025 Bランク冒険者
「お前、あぁサトルと言ったか…。魔術師にしてはえらく腰が低いな。一般的な魔術師ってのは、もっと高慢ちきで傲慢な奴らばかりだぜ」
ああ、魔術師って、その希少性から選民思想に染まっていたりするのかもしれないな。俺は目上の人に対して、そんな偉そうな態度は取れないけど。
「サトルさんは素晴らしいお人柄の魔術師なのですよ。私もつい最近、命を救われたばかりなのですが、この方は全く偉ぶらないですし…」
アンナさんが俺を褒めてくれているのだが、なんだかちょっと照れくさいです。
『人柄が良い』と言うよりは『小心者』と言うべきじゃないかな。要は俺って、他人と波風を立てたくないから丁寧な応対をしているだけなのだ。
「てか、アンナのほうも二属性の魔術師じゃねぇかよ。しかも使い勝手の良い『火』と『水』とはな。いや、それよりも【職業】がやべぇ。お貴族様の関係者じゃねぇか」
最後のほうだけ小さめな声で言った大男。
アンナさんを【鑑定】して、職業が『アインホールド伯爵家侍女』であることを確認したんだな。
「ああ、そうだ。名乗りが遅れたが俺の名前はマウントバッテンだ。仲間からはバッツと呼ばれている。俺自身はBランクの冒険者で、Bランクパーティー『白銀の狼』の一応リーダーってことになっているぜ」
Bランクって多分すごいんだろうな。体格からくる威圧感よりも、人当たりの良さからくる親近感のほうをより感じる。要するに、良い人っぽい。
「あらためてよろしくお願いします、マウントバッテンさん。駆け出しの新人ですが、色々とご教示いただけると嬉しいです」
「おお、俺のことはバッツと呼んでくれ。よろしくな、サトル。で、二人はパーティーを組んでるのか?それともどこかのパーティーに入ろうとしてるのか?うちもそこにメンバー募集の掲示をしてるんだぜ」
あわよくば自分のパーティーに勧誘しようという意図が見え見えな感じで、バッツさんが俺たちに質問してきた。
メンバー募集の紙にはこう書かれていた。『弓士一名求む。遠隔攻撃が可能ならば投擲スキルでも可。アットホームでホワイトな職場、新人さん大歓迎』…って、あれ?これってさっき見たやつじゃん。
ただなぁ『ホワイト』を自称している会社って、実は『ブラック』なんだぜ…って就職活動をしていた俺の友人が言っていた。嘘か本当かは知らんけど。
ここで俺よりも先にアンナさんが返答した。
「私はこの街に常駐しているわけではありませんから、パーティーには加われません。ですが、サトルさんには『一人よりもパーティーに入ったほうが良い』とお勧めするつもりでした」
続けて俺が自分の考えを口にした。
「俺は戦闘経験が少ないので、自分がどこまでやれるのかが分かりません。なので、しばらくは一人で経験を積もうかと思っています。パーティーに入っても、他のメンバーの皆さんの足を引っ張るだけかもしれませんので…」
うん、やはり最初は一人で活動しよう。他人に迷惑をかけたくないしね(小心者だから)。
「うーん、うちは新人でも構わないんだがなぁ。それにうちは遠隔攻撃ができる人材が欲しいから、風魔法の初級が撃てるなら全く問題ないぜ」
俺はほんの少しの時間だけ考えてから、自分の考えをバッツさんに伝えた。
「お誘いありがとうございます。でもやはり最初は一人でやってみたいと思います。ある程度自信が付いたあとに、またお誘いいただけると嬉しいです」
「そうか、残念だが仕方ないな。もしもパーティーへの加入を検討するようになったときには、『白銀の狼』を候補に加えておいてくれるとありがたい。あ、あと二属性の魔術師ってことはあまり言いふらさないほうが良いぜ。あちこちのパーティーからめちゃくちゃ勧誘されることになるだろうからな」
え?そうなの?冒険者登録の際、一つの属性だけを申請しておくべきだったのか?アンナさんが二属性だったから、俺も二属性にしたんだけど…。
「サトルさん、ギルドが冒険者個々人の能力を勝手に開示することは無いですから、ご心配には及びません。それにサトルさんであれば、【鑑定】でバレることも無いですし…」
アンナさんに心を読まれたのかと思っちゃったよ。それより、あらためて【耐鑑定+22】の魔装具には感謝だな。いや、元々の所有者だったゴラン氏に感謝と言うべきか…。
「そうそう、それにも驚きだぜ。俺の【鑑定】スキルは73もあるのに、【鑑定】できないんだからな。まぁそれはともかく、もしも困ったことがあったら遠慮なく頼ってくれて良いぞ。不良冒険者に絡まれたときなんかでも、俺の名前を出せばほとんどの奴は引き下がるはずだしな」
「ありがとうございます。もしものときは頼らせていただきます」
…って、不良冒険者なんているのかよ。
そう言えばラノベ好きの友人が言ってたな。冒険者ギルドでは新人が絡まれるのは様式美だと…。…って、い、嫌過ぎる。
絡まれたときは速攻でバッツさんの名前を出そう。そう、心に誓った俺だった。




