223 魔獣討伐訓練①
勇者たち一行(勇者・聖女・賢者)は幌付きの馬車の荷台部分に乗り、御者台には荷運び人の男が二人並んで座っている。
あと、護衛の騎士は三人とも、それぞれ馬に騎乗している状態だ。
俺は認識阻害のローブを着て、【空間魔法】の【ジャンプ】を発動しながら、なんとか彼らに後続している。見つからないようにね。
幸いなことに騎士もポーターも【看破】スキルを持っていなかったので、尾行していくのは難しくない。
一行は帝都から北へと延びる街道を進んでいる。目的地の森までは、この速度だと片道2時間くらいだろうか?
元々主要な街道上に魔獣はほとんど出現しないんだけど、それでもまれに出くわすときもあるので、騎士たちは常に警戒している。てか、交代で必ず三騎中の一騎が先行偵察しているね。
ちなみに、騎士たちのステータスだけど、【剣術】【徒手格闘術】【乗馬術】の平均値が50~60程度なので、騎士団の中では中堅どころって感じかな?勇者よりは弱いね(純粋な戦闘力だけで判断すると…)。
なお、俺がこっそり尾行していることを勇者たちは知らない。こちらから勇者たちへの連絡手段が無いためだ。
多分、聖女のホシノさんは森の中で出会えると思っているんじゃないかな?まぁ、どうやって接触するかは現地で臨機応変に考えるしかない。出たとこ勝負だな。
しばらく進むと、ようやく森の入口が見えてきた。
魔獣には一匹も出会わなかったけど、先行した騎士が倒していたのかもしれない。まぁ、倒していたとしても、魔石や素材のはぎ取りはしていないだろうけどね(時間節約のため)。
森の中へは徒歩で入る。馬車と一人のポーター、騎士の一人と馬たちはここで待機だ。
騎士A・勇者・聖女・賢者・ポーター・騎士Bという隊列(一列縦隊)で細い獣道へと分け入っていく一行。
俺はかなり距離をとって尾行する。街道上とは違って、草をかき分ける音や気配なんかで気づかれてしまいそうだからね。
ちなみに、この森には浅い部分にEランク魔獣のホーンラビットやゴブリン、深くなるにつれDランク魔獣のオークやCランク魔獣のオーガなどが出るそうだ(事前に予習済み)。
帝都の近くだからなのか、それほど強い魔獣は出現しないらしい。龍種は100%いないそうだ(大きな身体では森の中で機動力が落ちるせいだろう)。
戦闘訓練なので、騎士たちはできるだけ手を出さず、勇者の剣技と【火魔法】、それに聖女の【光魔法】をメインに戦っていた。賢者は何もしていないが、何もできないと言ったほうが正確かな(魔法は使えないし、戦闘系のスキルも無いからね)。
順調に森の奥深くへと進んでいく一行。すると、木々が途切れていて、少し開けた広場みたいなところへと到達した。
どうやらここで小休憩を行うらしい。騎士やポーターが石を組み合わせて竈のようなものを作り、【スモールファイア】の魔道具で焚火を起こしていた。
あと、少し離れた場所にポーターが背負って持ってきた木の板を使って囲いを作り、穴を掘って簡易トイレを製作していたよ。【土魔法】無しでは大変な労力だな。
俺も木に隠れながら、座って休憩をとった。何気に歩き通しで疲れていたのだ(【空間魔法】の【ジャンプ】を多用したとはいえ)。
【アイテムボックス】から取り出した飲み物を飲んで一息ついたけど、本当は食べ物も出したいところだ。臭いでバレるから出せないんだけど…。
勇者たちもお湯を沸かしてお茶を淹れていたのだが、水はポーターが背負っていた水瓶から供給されたものだ。【水魔法】の魔術師がいれば、水に関する苦労は無いんだけどね。
てか、【アイテムボックス】の威力って、やっぱすごいよ(チートスキルだ)。
ほぼ全員が和んでいるけど、一応ここは森の中…。騎士の一人は常に周囲を警戒していて、魔獣の出現に備えている(さすがはプロだ)。
もう一人の騎士は、賢者に剣の使い方をレクチャーしていた。実は賢者の腰にはショートソード(妹のナナも愛用している小振りの剣)が佩かれていたのだ。
『賢者様、あなた様への【コーチング】ができない理由は不明でございますが、自力でスキルを獲得できる可能性はあります。剣を使用していれば自ずと【剣術】スキルを取得できるはずでございますので、頑張りましょう』
このあと剣の握り方や振り方等、懇切丁寧に指導していたよ。体幹がブレブレで、剣の重みに振り回されていたけどね。
『クロダ先生、無理しなくても良いからね。先生の分まで私たちが頑張るからさ』
『そうですよ。戦闘は俺に任せてください。先生は俺らの保護者として、そこにいてくれるだけで良いんですから』
聖女と勇者が口々に、賢者を思いやる言葉をかけていた。ふむ、思った通り、良い子たちみたいだな。どうやらこの二人は、あの狙撃手(暗殺未遂事件の実行犯)の黒幕ってわけじゃないな(俺が勝手に抱いた印象だけど)。
うーん、それにしてもどうやって彼らに接触しようかな?この森にたまたま訪れていた冒険者として声をかけようか?
メフィストフェレス氏を呼び出すのは最終手段だしな~。




