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234 帰国

 聖女からの手紙はいつものように当たり障りのない内容だった(ゴルドレスタ語の部分は…)。

 しかし、イラスト部分に隠された日本語を読み解くと、懸案事項についての解決策が記されていたよ。それによると、どうやら俺たちに同行してエーベルスタ王国へ向かうことはできないとのこと。残念だな。

 ただし、全権大使の一行がニホン人の受け入れ交渉を行うために王都『エベロン』へと向かうことになったそうだ。

 なるほど確かに、王国側の受け入れ体制が整っていないと、勇者たちの移動は難しいだろうね。別に逃げ出すわけじゃないんだし…。


「ふむ。それでは我々は全権大使の一行と足並みを揃えるとするか。彼らの後ろからくっついていくことで、旅のより高い安全性を確保しよう」

「ですね。騎士団がいれば、盗賊団などの襲撃も無いでしょうし…」

 まぁ、護衛が三人しかいなくても、護衛対象を(まも)りきる自信はあるけどね。でも騎士団と一緒なら、そもそも襲われることすら無いはずだ(魔獣は別だけど)。

 イザベラお嬢様と俺が聖女であるホシノさんからの手紙をネタに会話していると、エリさんが突然姿を現した。いや、心臓に悪いから、いきなり俺の背後に立つのはやめて欲しいのですが…。

「お嬢様、サトル様。私が軽く探ってきたところによると、大使一行の出立は明後日だそうです。つきましては、私だけ帝都に残ることをお許しいただけますか?ニホン人たちの護衛及び帝都の動向を通信魔道具でご連絡するためでございます」

 ああ、だったら最大伝送距離の実験にもなるね。この帝都からエーベルスタ王国の王都までを接続できればすごいことだよ(どこまで繋がるかは実験してみないと分からないけど)。


 イザベラお嬢様が悩まし気な表情になっている。即断即決のお嬢様にしては珍しい。

「うーん、エリがいなくなると、いささか不安だな。でもそうだな、それが良いかもしれん。よし分かった、エリには残置諜者(ざんちちょうじゃ)の任務を与える。また、勇者たちがエーベルスタ王国へ出立する際、彼らへの同行を命ずる。もちろん影に徹するようにな」

「はっ、了解しました。それでサトル様にお願いなのですが、『5番』の通信魔道具をお貸し願えないでしょうか?」

「もちろん、良いですとも。一日三回通信するとして、魔石がセットされた魔石カートリッジの予備が100個ほどあれば良いですかね?約三か月分ってことですけど」

 明後日までに100個のカートリッジを用意するのは、徹夜作業になるかもしれないな。でも『魔石ケース』への魔石のセットは、【細工】スキルが無いと難しいからね。

 ちなみに、イザベラお嬢様が持つ『4番』の通信魔道具については、俺が魔石をセットできるので問題ない。


「それにしても、帝国政府はよく決断したものだ。やはりパレッタ氏の機関が動いたのが大きかったのかな?」

「そうですね。もしかしたら帝国政府内には別の事情が存在したのかもしれませんが、パレッタ氏の功績も大きかったと思いますよ。あくまでも推測ですが…」

 パレッタ氏、いやパレートナム課長補佐のことをかなり信用(・・)している俺がいる。まぁ、相手は海千山千の諜報部員だから、信頼(・・)はできないけどね。


 ・・・


 その後、なんとか100個の魔石カートリッジを出立の日までに作り終え、エリさんに手渡すことができた。『魔石ケース』や魔力量30の魔石を大量に買い集めるのは、エリさん本人にお願いしたけどね。

「それでは出発しよう」

 全権大使の乗る豪華な馬車と随員二名の乗る馬車、それを囲むように騎馬が配置されている。その一行が動き出したあと、イザベラお嬢様の号令によりルナーク商会の馬車が追随していく。

 なお、面白いことに他の商会の馬車も後続していた。皆、考えることは同じだな。なかなかの大集団になっているよ。

 騎士たちも別に苦言を呈することもなく、複数の商会の馬車がくっついていくというこの状況を見逃してくれている。ありがたいことです。


 エーベルスタ王国との国境まで二週間、そこから王都『エベロン』までさらに二週間。

 旅は極めて順調に進み、帝都を出立してから一か月で王都へと到着した。なんとも呆気ない旅だった。

 弱い魔獣の襲撃は数回あったものの、すべて先行する騎士たちが倒してしまったから、マクベス氏とカミーラさん、俺の出番は全く無かった。これで護衛料金を貰っても良いのだろうか?

 まぁ、冒険者ギルドを経由した依頼で依頼料の不払いなんて発生しないのだが…。

 あと、イザベラお嬢様の魔道ライフルの出番も無かったため、お嬢様本人は少し不満そうだった。…って、戦闘狂(バトルジャンキー)か。


 特筆すべきは、通信魔道具の実験だった。

 朝、昼、夜の三回、時間を決めてエリさんと通信を行っていたんだけど、なんと王都へ着くまでずっと通信できていたのだ。馬車で一か月の距離って、時速10kmで一日6時間(馬たちに休息が必要なため)進むとして、1800kmくらいだろうか。いや、実際は2000kmくらいあるかも?

 これって、青森~福岡間の距離くらい、もしくは札幌~福岡間くらいだろうか。

 ちなみに、正確な地図は軍事機密だから大雑把な地図しか一般には売られていないんだけど、その地図上で考えても多分そのくらいだと思う。


 俺は超短波(VHF)極超短波(UHF)のように見通せる距離までしか通信できないのではないかと思っていたのだが、良いほうに予想を裏切られたよ。

 とりあえず、最大の伝送距離は現時点では不明ってことだな。

 なお、この一か月間、勇者たちは帝都の外へは出ず、騎士団の訓練場などでスキルレベルの向上を図っていたらしい(エリさんが探ったところによると…)。クロムエスタ神国の暗殺者も宮殿の中までは侵入できないようだ(できるけど、しなかったって可能性もあるけどね)。


 あとはエーベルスタ王国の王宮とゴルドレスタ帝国の全権大使がどういう話し合いをするか、だな。

 それはイザベラお嬢様や俺の関知するところではない。大使がうまくやってくれることを願うのみだ。


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