225 魔獣討伐訓練③
勇者と賢者が胡散臭そうに俺を見ている。まぁ、そうだろうな。必ずしも味方とは限らないからね。
俺は日本語で自己紹介した。
「俺の名はサトル・ツキオカ。日本人で、元・大学生だよ。Fラン大学だったけどね」
この場の年長者である賢者が代表して質問してきた。
「ツキオカさんも召喚されたのですか?」
「いや、違う。転移した場所はこういう森の中だったからね。他国だったけど…」
「勝手に転移したのですか?」
「うーん、これは推測なんだけど、君たちの召喚に巻き込まれたんじゃないかと思っている。ちょうど一年前という転移の時期が一致しているんだよな」
そうなのだ。根拠は無いけど、ゴルドレスタ帝国が召喚を行わなければ、俺の異世界転移も発生しなかった気がするのだ。いや、あくまでも推測です。
勇者は右手に抜き身の剣(ロングソードかな?)を持ったままなんだけど、腕自体はだらりと下げている。しかし、まだ鞘には納めていない。
その状態のまま、発言した。
「俺はタイキ・サガワ。この国に召喚された勇者だ。俺と聖女は元・高校生で、賢者は教育実習で俺らの高校に来ていた元・大学生ってわけ。あんたには一応礼を言っておくぞ。さっきはオーガロードから助けてくれてありがとう」
「いや、同胞で、かつ異世界転移仲間だからね。気にしないで良いよ」
続いて賢者のほうも自己紹介してきた。
「私はサチ・クロダです。もしかして同い年でしょうか?私は今22歳なんですけど」
「ああ、そうみたいですね。俺も22歳ですよ」
クロダ先生がちょっと嬉しそうに微笑んだ。自分だけが転移者の中での最年長であることにプレッシャーを感じていたのかもしれないな。
この場から離れて騎士たちを治癒していた聖女が小走りで戻ってきた。
彼女は勇者であるタイキ君の後頭部を平手ではたきながらこう言った。
「タイキ!あんたいつまで剣をぶら下げてんのよ。あと、言葉遣い!目上の人には敬語を使いなさい!」
おぉ、俺の脳裏には『姉さん女房』とか『かかあ天下』という言葉が浮かんだよ。勇者は聖女の尻に敷かれているのだろうか?
「いってえなぁ、アカリ。ああもう、分かったよ。ツキオカさん、失礼しました」
「いや、別にタメ口でも構わないよ。ほぼ同年代なんだし」
「だよなぁ」
サガワ君のセリフを聞いたホシノさんが、すかさず後頭部へ(物理的な)ツッコミを入れていた。夫婦漫才か。
「人の頭をポンポン叩くなよ。えっと、それでツキオカさんは俺らに接触するために来たんですよね?」
「ああ、冒険者としての依頼でね。ゴルドレスタ帝国に現れたニホン人の戦力を調査し、できれば接触を図ること。それが俺の受けた依頼であり、そのためにエーベルスタ王国から来たんだよ」
受注した依頼内容を口に出して良いのか?って問題はあるけど、ここは正直に言っておきたい。
聖女であるホシノさんが口を挟んできた。
「あ、言い忘れていたけど、騎士さんたちは大丈夫だったよ。骨は何か所か折れていたけど、命に別状はないみたい。今は気絶しているから、その間にできるだけ情報交換しておこうよ」
ここからは俺の持っている知識と、彼らが教えられている知識のすり合わせだ。てか、やはりかなりの部分を秘密にされていたようだ。
「はぁ~、勇者といっても特別な力は無かったわけですね。聖女であるアカリもそうだけど」
「いや、それは分からないよ。職業の表示で『勇者』や『聖女』という記述を今まで見たことが無いからね。もしかしたら何らかの条件でスキルが限界突破するかもしれない」
そうなのだ。勇者と言えば『聖剣に選ばれし者』って感じだけど、もしかしたらこの世界にも『聖剣なんちゃら』が存在していて、それを手にした瞬間に特別な能力が開花・覚醒したりするかもしれない。
「だったら嬉しいですけどね。ところでツキオカさんのステータスって、俺の【鑑定】スキルでは見えないんですけど、【水魔法】の魔術師なんですよね?」
「冒険者ギルドに登録してある情報では、【風魔法】と【光魔法】の二属性ってことになっているよ」
「いやいや、さっき【アイススピア】を使ったって言ってましたよね?それって【水魔法】では?」
「まぁ、実際は三属性ってことになるかな。秘密にしているけどね。ああ、一応【風】は初級、【水】と【光】は中級まで発動できるよ」
「ええ、すごいですね。俺なんて【火魔法】だけですよ。羨ましいな~」
サガワ君から羨望の眼差しで見られたよ。いや、本当は全属性なんですけどね。




