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235 屋敷への帰還

「サトル君、俺たちと一緒に冒険者ギルドへ行くかい?依頼達成報告だけだが」

 マクベス氏がギルド行きを誘ってくれたけど、とりあえずは屋敷へ帰ることを優先したい。

「いえ、俺は明日にでも行きますよ。ちょっと野暮用がありまして…」

 ちなみに、俺が貴族になったことをマクベス氏もカミーラさんも知らないからね。別にわざわざ言う必要も無いので…。


「そうか。それじゃここでお別れだな。また縁があったら会おう」

「サトル君、閃光銃(フラッシュ・ガン)の一般販売が許可されたら、私にも作ってね」

「ええ、許可が下りれば…」

 『炎の蜂(フレイムビー)』の二人と別れ、イザベラお嬢様やドワーフ族のオウカさん(そう、俺たちに同行してエーベルスタ王国へやってきたのだ)とも挨拶を交わし、俺は貴族街へと向かった。久しぶりの我が家だ。


 うちの屋敷には門番なんていないから、日中は正門を開け放っている。

 門を入ってすぐの所に丸い形の大きな花壇があり、そこには一人の女の子が(うずくま)っていて、何かの作業をしていた。

「オーレリーちゃん、ただいま」

 女の子が、がばっと頭を上げて振り返った。いつもは前髪を目が隠れるくらいに下ろしているんだけど、なぜか今日はヘアピンで留めていて、彼女の可愛い顔がよく見える(季節的にそろそろ夏なので、少し暑いせいかな?)。

 その瞳に涙が溜まっていくのが見えた。

「サトル様、おかえりなさい」

 急いで駆け寄ってきて、俺の腰のあたりに抱きついてきたオーレリーちゃん。

 それは良いんだけど、さっきまで土いじりをしていたってことは、彼女の両手は土で汚れているのではないだろうか。俺の背中に小さな手の感触があるのですが…。


「不審者め。その子から離れろ!」

 左手に抜き身の剣をぶら下げた女性がすごい勢いで走ってきた。ん?不審者?…って、俺のことか。

「ユーリさん、ただいま戻りました」

「っ!!!ツキオカ殿!」

 ユーリさんが驚いた表情になってたよ。あまりにも早い帰還だったから、まぁ分かる。

 そして、すぐに剣を逆手に持ち替えて身体の後ろに回したあと、片膝をついた体勢となってこう言った。

「お帰りなさいませ。ご無事のご帰還、祝着至極(しゅうちゃくしごく)に存じます」

「うん、ありがとう。そんな大仰にしなくても良いよ。いつも通りにね」

「ふっ、分かったよ。しかし予定よりもかなり早かったな。依頼は達成できたのか?」

「ええ、様々な人の手を借りてなんとか達成できました。もしも俺一人だったら、こんなに早くは帰国できなかったでしょうね」

 そう、イザベラお嬢様、エリさん、パレッタ氏の協力が無ければ、まだ帝都に残って勇者たちとの接触方法について悩んでいたかもしれない。

 ちなみに、早くて半年、長ければ一年と見ていたからね。たったの三か月で帰還できたのは本当に素晴らしい。


 その後、オーレリーちゃんやユーリさんと一緒に屋敷の中へと入った俺は、マリーナさんと再会した。

「マリーナさん、ただいま帰りました」

「ツキオカ様、おかえりなさいませ。屋敷は平穏でしたが、資産が少し増加しておりますので、このあと現物を見て頂いてから詳しくご報告申し上げます」

 ん?資産が増加?何だろ?

 この件については、このあとすぐに判明した。


 現在、屋敷の中にはアンナさん、サリー、ナナ、サーシャちゃんの姿が見えない。なんでもお茶会に呼ばれたため、出かけているらしい。おぉ、貴族のご令嬢っぽい。

 ミュラー公爵家のお茶会にゲストとして呼ばれたのが、シュバルツ男爵令嬢としてのアンナさんとツキオカ男爵家当主の妹であるナナ。サリーは二人の護衛で、サーシャちゃんはお付きの侍女ってことらしい。

 あれ?アンナさんはともかく、ナナにはドレスなんて買ってあげてないぞ。お茶会ってドレス着用(ちゃくよう)なんじゃないの?


 しばらくすると、馬車が門内に入ってきた音がした。玄関から外へ出てみると、そこに一台の豪華な馬車が停まっていた。うちの幌馬車ではなく、貴族っぽい立派な馬車だ。

 あれ?御者がサーシャちゃんだよ。その隣にはサリーも座っている。

 玄関前に立つ俺の姿を見たせいか、サリーとサーシャちゃんの顔がパッと明るく輝いた。二人とも満面の笑みだ。俺も思わず笑顔になったよ。

 そして、馬車の中から降りてきたのはアンナさんとナナだった。二人はドレス姿ではなく、清楚なワンピース姿だったけどね。アンナさんが若草色、ナナが薄い水色だった。二人とも良く似合っている。

 余談だが、今日のお茶会はドレス禁止というルールだったそうだ。多分、ナナに合わせてくれたんじゃないかな?


「サトルさん、おかえりなさいませ。お早いご帰宅を嬉しく思います」

「お兄ちゃん、帝都での仕事が早く片付いたんだね。で、帝国からどんな女性を連れ帰ってきたのかな?」

「サトル、屋敷は平穏無事だったよ。安心してね」

「旦那様、おかえりなさいませ。帝国のお土産を楽しみにしております」

 順番にアンナさん、ナナ、サリー、サーシャちゃんのセリフだ。…って、ナナさんや、誰も連れ帰ってきてないっつーの。

 はっ、そう言えば、オウカさんを王国へ連れてきたけど、うちの屋敷へってわけじゃないからノーカウントだと思う。

 あと、サーシャちゃんにはオウカさん作の短剣を買ってきたけど、他の仲間たちには個別のお土産は無いんだよな。帝都の薬屋を何軒も回って、全員への共通のお土産は買ってきたけどね。

 その話はまた後で…。


 ちなみに、この馬車はミュラー公爵家からの頂き物らしい。うちが幌馬車しか持っていないのを見かねて、公爵家の馬車を新調する際に、今まで使っていた古い馬車を無料(ただ)で譲ってくれたってことみたい。実にありがたいことです。

 この馬車を贈与されたことが、うちの資産が増加したってことだね。中古とはいえ、高そうな馬車だもんな。


 このあと全員でリビングに集まって、俺の報告会ってことになった。帝国での話を皆にしてあげないとね。


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