219 聖女との会談②
「魔装具というのはスキルレベルを向上させることができる魔道具の一種だよ。俺も【鑑定】と【耐鑑定】の魔装具を装備しているけど…」
「そんなの教えてもらってませんよ。なんか他にも教えてもらってない知識がありそうですね。まさかとは思いますが、魔王なんていなかったりして?」
ホシノさんが眉を顰めつつも冗談っぽく発言したのだが、即座にイザベラお嬢様が答えていた。
「魔王なんていないぞ。いや、いるとすればこの男、サトル君がそうかもしれないがな」
「ちょっ、俺は魔王じゃありませんからね。全く人聞きの悪い…。あ、ホシノさん、イザベラお嬢様の言葉は冗談だから本気にしないようにね。まぁでも、魔王がいるという話は俺も聞いたことが無いよ」
「え?嘘…」
ホシノさんがショックを受けたような顔をしている。そりゃそうか。魔王を倒すため、勇者たちを召喚した。そう教えられていたのだろうから…。
「あの~、ツキオカさんを【鑑定】してみても良いですか?」
「ん?別にわざわざ断る必要は無いよ。もっとも俺の【耐鑑定】のスキルレベルが高すぎて、【鑑定】できないと思うけど…」
「え?【鑑定】を使うと、それが相手に分かってしまうから、むやみに使わないようにって言われていたんですけど…」
イザベラお嬢様が呆れたような口調で発言した。
「それも嘘だぞ。君たちが周りの人間を【鑑定】することで、勇者や聖女の能力がそんなに大したものじゃないってことに気づいてしまう。それを防いでいるのだろうな」
俺も慌てて付け加えた。
「大したこと無いわけじゃないよ。君たちの年齢を考えれば、かなり素晴らしい能力だと思う。ただ、超人ってわけじゃなく、人の枠の中には収まっているかな?って感じだけどね」
「そ、そうだったんですね…。私は自分の能力がこの世界の中で最上位にあるのだとばかり思ってました。ショックです…」
ガーンという擬音が聞こえそうだ。
ここで護衛の男の一人がゴルドレスタ語で話しかけてきた。
「皆様、エーベルスタ語で会話せずに、ゴルドレスタ語で会話していただければありがたいのですが…」
ん?俺たちは日本語で会話していたんだけどな。あぁ、事前にルナーク商会がエーベルスタ王国から来たことを調べていたから、この会話がエーベルスタ語によるものだという先入観を持っていたのかもしれないね。
ちなみに、護衛の男たちは予想通り監視者というかお目付け役なのだろう。今の発言を聞く限りでは…。
帝国政府にとって都合の悪い情報を聖女に知られると困るのだと思う。
俺は日本語でこう言った。
「後ろの男たちは君を監視しているんだと思う。とりあえず、当たり障りのない会話で終えよう」
このあとゴルドレスタ語に切り替えた。
『聖女様、お礼には及びませんよ。賢者様が助かってようございました』
『ええ、ありがとう。あなたに神のご加護を』
ホシノさんもうまく合わせてくれたよ。
イザベラお嬢様もゴルドレスタ語でこう言った。
『我がルナーク商会もどうぞよろしくお願い申し上げます。こちらは聖女様への献上品でございますれば、どうぞご笑納くださいませ』
テーブルの下に手を入れたのは【アイテムボックス】を隠すためだろうけど、取り出されたのはリバーシだった。
『これはエーベルスタ王国で流行しておりますリバーシと申す遊戯板でございます。ぜひこの面白さをご宣伝いただければと思います』
さすがはイザベラお嬢様だ。商魂たくましいな。
『ありがとう。ルナーク商会?あら、サティ・ルナーク様が創始者なのかしら?良い名前ね』
それって乙女ゲームの登場人物の名前じゃなかったっけ?たしか…。
この後もなんてことはない雑談に終始した。本当は狙撃者の身元など聞きたいことは山ほどあったんだけど、監視者がいる手前、聞くことは難しい。
何とか護衛の男たちを撒いて、聖女単独でここへ来てもらえれば良いのだが…。あと、勇者や賢者とも接触できれば良いんだけどな。
・・・
聖女たちが帰ったあと、テーブルを囲んでいるのはイザベラお嬢様と俺、そしてエリさんだ。
ここからはエーベルスタ語による会話になる。
「どうやら勇者や聖女は帝国に騙されている感じだな。異世界人を良いように操ろうとする意図が露骨に見えているぞ」
「そうですね。俺もそれは感じました。ただ、魔王がいないことを伝えられたのは良かったと思いますよ」
ここでエリさんが不思議そうに質問してきた。
「お嬢様、サトル様。先ほどの会話は何語だったのですか?私は周辺国の言葉をほとんどマスターしておりますが、恥ずかしながら先ほどの会話については全く理解することができませんでした」
「ふふん、サトル君の故郷であるニッポン国の言葉だぞ。私は彼から教えてもらったのだよ」
いや、それは嘘だけどね。ただ、転生を隠したまま、話の整合性をとるにはそう言うしかないか…。
「やはり聖女たちニホン人は、サトル様と同じニッポン人だったのですね。そういえば、昨日も賢者のことを『同郷の女性』と仰ってましたね」
「ええ、勇者も聖女も賢者も俺の同胞ということになります。だからこそ、あの三人を助けてあげられるものなら、助けてあげたいのですよ」
「くくく、傲慢なセリフだが、サトル君にはそれを言うだけの実力があるからな。そういうところ、私は嫌いじゃないぞ」
イザベラお嬢様から褒められたよ。
それはさておき、あの三人(聖女であるホシノさんだけでも良いけど…)と何とか情報交換をしたいものだ。まぁ、相手のほうから再度の接触を図ってきそうではあるけどね。




