247 魔道武器講習会①
王都にある警吏本部の建物内で定期的に開催されている魔道武器の講習会。
今月はちょうどタイミングよく、俺たちが旅に出る前に開催されるらしく、サリーと一緒に参加すべく警吏本部へとやってきた。ちなみに、サリーと二人っきりで行動することは珍しい。初めてってわけじゃないけどね。
建物内で知り合いの人に出会うこともなく、1階で受付をしてから3階の会議室(ここが講習会場らしい)へ移動した。部屋の中には商人らしき人や貴族っぽい服装の人もいて、俺たちを含めると総勢10名という参加人数だったよ。
なお、テキストは一冊5千ベルで講習会費用とは別に支払うんだけど、講習会の参加費が3万ベル、修了試験の受験料が2万ベルなので、一人あたり5万5千ベルもかかるのだ。割と高い…。
まぁ、魔道武器自体がめっちゃ高価なので、免許取得費用くらいは大したことはないって人が多いのだと思う。
「講習会の講師を務める生活安全部のアリシアという。女だからといって舐めた態度を取る奴は落第させるからな。あと、ここにはお貴族様もいるようだが、平民と同じ扱いにするぞ。あらかじめ承知しておいて欲しい」
30代くらいの女性が先生らしい。俺が男爵であることがバレてるのかと思ったら、どうやら違ったようだ。あとで判明したのだが、とある伯爵家の次男が参加していたよ。彼とは面識が無かったので良かったけどね。
講習は法令・魔道武器の構造(仕組み)・実技指導等、多岐に渡った。俺にとって難しいのは法令だけだったけどね。サリーも魔道具には慣れているので、構造知識や実践については問題ないようだ。
ちなみに、午前は3時間、午後は2時間の授業を三日間受けることになる。最終日だけは午後が丸々修了試験になるらしい。つまり、13時間の授業+2時間の試験ってことだ。
初日は座学のみだったので問題なく終わったのだが、二日目の実技指導の際、事件が発生した。
実際に魔道武器を使うことで、安全装置の解除方法を学んだり、威力の強さを体験することによってその危険性を知るわけだ。なにしろ、魔術師でもない人間が初級魔法を簡単にぶっ放せるんだからね。まじで取扱注意だよ。
実技会場は地下1階の魔法訓練場だったので、アリシア先生に先導された講習会参加者はぞろぞろと全員で移動した。
3階から地下1階まで階段で降りるのはちょっと大変だった(エレベーターなどというものは存在しない)。年配の商人っぽい男性なんかは、かなりキツそうだったよ。
「良いか。勝手な行動は控えるようにな。怪我をしても知らんぞ」
アリシア先生の注意は耳にしたものの、全員がワクワクした気分で、そわそわしちゃってるよ。俺もだけど…。
「四種類の魔道武器を四か所の射撃ブースに一台ずつ用意してるからな。あらかじめ言っておくが、絶対に人には向けるなよ。普通の人間は【魔法抵抗】スキルなんて持ってないんだから、初級魔法といえども当たれば死ぬぞ」
10人の参加者が四つのブースに、【火魔法】3名・【水魔法】2名・【風魔法】2名・【土魔法】3名と分散した。人気なのは【火】と【土】みたいだな。
サリーと俺は一緒に、【風】の魔道武器が置かれていたブースに並んだよ。殺傷力の高い【ウインドカッター】ではなく、風の塊をぶつけて相手を気絶させる【ウインドブラスト】を魔道具化したものだった(俺の得意魔法でもある)。
「基本的な操作は座学で学んだ通りだ。まずは魔道武器を構えてから、的に照準を合わせる。安全装置を解除してから、引き鉄を引く。たったそれだけだ。簡単だろ?では、順番にやってみたまえ」
各ブースの先頭にいた四人が、それぞれライフルっぽい形状の魔道武器を構えてから魔法を放つ。俺も30mくらい先にある的に向かって引き鉄を引き絞った。
簡単には壊れないように分厚い鋼鉄で作られた的は、初級魔法程度の攻撃ではびくともしない感じだ。特に【ウインドブラスト】は殺傷力が低いからね。あの的を壊そうと思ったら中級以上の攻撃魔法が必要だろうな。いや、中級でも無理かも…。
事件はここで発生した。
貴族の若者(伯爵家の次男)が【火】の魔道武器を構えて【ファイアアロー】を放っていたのだが、何を考えたのか分からないんだけど、いきなり身体の向きを90度変えた。隣で【水】の魔道武器を構えていた商人っぽい人物に銃口を向けたのだ。
本人としてはちょっとした悪ふざけのつもりだったのかもしれない。しかし、銃口を向けられたほうはたまったものではない。魔道武器が自分に向けられていることに気づいた商人は、思わず武器を放り出し、頭を抱えて蹲った。当然の反応だろう。
ただ、【水】の魔道武器の安全装置は解除された状態であり、それが放り出されたはずみで引き鉄が引かれてしまったのだ。なんとも運の悪いことに…。
狙いも付けずに発射された【ウォーターカッター】の水流。それは意図的ではないにせよ、貴族の若者の太腿を貫いた。いわゆる自業自得と言っても過言ではない状況だ。
吹き出す鮮血。痛みで泣き叫んでいる若者。呆然とする参加者たち。特に当事者である商人っぽい人物は、顔色を真っ青に変えて震えていた。
これら一連の出来事については、俺の後ろに並んでいたサリーがしっかりと目撃して、あとで俺に教えてくれたものだ(俺は的しか見てなかったからね)。
ここからは俺もある程度は状況を把握できたんだけど、即座には動けなかった(脳内で情報整理している段階だった)。
指導教官であるアリシア先生もパニックになって、あたふたしている状況下、すばやく動けたのはサリーただ一人だった。
被害者の若者にさっと近づいてから、【アイテムボックス】から取り出した健康銃を使って即座に【レッサーヒール】を発動したのだ。すぐに治癒効果が現れ、傷口も修復された。
さっきまで痛がっていた若者もキョトン顔になっていたよ。いや、さすがですね、サリーさん。咄嗟の判断力は『暁の銀翼』の中で一番じゃないだろうか。




