227 魔獣討伐訓練⑤
「えっと、この帝国の中にあるバチカン市国みたいな宗教国家ですよね。その国がどうしたんですか?」
「クロダ先生をクロスボウで撃ったのは、クロムエスタ神国の諜報部員だったんだよ」
「「「えええ?」」」
俺のセリフに『クロ』が三回も出たけど、別に韻を踏んだわけじゃないよ。
あくまでも推測であることを前提に、ゴルドレスタ帝国がクロムエスタ神国に対して取るであろう対応を説明してあげた。
聖女の存在を許容できない狂信的な宗教国家に対して、帝国が有効な対策を打ち出せないであろうことを…。
「今回のオーガロードもクロムエスタ神国の人間がこの場に誘導してきたと考えれば辻褄が合う。森の中のそれほど深くない位置に、オーガではなくオーガロードが現れたこと自体に違和感があったしな」
サガワ君が叫んだ。
「そうか!MPKだったのか!」
ん?MPKって何だ?
サガワ君の説明によるとMMORPGで、他のプレイヤーをモンスターを使って殺すことをそう呼ぶらしい。
モンスター・プレイヤー・キルの頭文字ってことだな。
「要するにだ。君たちがこのまま帝国にいた場合、何度でも命を狙われる危険性があるんだよ。だったら勇者パーティーの修行場所をクロムエスタ神国の手が及びにくいエーベルスタ王国にすれば良いんじゃないか?幸いなことに、ゴルドレスタ帝国にとってのエーベルスタ王国は友好国だからね」
俺の提案に即座に反応したのはホシノさんだった。
「それ良い!命を狙われてるってのはショックだけど、この国を出る大義名分になるじゃん。タイキ、あんたが代表者として、帝国政府の上のほうと交渉しなさいよ!」
「お、おう。今日のことだって、もしも師匠がいなかったら全員死んでたってことだからな。クロダ先生が狙撃された件と合わせて何とか交渉してみるわ」
このとき、静かに横たえられていた騎士たちのほうから呻き声が聞こえてきた。そろそろ目が覚めたのかな?
俺は小声でこう言った。
「それじゃ俺は消えるよ。このあとの連絡については、いつも通り宿屋のほうへよろしく」
【アイテムボックス】から取り出した認識阻害のローブを羽織ったあと、騎士たちのいる場所から離れるように距離をとった俺だった。
「え?消えた?」
クロダ先生の声が聞こえたけど、あなたも【隠蔽】スキルで似たようなことができるからね。そんなに驚くほどじゃない(と思う)。
・・・
このあと、目覚めた騎士たちに状況を説明したあと、早々に帰還の準備を始めた彼ら。
騎士たちは『さすがは勇者様だ』とサガワ君をめっちゃ持ち上げていたよ。サガワ君自身は居心地が悪そうだったけどね。
そのサガワ君をにやにやと意地の悪い顔で眺めていたのがホシノさん。うん、全く聖女っぽく無いね。
来た道をたどって森を抜けたとき、そこには逃げたポーターの男が小さくなっていた。
「も、申し訳ありやせん。あっしだけで逃げてしまい…」
オーガロードにぶっ飛ばされた騎士二人は苦い顔をしていたけど、ホシノさんが聖女らしくお淑やかな口調でこう言った。
「大丈夫ですよ。あなたが無事で良かったです。私たちも勇者のおかげで助かりましたし、お気になさらず」
ポーターの男が女神様を崇拝するような表情で、熱い視線をホシノさんに向けていたよ。てか、ホシノさん、すごい猫をかぶってるね。ちょっと感心した。
帝都への帰路も問題なく…かどうか、実は知らない。
なぜなら彼らは騎馬と馬車だけど、俺のほうは徒歩だからね。もう【空間魔法】を使って急いで追いかける必要もないし…。
のんびりと風景を眺めながらの散策といった風情で街道を歩き続けて、帝都へ帰り着いたときにはすでに日が落ちかけていた。結構、遠かった。
で、宿屋へ戻った俺をイザベラお嬢様とエリさんが出迎えてくれたよ。
「サトル君、おかえり」
「イザベラお嬢様、エリさん、ただいま戻りました」
このあと、俺の部屋に三人で集まり、オーガロードが出現したこと、勇者・聖女・賢者と会話できたこと、彼らがエーベルスタ王国への亡命を希望していること等を説明していった。
いやはや、それにしても今日は疲れたよ。晩飯食べたらすぐに寝ようと、固く決心した俺だった。




