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228 悪巧み

 翌日の午前中、とある会議(悪巧み)のための出席者たちがとある場所へと集結した。


・議題 :勇者たちをエーベルスタ王国へ連れて行く方法

・出席者:イザベラお嬢様(議長)・エリさん・俺の三人に加えてパレッタ商会会頭のパレッタ氏

・場所 :パレッタ商会の会議室


『それでは、まずは現在の状況を説明し、これまでに判明している情報を全員で共有しようか』

 イザベラお嬢様の発したこの言葉から会議が始まった。ちなみにゴルドレスタ語だ。

 まずは、パレードの際に判明した勇者・聖女・賢者のステータス、それをゴルドレスタ語で記述した資料を全員に配布した(この場の共通語がゴルドレスタ語なので…)。

 また、クロムエスタ神国の諜報部員による賢者狙撃事件の詳細についてもパレッタ氏へ説明した。

魔装具(マジックアクセサリ)を身に着けていても、俺の【鑑定】では彼らのステータスは見えなかった。それがこうやって判明したのは本当にありがたい。あと、あの狙撃も(はた)から見ていたが、まさかクロムエスタ神国の人間が犯人だとは思わなかったぞ。まぁ、言われてみれば納得だが…』

『俺たちの言い分をそんなに簡単に信じて良いんですか?俺たちが嘘を言っているかもしれませんよ』

 まぁ、嘘を言うほどの理由または利点(メリット)なんて無いけどね。


『嘘なら嘘でも構わないさ。上司に対して、信憑性のあるもっともらしい報告さえできりゃ良いんだよ。しかし、まぁ嘘だとは思ってないけどな』

 ニヤリと笑いながらそう言ったパレッタ氏だった。なぜか謎の信頼があるようで、不可解極まりない。

『賢者の魔法スキルが四属性で、レベルがゼロってのは嘘っぽいが、だからこそ逆に真実ではないかとも思っている』

 そうだよな。俺も他人から賢者のステータスを見せられたら、これは本当なのかって疑うと思うよ。


 次いで魔獣討伐訓練の話に移った。

 聖女と連絡を取り合い、彼女たちの訓練にこっそりついていったことを説明したよ。そこでオーガロードに襲われたことも…。

 なお、参考までにオーガロードのステータスについても配った資料の中には記述している。

 パレッタ氏が唸りながら嘆息した。

『むう、この帝都近郊の森でこれだけの魔獣に出くわすとは、彼らも運が無いな。よく倒せたものだ』

『いえ、おそらくですが、これもクロムエスタ神国の人間による聖女暗殺計画の一つではないかと推測しています。あと、倒したのは俺ですが、勇者が撃退したってことにしてもらってます』

『なるほどなぁ。あっ!もしかして賢者の狙撃とオーガロードの一件を合わせて、ニホン人たちの帝国での活動が危険だという風潮に持っていこうとしているのか?』

 さすがはパレッタ氏、いやパレートナム課長補佐だ。洞察力(いや戦術眼と言うべきか)は大したものだね。


 俺はパレッタ氏へ以下のお願いをした。

『ニホン人たちのエーベルスタ王国への移住。その実現のために勇者であるサガワ君が帝国政府と交渉するらしいです。我々はその側面援護を行いたいと思っています。ただ、それが可能なのは、すでに帝国貴族に伝手(つて)を持っているパレッタさんだけなのですよ』

『ふむ。俺が知己(ちき)を得ている貴族の中には、帝国政府の上層部に影響力を持つ者も少なくない。だが、俺がそれを成したとして、我が国への見返りは?』

『はい。我がエーベルスタ王国と貴国ビエトナスタ王国共通の利点(メリット)としては、ニホン人たちが帝国の戦力として組み込まれることによる帝国軍の増強、それを阻止すること。これがまず一点です』

『それだけでは弱いぞ。エーベルスタ王国が一方的に利を得るだけではないか』

『ええ、なので今後10年間、ビエトナスタ王国が我が国以外の他国から攻め込まれたとき、俺一人が貴国の援軍として参戦することをお約束します。防衛戦闘に限ってですが…』

『それはありがたい申し出だが、あんた一人だけってのは弱いな。戦いは数だぜ』

 うーん、俺が本当のステータスを明らかにすれば俺一人の参戦でも納得してもらえるはずだけど、さすがに全属性の魔術師であることを教えるのは無理だ。


 ここでイザベラお嬢様が口を開いた。

『貴国国防軍第二部第三課からの報告は上がってきてないのか?この男は仲間五人と共に50人以上の近衛騎士団と戦って勝利した強者(つわもの)だぞ』

『はぁぁぁぁ?!戦力比が約9倍で、しかも相手が近衛騎士団だって?そんな冗談みたいなことが…って冗談だよな?』

 ちなみに、第三課ってのはビエトナスタ王国の諜報部門(国防軍第二部)の中でエーベルスタ王国を担当している部署だ。さすがにあの時の騒動は隠蔽できないほどの規模だったし、他国の密偵にも気づかれてしまったことだろう。

『あなたが人工遺物(アーティファクト)を使って召喚したアークデーモンを覚えていますよね?俺はその魔獣の力をいつでも借りることができるのですよ。騎士団との戦闘にも参戦してもらいました』

『えっ?そうだったのか?私もそれは初耳だぞ』

 イザベラお嬢様も驚いていた。彼女が俺の屋敷に着いたときには、メフィストフェレス氏は帰還済みだったからね。

 あと、戦った相手である近衛騎士団の騎士たちにも、アークデーモンの件についてはしっかりと口止めしておいたのだ。


『うーむ、あんたが参戦するってことは、そのアークデーモンも参戦してくれるってことになるわけか。そいつはすげぇや。それにしても近衛騎士団と戦ったってことは、あんたはエーベルスタ王国では犯罪者ってことになるのか?もしも我が国へ亡命したいのなら歓迎するぞ』

 パレッタ氏が本心から(なのかどうかは分からないけど)心配そうに申し出てくれた。

 イザベラお嬢様がちょっと呆れたように発言した。

『第五課の人間だからエーベルスタ王国の内情には(うと)いのだろうが、この男サトル・ツキオカはすでに男爵位に叙されているし、近衛騎士団長は捕縛されて断罪済みだぞ』

 これを聞いたパレッタ氏の表情があまりの驚きで埴輪(はにわ)のようになっていたよ。目と口がまん丸に開けられた状態だ。


 一分間程度はフリーズしていただろうか。

 ようやく復帰したパレッタ氏がこう言った。

『分かった…。俺の機関の総力を挙げて、帝国政府への工作をやってやろうじゃねぇか。ただ、先ほどの内容は口約束だけじゃなく、しっかり契約書を作らせてもらうぞ』

『ええ、もちろんそれで結構です。どうぞよろしくお願い申し上げます』

『あんた、男爵ってのが本当なら、その態度はちょっと腰が低すぎるぜ。もっと貴族らしくしてくれよ』

 貴族らしく?それって偉そうにするってこと?いや、無理でしょう。日本人だったら『長幼(ちょうよう)(じょ)』は体に染みついてるからね。


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