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217 襲撃

「エリさん、10時の方向、三階の窓!」

 俺の叫び声を聞いたエリさんの姿が一瞬でかき消えた。クロスボウを構えた人物(おそらく暗殺者)のいる建物の一階入口へと入っていく影のような残像を見たような気もするけど、まさかあれがエリさんだったのかな?

 人間の動体視力では捉えられないくらいの速さだったよ。『くノ一』って、すげぇ。


 しかし、さすがのエリさんも間に合わず、クロスボウの矢は発射されてしまったようだ。

 俺の魔法も、イザベラお嬢様の魔道ライフルも射程外であるため、ここからでは何もできなかったのが悔やまれる。

 そして、三階から放たれた矢は狙い過たず、座っている賢者の太腿に突き刺さったのが見えた。彼女の悲鳴が大通りに響き渡り、(あた)りは騒然となっている。

 賢者は聖女と同じような白い装束を身に(まと)っていたんだけど、純白のロングスカートの太腿部分が出血によってじわじわと真っ赤に染まっていくのが見えた。

 出血量は気になるけど、あれならおそらく致命傷にはならないと思う。不幸中の幸いだ。


 ところが、暗殺者はすでに二射目を準備していた。次は頭部か心臓を貫くかもしれない。馬車が急停止したせいで、先ほどよりも狙いをつけやすくなっているはずだからね。

 騎士たちが慌てながらも大急ぎで賢者の周りに集まり、壁を作っている。…が、矢は頭上から降ってくるのでムダだろう。

 数人の騎士は周囲を見渡して狙撃手の姿を探しているようだが、まだ見つけられないようだ。


 二射目が放たれる!そう俺が感じた瞬間、暗殺者の背後から別の人物の腕が突き出され、そのまま裸締めの態勢に入ったのが見えた。

 頸動脈が締められたことで意識を失ったのか、すぐに暗殺者の両腕がだらりと垂れ下がるのが見えたよ。

 うん、あれは間違いなくエリさんだな。さすがですね、さすエリ!


 てか、動揺しまくっていて忘れていたけど、【空間魔法】の【ジャンプ】で暗殺者のいる窓へと飛び込めば良かった。十分に到達可能な距離だったよ。

 俺が心の中で反省していると、すぐにエリさんが戻ってきた。

「サトル様。あの者は縄で縛り上げたあと、床に転がしております。その身体の上にはゴルドレスタ語でこう書いた紙を置いてきました。『この者、暗殺者』と…。それと、騎士の一人に暗殺者の居場所を耳打ちしておきましたので、ほどなくして捕まることでしょう」

「エリさん、よくやってくれました。同郷の女性を助けていただいたこと、本当に感謝します」

「いえ、一射目の阻止には至りませんでしたので、申し訳なく感じております」


 本当に申し訳なさそうにしているけど、あなたの働きは素晴らしかったよ。もしもエリさんがいなかったら、あの暗殺者は賢者の女性を殺害し、さらには逃げおおせていたかもしれない…。

 逆に奴にとっては、エリさんの存在こそが計算外だったということになるだろうね。

「な?エリは、すごいだろ?」

 イザベラお嬢様がめっちゃドヤ顔になっている。うん、すごいです。俺にエリさんをいただけますか?(聞くまでもなく、100%無理だと思うが…)


 後方で発生した騒ぎに気づいたのか、まず聖女が、次に勇者が賢者の元へと駆け寄ってきた。

 矢を抜いてから、聖女の【光魔法】で治癒すれば大丈夫だろう。中級魔法の【グレーターヒール】も使えるしね(初級魔法の【レッサーヒール】で十分だとは思うけど…)。

 一応、【鑑定】で賢者の『状態』を確認しておこう。


 あ、やばいな、これ…。


 どうやら矢には毒が塗られていたらしい。

 ステータスの『状態』が『毒状態(アコニチンによる)』となっているよ。アコニチンってトリカブトの毒成分だっけ?

 あの聖女の()って、賢者の状態を確認して、きちんと解毒魔法の【グレーターキュア】をかけてくれるだろうか?賢者の【耐鑑定】が高すぎるから『毒状態』であるのに気づかないって可能性も…。

 いやいや、聖女が気づかなくても、きっと周りの騎士たちが気づくだろう。うん、気づくはずだ。


 俺の様子が変わったのを見咎めたのか、イザベラお嬢様が質問してきた。

「どうした?サトル君」

「あれは毒矢だったみたいです。きちんと対処してくれるかな?…と思いまして」

「ヒールをかけて元気にならなかったら、さすがに気づくだろ?」

「とは思いますが、ちょっと心配ですね」

 もっと近くに行ってみようかな?…とは言っても、不審者が近づかないように、騎士たちが賢者の周囲に自らの身体を盾にした形のバリケードを作っているけどね。

 うーん、どうする?

 停車している馬車の近くの建物にこっそり不法侵入して、二階か三階の窓から賢者の様子を(うかが)う?


 うん、人の命には代えられないよな。もしものときの保険にはなるけど、いざというときに【光魔法】を発動できる距離まで近づいておきたい。

 もしくは、聖女に声が届く距離でも良い。

「ちょっと近くに行ってきます。念のため…ですが」

 俺はイザベラお嬢様に一声かけてから、【空間魔法】の【ジャンプ】を使って二階の窓から大通りへと()り立った。

 なお、認識阻害のローブが俺の【アイテムボックス】には常備されているんだけど、それを取り出して羽織ったりはしていない。騎士たちの中には【看破】のスキル保持者が割といたからだ。

 そんな中で認識阻害を発動するのは逆に目立つからね。

 それにしても【看破】スキル持ちはいるのに、【索敵】スキルを誰も持っていないのはバランスが悪いよ。だから狙撃手に気づかなかったのだと思う。まぁ、パーティーで斥候役を務める冒険者くらいしか取得しないスキルではあるけど…。

 てか、騎士の全員を【鑑定】したわけじゃないんだけどね(そんな時間は無かったし…)。ただ、誰も狙撃手に気づかなかったということは、そういうことだろうな。


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