023 冒険者登録
冒険者ギルドの建物自体はそこまで大きくはなかったが、扉は相当でかかった。入ってすぐ右側に素材買取所という看板が下がったコーナーがあったので、おそらく狩った獲物なんかを搬入するときのために扉が大きいのだと思う。
正面には銀行のカウンターのような受付がずらっと並んでいて、きれいなお姉さんたちが受付嬢をしていた。依頼受付、受注手続、新規登録などの看板が下がっている中で、迷わず新規登録へと進むアンナさん。
「おはようございます。冒険者登録を行いたいのですが…」
「はい、おはようございます。お二人ともですか?」
「いえ、私はすでに登録していますので、こちらの男性だけです」
ええぇ?アンナさんって伯爵家の侍女をしているのに冒険者でもあるの?これって、この世界では普通なのか?
アンナさんが俺に向かって恥ずかしそうに言った。
「徒手格闘術や魔法スキルのレベル上げのために登録して、仕事がお休みの日には冒険者として活動しているのです。もちろん、たまにですよ」
「はぁ、驚きました。先輩というわけですね」
「えへへ。先輩として色々と教えて差し上げますね」
はにかんだ様に笑うアンナさんが心なしか嬉しそうだ。それを見た俺もなんだか嬉しい気持ちになったよ。
「それではこちらの用紙にご記入をお願いします。文字が読めなければ代読しますし、もしも代筆が必要であればお気軽にお申し付けください」
多分、書けるとは思うので受付嬢さんから用紙を受け取り、【名前】欄に『サトル・ツキオカ』と記入してから、隣のアンナさんにも一応確認をとった。
「読めますかね?」
「ええ、大丈夫ですよ。ニッポンでも我が国と同じ文字を使っているのですね」
いえ、違います。【全言語理解】の効果です。…が、それは言わないほうが良いだろうな。
問題なく『書ける』ことが検証できたので、残りの項目を埋めていく。
えーっと、あとは【戦闘スタイル】と【スキル】(武術系と魔法系)か。…とは言っても書くところはもうほとんど無い。
項目の中から選択して丸を付けるだけだ。
まずは【戦闘スタイル】だ。
〈斥候〉〈前衛(アタッカー)〉〈前衛(タンク)〉〈中衛(魔術師)〉〈中衛(弓士)〉〈後衛(回復士)〉〈後衛(ポーター)〉の中から該当するものに丸を付けるわけだな。
俺のゲーム知識に照らせば、アタッカーがパーティーのメインの攻撃力で、タンクは敵の攻撃を防ぐ盾役、ポーターってのは荷物持ちだろう。
俺は迷うことなく〈中衛(魔術師)〉〈後衛(回復士)〉〈後衛(ポーター)〉の三つを丸で囲んだ。攻撃魔法も回復魔法(光魔法)も使えるし、アイテムボックスで大量の荷物も持ち運べるからな。
次は【武術系スキル】か。
〈剣術〉〈槍術〉〈斧術〉〈棍術〉〈弓術〉〈格闘術〉とあったので、これも迷わず〈格闘術〉を丸で囲んだ。【徒手格闘術】のスキルレベルが(なぜか)80もあるからね。この値は多分高いほうだと思うし…。
最後が【魔法系スキル】だ。
〈火魔法〉〈水魔法〉〈風魔法〉〈土魔法〉〈光魔法〉〈闇魔法〉〈空間魔法〉の項目が縦に並び、それぞれの横に〈初級〉〈中級〉〈上級〉とあった。使える魔法属性とそのレベルを選択するのだろう。
こういうのは他者から【鑑定】されれば分かってしまうことなので、正直に記述するのが普通らしい(アンナさんの話では)。
でも俺が正直に記述した場合、〈水魔法〉と〈光魔法〉が〈中級〉で、残りの五つが〈初級〉ということになってしまう。全属性持ちってことで大騒ぎになることが目に見えてるよな。
うーん、どうしよう?
画用紙よりも分厚い登録用紙を前に、羽ペンを持ったまま固まる俺にアンナさんが話しかけてきた。
ちなみにインク壺にペン先を浸してから書くのだが、紙質がゴワゴワしてて書きづらい…。すぐ滲むし…。
「ツキオカ様、もしも【耐鑑定】のスキルレベルが高いのであれば、ある程度はごまかして書いたほうが良いかもしれませんよ」
俺だけに聞こえるくらいの小さな声量だったのだが、耳元で囁かれたせいで少し(いや、かなり)ドキドキしてしまった。耳が赤くなっているかもしれない…。
でも、そうか…。俺の【耐鑑定】のスキルレベルは(魔装具で底上げして)100だから、【鑑定】されてバレることも無いだろう。ちょっと少な目に申告しておいたほうが良いかもしれないな。
結局、三属性でも騒がれそうなので、二属性の魔術師ってことにした。で、申告した属性は〈風魔法〉の〈初級〉と〈光魔法〉の〈中級〉だ。
自衛できるヒーラーって感じかな。
一応、アンナさんにチェックしてもらおうと書き上がった用紙を見せたんだけど、〈後衛(ポーター)〉に丸を付けた理由を聞かれた。
「失礼なことを言って申し訳ないのですが、ツキオカ様の体格を見ますと、ポーターのような仕事が務まるとは思えません。パーティー全員分の荷物に加えて、狩った獲物を運んだりもするのですよ。なぜ、これに丸を?」
「ええっとですね、どのくらいの量を収納できるのかは未検証なんですが、【アイテムボックス】のスキルを持っているので…」
一応、他の人には聞こえないように、アンナさんの耳元でこっそりと伝えた。
これを聞いたアンナさんは口を押さえて目を見開いていたよ。手で口を押さえていたのは叫び出さないためか?…って、まさかレアなスキルなの?
「スキルレベルは?」
「100ですね」
アンナさんがふらっと膝から崩れ落ちそうになったので、慌てて身体を支えてあげた。うわっ、めっちゃ柔らかい。…って、変態か。




