251 国境にて
「第二騎士団第三小隊長のマルクル・オルテスと申します。オルテス村出身の平民でしたが、一代限りの騎士爵に任命されております。どうぞよろしくお願い申し上げます」
俺たち『暁の銀翼』メンバーの目の前には、騎士の鎧を装備した大柄な男性が敬礼していた。第二騎士団長であるユリウス・グレイシアス様の部下だ。年齢は30代半ばくらいかな?
ちなみに、第一と第二の騎士団には一個小隊50名が3隊ずつ所属しているらしい。つまり、総勢300名の大所帯だ。これに近衛騎士団100名を加えると、王宮の常備兵力は400名となるわけだね。軍制で言えば、一個中隊というところか。
で、ゴルドレスタ帝国との国境までニホン人たちを迎えに行くのは、第二騎士団の中の一つの小隊(第三小隊)と決まった。護衛としては十分な戦力だろう。
「こちらこそよろしくお願いします。サトル・ツキオカです。俺も元は平民ですから、お気を遣う必要はありませんよ。あと、この四人は俺の仲間たちです」
このあと、アンナさん、サリー、ナナ、オーレリーちゃんの四人を順に紹介していった。
ちなみに、俺が男爵位に叙されていることは第三小隊の騎士全員に周知されている。なので、彼女たちへのナンパ行為は発生しないはずだ(なにしろ美人揃いだから、ちょっと心配なのだ)。
あ、そうそう。サリーが冒険者ギルド『エベロン支部』に呼び出された件については、予想通りお礼のためだった。ハッブル商会からギルド支部へ300万ベル、サリー本人へ200万ベルが贈呈されたのだ。
支部長さんが喜んだのは言うまでもない。乱暴者と誤解されがちな冒険者(いや、実際にそういう人間も多いんだけど…)の名声を上げ、ギルド支部にも利益をもたらしたわけだからね。
なお、サリーだけに500万ベルを贈呈…とならなかった理由は、サリーが金銭の受け取りを固辞したからだ。ギルド支部を巻き込めば、サリーも受け取りを断りづらくなるってわけだな。
あと、この一件で、来年、DランクからCランクへ昇格するのは間違いないだろう…って支部長さんが言っていたよ。それだけ貴族家令息に楯突くってのは、かなり危険な行為なのだ(サリーにしてみれば、正義を貫いただけにすぎないんだけどね)。
さて、国境までの移動手段だけど、俺たちはいつもの幌馬車だ(豪華な貴族用の馬車ではなく)。
騎士団のほうも似たような幌馬車を10台連ねている。一台あたり5名の乗車ってことだな。
ただ、俺たちの馬車と違うのは、車両部分を牽く馬たちの背には鞍が取り付けられていて、いざとなれば騎兵に早変わりできるようになっていることだな。【乗馬術】スキルは騎士全員が持っていたしね。
道中については、割と快適だった。街道はしっかり整備されているため、あまり身体への負担も無く、道の駅っぽい休憩所も要所要所にあるため、トイレや宿泊も問題ない。
こうして、王都を出発して二週間後には、ゴルドレスタ帝国との国境まで辿り着いた俺たち一行だった。
・・・
「師匠ぉぉぉ!」
「ツキオカさぁぁぁん!」
国境検問所を抜け、エーベルスタ王国へと入国した勇者と聖女が、俺の姿を見て駆け寄ってきた。怒涛の勢いだ。
勇者と聖女に少し遅れて、賢者が小走りで近づいてきた。
「ツキオカさん、お久しぶりです」
ちなみに、日本語だ。
「サガワ君、ホシノさん、クロダ先生、お久しぶりです。日本語が分かるのはこの中では俺の妹だけなので、できればエーベルスタ語で話して欲しい。【言語翻訳】のスキルがあるからできるよね?」
「了解っす」「はい!」「承知しました」
順に、勇者・聖女・賢者の返事だ。
俺はまずマルクル小隊長を紹介し、続いて『暁の銀翼』メンバーを順に紹介していった。もちろん、エーベルスタ語でだ。
「さすがは師匠!すでにハーレムを構築済みなんっすね?」
「いや、全然ハーレムじゃないよ。そんなこと言うと、彼女たちに失礼だからね」
ホシノさんがサガワ君の頭をはたいて言った。
「タイキ!品の無いことを言うんじゃないよ。ほんと失礼なんだから」
「あのぉ、ツキオカさん。彼女たちとはそういう関係ではないのですか?」
クロダ先生の質問の意図が今一つ分かりにくいけど、男女の関係ってことだろうか?
「俺の大切な仲間たちですよ。ただそれだけの関係です」
決してハーレムなんかじゃありません!
ナナが発言した。ただし、日本語で…。
「サトルお兄ちゃんの妹のナナだよ。イザベラちゃんと同じ日本からの転生者だから、困ったことがあったら相談してね」
このあと、エーベルスタ語に切り替えて話を続けた。
「お兄ちゃんに任せておけば、絶対に悪いようにはならないからね。安心してて良いよ」
やはりナナって、俺に対して謎の信頼があるよな。なんかプレッシャーなんだが…。
「あ、そうそう。実はナナって、めっちゃ料理上手でね。マヨネーズ、チョコレート、ハンバーグなんかを作ってくれるから、大人しく言うことを聞いておいたほうが良いよ。俺も胃袋をつかまれているからね」
「「「!!!」」」
ふふ、三人とも絶句しているね。てか、今にも涎が零れ落ちそうなんだけど…。
まぁ、分かる。一年以上も日本の食べ物から離れていたわけだからね。




