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237 チョコレート②

 型一枚で一粒大のチョコレートが3×5の15粒ほど出来上がっている。型は三枚だったので、全部で45粒だ。

 この場にいる人の数は、俺を入れて8名。…ってことは、最低でも一人あたり5粒は食べられるね。

 全員にチョコレートを5粒ずつ配ってから、ナナが言った。

「ではどうぞ、召し上がれ」

 俺は自分の分を一つ口の中へとほうり込んだ。冷蔵庫で冷やされたチョコレートは、人肌の温度ですぐに溶け出し、そのカカオの味と香り、砂糖の甘さが押し寄せてきた。

 思わず目を(つむ)ってしまったよ。ああ、まじで感動だ。

 確かに日本のメーカー製品に比べたら口当たりの滑らかさや風味など、全く太刀打ちできないだろう。それでも、あまりの美味しさと懐かしさに涙が出そうだよ。


 ナナのほうを見ると、すでに涙を流していた。

「お兄ちゃんは一年ぶりくらいだろうけど、私のほうはめっちゃ久しぶりなんだからね」

 ナナは今19歳だっけ?…ってことは、少なくとも19年ぶりってことか。そりゃ、涙も出るわな。

「ナナ、ありがとう。感動するくらい美味しいよ」

「へへ、どういたしまして。私のほうこそお兄ちゃんには感謝だよ。よくぞカカオを買ってきてくれたよ」

「カカオじゃなくて『コーア』な。その名前じゃないと帝国では通じないぞ」

 つい、カカオと言ってしまうのも分かるけどね。


「他の皆はどうだい?」

 全員の顔が(とろ)けそうになっている。それを見る限り、何も言わなくても喜んでくれているのが分かったよ。

「サトルさん、こんなお菓子があるのですね。信じられないくらい美味しいです」

「サトル、今まで生きてきて良かった…。そう思えるくらいの美味しさだよ」

 アンナさんとサリーの感想だ。


「こいつはちょっと信じられないよ。第三王女の護衛時代であっても、こんな菓子を食べたことは無かったぜ」

「サトル様、スラム街の出身である私がこんな幸せを味わって良いのでしょうか?はっ、これは夢?」

 ユーリさんとオーレリーちゃんの感想を聞いても、二人が喜んでいるのが伝わってくる。てか、夢じゃないから…。


「冒険者ギルドには様々な情報が集まってきましたけど、こんなに素晴らしいお菓子の情報はありませんでしたよ。本当に美味しいです」

「さすがは旦那様とナナ様です。このお屋敷の侍女見習いであることに誇りを感じます」

 マリーナさんとサーシャちゃん姉妹の感想だ。


 あっという間に全員が自分の分のチョコを完食し、ちょっと物足りないって感じの顔になっている。

 俺はゆっくりと味わって食べていたから、まだ2粒ほど残っているけどね。

 ナナの手元には最初に配ったときの余り分(5粒)が残っているため、全員(俺以外)の視線がそこへ集中していた。

 いや、俺の前にある残りのチョコをガン見している人物もいた。

「も~らいっ!」

「おい!俺のチョコ!」

 一瞬の隙をついて俺の元から2粒のチョコを強奪した犯人はサリーだった。まじかよ、信じられねぇ。

 てか、なんという素早さ。無駄にその身体能力を発揮しやがった。


 それを見ていた皆がちょっと殺伐とした空気になっちゃってるよ。

 ここは世紀末ですか?

 強い者が弱い者から奪うって雰囲気だよ。

「ああ、俺の分は自分のミスでもあるから諦めるけど、そこに残っている分については喧嘩しないようにな。公平にくじ引きでもして、誰に分配するかを決めるように」

 この屋敷の当主らしく、ここは仲裁しておくべきだろう。でないと、奪い合いが始まりそうな雰囲気だったので…。って、(こわ)っ!


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