246 拝謁再び
二組四台の通信魔道具を納品してから二日後、またもや王宮からの呼び出しがあった。
多分だけど、昨日ゴルドレスタ帝国の全権大使と会見する予定だと言っていたから、その件じゃないかな?
馬車の御者席には、御者を務めるアンナさんと護衛のサリーが座っている。車内には俺一人だ。
王城に着いたあと、俺一人だけが前回と同じ応接室へと案内された。なお、部屋の中にいたのは国王陛下とミュラー閣下の二人だけだった(前回と同じ)。
「うむ、殊勝な心掛けである。さて本題であるが、今日来てもらったのはニホン人の件だ。ゴルドレスタ帝国大使との折衝により、ニホン人三名の我が国への留学は決定事項となった。細かい条件については、これから詰めていくことになるがな」
やはり、その件か。まさに予想通りだ。
てか、留学が決まって良かったよ。
「それは、ようございました。彼らは私と同郷ですので、この国へ来た際には色々と便宜を図るつもりにしております」
「それよ。実は彼らの世話役をツキオカ男爵に頼みたいと思ってな。命令ではないが、これはニホン人たちの希望でもあるらしい。受けてくれるとありがたい」
「はっ、かしこまりました。ニホン人三名の世話役の任、承りましてございます」
これについてもナナの予想した通りだな。
「帝都への連絡方法だが、我が国で飼育している鳩を国境検問所まで飛ばし、そこから先は帝国の鳩に引き継ぎ、それを帝都まで飛ばすことになる。早くても数日はかかるだろう。通信魔道具ならば即時であるのに、全く手間のかかることよ。それでも、これが今までで最速の伝達手段だったのだがな」
なるほど、伝書鳩ですね。
でも王都から国境までと、国境から帝都までは共に1000kmずつくらいあるよね?そんな長距離って大丈夫なのかな?
果たして確実に届くのだろうか?
さすがにこの場では質問できないので、後日ミュラー閣下に聞いたところ、どうやら鷹や鷲などの猛禽類や空を飛ぶ魔獣(ワイバーン等)に捕食されることもあるため、同じ文面を5羽くらいに付けて飛ばすそうだ。それでも確実性は低いらしいが…。
陛下の話は続いている。
「ニホン人たちの護衛については、国境までは帝国の騎士団が同行するとのことだ。ただ、我が国に入国してからはこちらの騎士団に護衛を引き継ぐことになる。おそらく第二騎士団の一部を派遣することになるだろう。ツキオカ男爵には冒険者ギルドを介して護衛の指名依頼を出させてもらう故、騎士団と共に国境まで迎えに行ってくれぬか」
「承知しました。冒険者パーティー『暁の銀翼』として依頼を受けたいと思います。お任せください」
「うむ、頼むぞ。おぉ、そうだ。ギルド支部に赴いた際に知らされると思うが、Fランク冒険者サトル・ツキオカは現時点をもってCランクへと昇格することとなる。事前に伝えておこう」
えええ?Cランクだって?何でいきなり3階級も特進するの?てか、そんなことできるの?
驚いている様子の俺を見て満足そうに頷いている陛下だった。サプライズ大成功!…って感じだ。
ここまで一言も発言していなかったミュラー閣下が俺に言った。
「君の実力であればAランクでもおかしくないんだけどね。Bランク以上ともなると、筆記試験と実技試験で合格点を取らないとランクを上げられないんだよ。なのでCランクで勘弁してくれたまえ」
なお、後日エベロン支部の支部長さんに確認したところ、Cランクまでだったら、三人以上の支部長が推薦することで特進させることが可能らしい。
んで、俺を推薦してくれたのが、この王都エベロンの支部長さん(好々爺っぽい人)とアインホールド伯爵領の領都リブラにいる支部長さん(ボディビルダーみたいな人)、そしてデルト支部の支部長さん(バッツさんだ…懐かしい)だったよ。
余談だけど、貴族子息が冒険者になったときって、親が金を積んでCランクまで特進させることはよくあることらしい。
実はロータス子爵家のゲイル君(オーレリーちゃんのかつての仲間)がCランクだったのも、本人の功績ではなく金の力だったそうだ。若いのにCランクってすごいなぁ…とは思っていたんだけどね。うん、腑に落ちたよ。
・・・
屋敷に戻ってから全員を集めて、陛下からの話を伝えた俺。
周知したのは以下の3点だ。
・ニホン人の留学決定とツキオカ家が世話役に任命されたこと
・国境までニホン人を迎えに行くこと(『暁の銀翼』として行動する)
・俺のCランク昇格
まずナナが発言した。
「お兄ちゃん、世話役の件は予想通りだね。国境まで行くメンバーはアンナさん、サリー、オーレリーちゃん、私で良いのかな?」
「ああ、そのつもりだ。ユーリさん、マリーナさん、サーシャちゃんには留守を守っておいてもらいたい。その際、屋敷の管理者代行はマリーナさん、警備責任者代行はユーリさんとします」
「かしこまりました」
「ああ、分かったよ。任せとけ」
二人とも納得の表情だ。
てか、久々の『暁の銀翼』としての冒険者活動だよ。俺としてもちょっと楽しみだ。
「サトルさん、Cランクへの昇格、おめでとうございます。これでついに私と同じランクになりましたね。いえ、サトルさんの実力でしたらAランクでもおかしくありません。ぜひBランクへの昇格試験を受けていただきたいです」
「そうですね。そのときはアンナさんも一緒に受験しましょう。どちらかがBランクまで上がれば、Aランク依頼を受注できるようになりますし…」
アンナさんが嬉しそうに微笑んでいた。なんだか俺も嬉しいよ。
「サトルに追い越されちゃったよ」
現在Dランクのサリーがちょっと悔しそうだ。
あ、そうだ。
「なぁ、サリー。俺は魔道武器の免許を取ろうと思ってるんだが、一緒に講習会に参加しないか?三日間開催される講習会で学んで、修了試験に合格すれば免許を貰えるらしいぞ」
イザベラの持っている『魔道ライフル』が羨ましくて、俺も免許を取ろうと思ったんだよね。サリーも免許を取れば、パーティーとしての攻撃力が格段に上がるよ。
「一緒に?うん、もちろん良いよ。一緒に、だね」
なぜか『一緒』を強調するサリーだった。
「帝都へ連絡が届いて、ニホン人たちの旅の準備が整うまで一週間から二週間程度はかかるだろう。さらに帝都から国境までは約二週間だ。なので、『暁の銀翼』が王都を立つのは一週間後といったところだろう。第二騎士団と行動を共にするから、王宮からの連絡待ちになるけどな」
「それでは屋敷の業務の引継ぎや旅の準備を急ぎましょう。全員良いですね?」
…って感じで仕切っているアンナさんは、やはりこの屋敷の女主人って風格だよ。
いや、ほんと助かります。




