021 魔装具
ひとまずの生活費の心配がなくなったので、あとは金を稼ぐ方法だな。
「ツキオカ様はどこか一つの所に長くお勤めしたいわけでは無いのですよね?」
「そうですね。いずれは祖国へ帰るつもりですし、それまでの繋ぎとなるだけのお金を稼げればと思っております」
「でしたら冒険者が良いのではないかと思いますよ。依頼を受けて達成報酬を得るという職業なんですけど、依頼を受けるのも止めるのも自由ですし…」
おぉ、冒険者!読んだことはないが、異世界ものの小説では定番の職業だったはず…。
「あ、冒険者といっても別に冒険するわけではありませんよ。冒険家とは違いますから」
いや、分かってますよ。さすがに…。
「簡単に言えば、代行業者ですね。個人事業主としての」
俺が知りたいのは、どんな仕事があるのか…だな。
「依頼にはどのようなものがあるのでしょうか?」
「街道を行く商人の護衛とか、薬草の採取とか、盗賊の討伐なんかもありますね。あと、ダンジョン探索とか…」
ダンジョン探索ってのは、まさに『冒険』でロマンがあるよな。でも御免被る。俺は暗くて狭い所が苦手なのだ。
ここでアンナさんが発言を求めてきた。
「お嬢様、私からもよろしいでしょうか?」
「ええ、良いわよ」
「それでは私からも助言させていただきます。ツキオカ様、明日の朝食のあと、私と一緒にこの街にある冒険者ギルドへ行きませんか?もちろん、お嬢様の許可をいただければの話ですけれど…」
『冒険者ギルド』ってのは聞いたことがあるな。元の世界の友人からだけど…。
たしか冒険者へ仕事を割り振る職安みたいなやつだったはず。
「私は良いわよ。もちろんツキオカ様の意向次第なんだけど」
お嬢様の許可も貰えたし、一度その『冒険者ギルド』ってのに行ってみるのも良いかもしれない。
元の世界に戻ったときの話の種くらいにはなるだろう。きっと『異世界』好きでラノベおたくな友人が羨ましがるに違いない。
で、翌朝…。
この街の警察署的なところへ行っていたマックス隊長が屋敷に戻ってきた。昨日は俺たちをこの屋敷に送り届けたあとは、すぐに姿を消していたのだ。
朝食の席、マックス隊長も交えて食事を摂りつつ、盗賊たちの取り調べの様子を聞くことにした。
「盗賊の頭だったゴランですが、やはり『デルト役場職員』の肩書は本当でした。闇魔法を使いつつ尋問を行ったのですが、役場の上司からの命令だったとのことです。そしてその上司ですが、本日未明に何者かに殺されました。おそらく口封じだと思われます」
うわぁ、なんか血生臭い話になってきたな。でも命令を下した者が死んだってことは、もうその上の黒幕には到達できなくなったってこと?
「一応、遺書を残した自殺の体で遺体が発見されまして、その遺書には『今回の事件は自分の独断である』といったことが書かれておりました。おそらく自殺は偽装で、本当は殺されたのだと思いますが…」
うーん、本当にその上司の独断という可能性も(僅かながら)あるよね。だけど、もしいるとしたら黒幕って誰なんだろう。てか、俺が分かるわけないんだけど。
「いずれにせよ、捜査は被疑者死亡のまま打ち切りとなるでしょう。そうそう、あのゴランという男ですが、面白い物を身につけておりましたよ。お嬢様、こちらをどうぞ」
マックス隊長がエイミーお嬢様に差し出したのは、材質は分からないけど金属製のネックレスだった。
「マックス、これは何?」
「魔装具でございます。その効果は【耐鑑定+22】でした。数百万ベルの価値がある物ですし、押収品としてお嬢様に献上致します」
魔装具って何?【耐鑑定+22】って、もしかしてスキルレベルを底上げできるのか?
たしかゴランの【耐鑑定】は70以上80未満だったよな(細かい数値は覚えてない)。この道具で底上げしていたってことは、本当のスキルレベルは50くらいだったってこと?
「ツキオカ様、もしよろしければこの魔装具を差し上げます。売ればかなりの額になるでしょうし、もちろんお使いになられても構いません」
お嬢様の俺への申し出に目が点になってしまった。まさかこっちに振られるとは…。
「よろしいのですか?…であれば、ありがたく使わせていただきます」
そう、俺の【耐鑑定】のスキルレベルは80だから、これがあれば102になるのだ(多分)。上限が100だったから、102にはならないかもしれないが…。
門のところにいた【鑑定】が異常に高かった役人さんのスキルレベルが90ちょいくらいだったから、おそらくその人の鑑定ですら『はじく』ことができると思う。めっちゃありがたい。なぜなら魔法スキルの数の多さがバレると、どう考えてもヤバいから…(四属性どころの話じゃないし…)。