワ君が【火魔法】中級の【ファイアボール】を発動し、個体Aの足元を狙った。命中はしたみたいだけど、抵抗されたのかダメージは無い。
アンナさんが【火魔法】初級の【ファイアアロー】と【水魔法】初級の【ウォーターカッター】の『複合魔法』(通称『沸騰水流』)を発動したようで、細い水流が発射されたのが確認できた。しかし、こちらも命中はしているけど抵抗されているみたいだね。
もっとも、二人とも相手との距離が遠すぎて、まだ有効射程距離とは言い難いんだけど…。
俺も【水魔法】中級の【アイススピア】と【風魔法】初級の【ウインドブラスト】の『複合魔法』を準備している。これは上級魔法相当になるので、当たれば一撃で倒せるはずだ。
俺としては、十分に引き付けてから一発で決めるつもりだ(発動に失敗する可能性は考えない)。
アンナさんとサガワ君も二撃目を準備している(のだと思う…この世界の魔法って無詠唱だから、発動タイミングが分からないんだよね)。しかし、奴らの到達時間を考えると、あと一回攻撃できるかどうかってところだろうか?
うーん、これってかなりヤバい状況かもしれない…。
三体ものミノタウロススカウトの『突進』を騎士たちの大盾の障壁が防げるのか、全く分からないからね。




