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210 主犯の逮捕

 俺は放火の実行犯を捕まえたこと、そいつを警察へ突き出したこと、裏には主犯である元・従業員(男爵家六男)がいること等を教えてあげた。

『あなたの店の損害賠償を犯人の実家である男爵家へ請求できるかもしれません。希望的観測ですけど…』

 なぜ希望的なのかというと、男爵家当主は犯人である息子を貴族籍から除籍(要するに、勘当)して知らんぷりを決め込む可能性があるからだ。

 被害額にもよるのだろうけど、あの店にあった武器の売値を考えると、総額で100万ゴル(約1億ベルだ!)くらいにはなりそうだ。それだけの賠償を公爵家や侯爵家ならいざ知らず、一介の男爵家が負担できるものだろうか?

 俺だったら、すばやく親子の縁を切って無関係を(よそお)う(…かもしれない)。

 逆に、被害者へできるだけの賠償をしようとするような当主であれば、それは領民たちへの裏切り行為になるかもしれない(将来に渡って領地の税率を上げることになるだろうからね)。


『あの男を雇ったことと馘首(くび)にしたこと、それらは全て私の責任です。男爵様への損害賠償請求などは考えておりません。すぐに路頭に迷うこともありませんし、何か別の商売でも考えてみますよ。オウカには申し訳ないですが、この子くらいの腕があれば、どこの鍛冶屋でも引手数多(ひくてあまた)でしょうし…』

『店長、私は悔しいっす。あの先輩、いやもはや先輩じゃなくて(くず)野郎っすね。あいつが警察に捕まるのは当然ですが、店長に何も補償が無いってのは許せないっす』

 オウカさんが我がことのように(いきどお)っていた。店長さん夫妻とオウカさんとの間にある絆を感じるよ。

 とにかく、この件は警察の動きを見ながら慎重に対処していくしかないだろう。

 ネットのSNSみたいなものがあれば、世論に訴える(炎上させる)こともできるのになぁ。いや、貴族の存在する階級社会では難しいか…(不敬罪に問われるかもしれない)。


 ・・・


 店長さん夫妻とオウカさんに再度の訪問を約束して、いったん宿屋へ戻った俺。

 エリさんからの報告を聞くことと、イザベラお嬢様の知恵を借りることを考えたのだ。商会の仕事があるので、二人とも宿にいない可能性もあるけどね。

 しかし懸念には及ばず、宿に帰った俺をその二人が出迎えてくれた。

「サトル君、おかえり。被害者のケアは大丈夫だったかね?」

「ええ、火傷の後遺症がありましたが、治癒魔法で治したので大丈夫です。それで警察の動きはどうですか?」

 この質問にはエリさんが答えてくれた。

「サトル様、放火の主犯である元・従業員の男ですが、男爵家から除籍されましたので、平民としてすぐに逮捕されました。放火は重罪ですから極刑に処されることでしょう。ただ、実家の男爵家のほうへ(さぐ)りを入れてみましたが、どうやら被害者に対して賠償する気は無いようでございます」

 うーん、やはりそうか…。

 これが長男や次男だったら守ろうとしたかもしれないけど、六男だもんな。トカゲの尻尾は切り捨てたほうが良いと判断したのだろう。


「なお、これは余談でございますが、主犯の男は警察に逮捕されたあとも貴族としての権力を振りかざしておりました。ところが、実家から見捨てられたことを告げられたあとは、『そんなはずはない。お父様に会わせてくれ』と泣き(わめ)いておりましたね」

 エリさんが見てきたように教えてくれた。いや、おそらく見てきたのだろう。

 それにしてもあの男、逮捕されることは100%無いとでも思っていたのだろうか?まぁ、確かにエリさんがいたからこそのスピード逮捕だったのかもしれないけどね。


 主犯の男のことはともかく、俺は被害者である店長さんの意向を二人にも伝えた。男爵家へ賠償を求める気は無いということを…。

「平民は泣き寝入りか…。元・侯爵家令嬢の私が言うのもなんだが、酷い話だよな」

「これがエーベルスタ王国での話だったら、ミュラー閣下を通じて王室へ訴えることもできるのですが…」

「ああ、母国であれば私のほうからも色々と働きかけることができる。この国、ゴルドレスタ帝国においてある程度の権力を持った人物への伝手(つて)が無いのが悔やまれるな」

 イザベラお嬢様でも無理か…。


 ここでふと気づいたようにエリさんが発言した。

「お嬢様、あの商人であれば帝国貴族への伝手(つて)があるのでは?」

「ん?あの商人?」

「はい。パレッタ商会の会頭であるパレッタ氏でございます。あの人物はただの商人とは思えません。私と同じ匂いがするのです」

 エリさんと同じ匂い?それはつまり、暗部とか諜報員ってことかな?


「ふむ、よし!これから行ってみるか。サトル君も一緒に来てくれたまえ」

 二人と一緒に(くだん)のパレッタ商会を訪問することになったのだが、そこで俺は思わぬ人物と再会することになる。

 俺にとっては、会うのが少々気まずい人物だった。


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