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207 武器店にて

 エーベルスタ王国では人族と獣人族はよく見かけたけど、それ以外の人種を見たことがない。

 ところが、ここゴルドレスタ帝国の帝都にはエルフ族やドワーフ族などというファンタジー要素あふれる人々が多く暮らしていた。

 サラサラの金髪を腰のあたりまでなびかせた超絶美形の男女がエルフ族で、見た目ですぐにそれと分かるのは耳が長く尖っているからだ。

 ドワーフ族は背が低くずんぐりした体型で、髭を生やした人が多いため、こちらも見た目ですぐに判別できる。

 獣人族については、頭の上に耳が生えていたり尻尾があったりするわけでもなく、その見た目は人族と変わらない(身体能力は人族よりも上だけど)。

 なので、エルフやドワーフを見てテンションが上がってしまった俺のことを誰も責められないだろう。まさしくファンタジーだよ。


 とある武器店に入店した際、背の低い10歳くらいの幼い子が接客してくれたんだけど、その子がドワーフ族だったのだ。自己申告で、年齢は20歳(はたち)だと言っていたけどね。

 子供を無理やり働かせているのかと思ったけど、どうやら違うらしい。

『こちらの短剣は私が打ったもので、自信作でございます』

 打ったということは、鋳造(ちゅうぞう)品ではなく鍛造(たんぞう)品ってことか…。その短剣を【鑑定】してみると、なかなかの逸品であることが分かったよ。

 ドワーフ族謹製の武器というのは、普通の人族の鍛冶屋が作った物よりもずっと優れていると、以前イザベラお嬢様が言っていた。

『なかなか良い物ですね。おいくらですか?』

『はい。2万ゴルでいかがでしょう?』

 ああ、約200万ベルってことか。サーシャちゃんへのお土産として買ってあげても良いな。ただ、相場よりもちょっと高い気もする。


『1万ゴルくらいになりませんかね?』

『うーん、では多少勉強させていただいて1万8千ゴルですね』

『もう一声(ひとこえ)

『1万7千…。これ以上は無理です』

 …っと、こんな感じの値引き交渉の結果、17,000ゴルで購入した(約170万ベルってことだ)。


 俺がカバンから100ゴル札の札束を取り出してカウンターに並べていると、奥からもう一人の人物が現れた。

『お客様、こいつの作った武器を買うくらいなら、私の作ったものを買うほうがはるかにお得でございますよ。こちらなどいかがでしょう?1万ゴルでお売りしても構いませんよ』

『ちょっ、先輩!私の客を取らないでもらえますか?』

 見た目としてはおそらく人族かな?30代半ばくらいの年齢に見える。人を馬鹿にしたような笑みを浮かべていて、なんか嫌な感じ…。

 武器に対して【鑑定】をかけると攻撃力や耐久性が数値化されて表示されるんだけど、この男の手にある短剣はドワーフ族の女の子の打ったものとは比べ物にならないくらいの粗悪品だった。

『いえ、結構です。俺は【鑑定】のスキルレベルが高いので…』


 俺の言いたいことが分かったのだろう。男が激高し始めた。

『そりゃ、俺の短剣がこいつのに劣るってことかよ!ふざけんな!』

 鞘から抜いて俺に刀身を見せていた男は、そのまま俺に短剣を振り下ろしてきた。おそらくは脅しで、寸止めするつもりだとは思うけれど、十分に暴行罪が適用される行為だ。

 俺は【アイテムボックス】から即座に取り出した愛用の十手を使って、この男の短剣の刃をはじいた。すると驚いたことに、短剣の刃が折れ飛んだよ。

 男は絶句していたけど、こっちのほうが驚きだよ。この程度の衝撃で折れるような刃って、まじで粗悪品だぞ。

 冒険者の使う武器って、自分の命を懸けるものだからね。お粗末な武器の販売は間接的な殺人と言っても過言ではない。


『何の騒ぎだ?』

 店の奥からさらにもう一人の人物が登場した。かなりの年配で、物腰の柔らかそうな好人物っぽい男性だった。

『店長、大変です。先輩がお客さんに自分の短剣を振り下ろしたんっすよ』

『はぁぁぁ?いくらあなたが大恩ある貴族家のご出身でも、やって良いことと悪いことがありますよ。警察に通報せねばなりますまい』

『ま、待て!これは何かの間違いだ。いやいや、単なる冗談だぞ。客を本気で傷つけようとしたわけじゃない』

 この男を【鑑定】してみると、とある男爵家の六男だった。子沢山な男爵だな。

 てか、【鍛冶】スキルがめっちゃ低かった。この程度の腕では売り物になる武器は作れないと思う。


『あなたは馘首(くび)です。ただ、警察へ突き出すことだけは勘弁してあげましょう。お客様もそれでご納得いただけますでしょうか?』

『ええ、構いませんよ。ただ一言だけ良いですか。あなたが将来も鍛冶師として働きたいのなら、もっと腕を磨くことですね。現状では、この女の子の足元にも及びませんよ』

 俺の言葉を聞いた男は顔を真っ赤にして(いきどお)っているようだ。いや、恥ずかしいと思っているのなら、まだ見込みはあるかな?

『くそがっ!お前ら覚えてろよ。お父様に言いつけて、この店なんか簡単に潰してやるからな』

 ダメだ、こりゃ…。貴族のボンボンってのは、どこの国でも同じなのか?いい歳して『お父様』って…。

 いつになるか分からないけど、俺に子供ができたら(しつけ)や教育には気を付けよう。そう、心に誓った瞬間だった。


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