232 通信魔道具④
「仕方ない。1対多が実現できないのならば、1対1の接続に限定して作ったほうが良いだろうな。具体的には『A』から『B』へ接続するものと、『B』から『A』へ接続するものをペアで作るのだ。であれば、どちらが先に起動しても必ず接続できるだろう?」
「ですね。あとは運用方法として、お互いに起動する時間をあらかじめ決めておけば良いでしょう。問題は伝送距離ですか」
実験機(『1番』『2番』『3番』)については接続相手がトライアングルになるように作ったけど、どうにも実運用には適さない感じだ。イザベラお嬢様の仰るように『1対1』接続で作ったほうが良いだろうね。
ここでエリさんが発言した。
「ここ帝都にルナーク商会の事務所はありませんから、パレッタ氏を巻き込みますか?もしかしたらエーベルスタ王国の王都からでも接続できるかもしれませんし…」
これは悩ましい問題だ。いくら(現時点では)盟友とはいえ、他国の人間だからなぁ(しかも諜報部員)。
うん、やはりパレッタ氏には秘密にしておいたほうが良いだろうね。この通信魔道具って、完成すれば国家機密級の発明になるだろうし…。
イザベラお嬢様も同意見のようだ。
「いや、秘密にしておこう。伝送距離の実験については、エーベルスタ王国へ帰国してからやれば良いさ」
「ええ、俺もそう思います。とりあえず固有番号『9526700004』と『9526700005』の通信魔道具を作って、相互接続できるようにしておきましょう」
通称『4番』と『5番』だ。『4番』の宛先を『5番』にして、『5番』の宛先を『4番』にするわけだね。
実験機ではいい加減だった筐体のほうも『4番』と『5番』では少し凝った造りにした。目立たないよう内ポケットに納められるようなサイズ(名刺ケースくらい)だけど、デザインや装飾を(若干)見栄え良くね。
『魔石ケース』を内蔵した魔石カートリッジを挿抜できるようにしたのも実運用を見すえてのことだ。ちなみに、魔石は魔力量30のものにしている(小型化のため)。
この二台の通信魔道具(通称『4番』及び『5番』)及び予備の魔石カートリッジ6個の製作に二日ほど費やした。まぁ、時間をかけただけあって素晴らしい出来栄えに仕上がったと思う。うん、なかなかの自信作です。
「イザベラお嬢様、こちらの『4番』をどうぞお納めください。俺は『5番』を使いますので、帰国したら伝送距離の実験を行いましょう」
「ああ、ありがとう。これって私は君にいくら払えば良い?かなりの高額であるのは間違いないが、あまり高いと支払いが難しいかもしれん」
「いえいえ、もちろん無料ですよ。中核部品である『魔道基板』を提供したのって、イザベラお嬢様ですからね。それにお嬢様のヒントが無ければ、作れなかったものですし…」
そうなのだ。音声伝達の魔法が存在するという情報が無かったら、この通信魔道具が完成することも無かったよ。間違いなく…。
それに俺の報酬については、『5番』の通信魔道具で十分です。これだって中の『魔道基板』は元々イザベラお嬢様が購入したものだし…。
「うーん、相変わらず欲の無い男だよ。ありがたく貰っておくことにしよう。あ、そうそう。帰国したら、この件の報告を王宮へ上げておいたほうが良いぞ。国を巻き込むことが、我々の身の安全に繋がるはずだからな」
あー、確かに…。この発明の価値の大きさを考えると、関係者の誘拐等に繋がりかねないよな~。
「まぁ、私にはエリがいるし、誘拐犯なんぞ返り討ちにしてやるがな」
まぁ、そうでしょうね。
ただ、他のルナーク商会員やツキオカ男爵家の屋敷に住む仲間たちのことを考えると、エーベルスタ王国の王宮を矢面に立てたいところだよな。つまり、国によってこの発明が公表されることで、発明者については秘密にしておきたいってことだ。
・・・
こうしてイザベラお嬢様やエリさんと忙しい日々を過ごしているうちに、そろそろルナーク商会一行の帰国の日(帝都を出立する予定日)が近づいてきた。
てか、そもそも二週間だった滞在予定をすでに三週間まで延長済みなんだけどね。
なお、俺は元々この帝都に長期滞在する予定だったけど、ルナーク商会一行と一緒に帰国することにした。なにしろ依頼はほぼほぼ達成したからね。早めに帰国できそうで良かったよ。
問題は、勇者たちが俺たちに同行できるかどうかだな。未だに何の連絡も入ってこないんだけど(聖女からもパレッタ氏からも)、いったいどうなっているのやら…。
イザベラお嬢様によれば、帝都を立つ日は数日であれば延ばせるらしいんだけど、帰国準備もあるので早めに連絡が欲しいと言っていた(同行できるにせよ、できないにせよ)。
あ、そうそう、護衛としては『炎の蜂』の二人(Aランクのマクベス氏とBランクのカミーラさん)と俺が務めることになる。要するに、往路と同じだな。
そして、ようやく待望の連絡が聖女であるホシノさんからもたらされたのだった。




