203 盗賊団との戦闘
馬車は三台で、先頭の馬車には商会員三名(全員男性)とマクベス氏、二台目の馬車には商会員三名(男性一人と女性二人)とカミーラさん、殿の馬車には商会員三名(全員女性)+イザベラお嬢様と俺が乗っている。
つまり、この旅に参加しているルナーク商会の商会員は、男性四人と女性五人(イザベラお嬢様を含めると六人)なのだ。このうちある程度の戦闘力を持っているのは、男性全員と女性三人ほどらしい。
…ってことは、マクベス氏やカミーラさん、俺以外にも七人が戦えるってことだな。あ、イザベラお嬢様自身も『ツキオカ流アイビー護身術』で戦えるけど…(遠い目)。
王国内では特に魔獣や盗賊に出会うこともなく、二週間ほどで国境の検問所へと到着した。
ここからゴルドレスタ帝国内へと入国し、首都である帝都まではさらに二週間ほどかかるらしい。
ちなみに、検問所では身分証明のために冒険者カードを提示しなければならないんだけど、Aランクのマクベス氏やBランクのカミーラさんは良いとして、俺のFランクのカードが検問所職員の注目を集めてしまったよ。
『まじかよ』って顔で見られたのだ。いや、分かるけどね。最低ランクだし…。
「そうか…、サトル君は冒険者登録してから一年も経ってないんだなぁ。というか、君がどれだけ戦えるのか俺たちは知らないのだが…」
「私も【鑑定】のスキルレベルが低いから、君のステータスが見えないのよね。たしか魔術師ではあるのよね?」
マクベス氏とカミーラさんから口々に質問された。同じ護衛依頼を受けた仲間なんだから、もっと早くに伝えておくべきだったかな。
「はい。【風魔法】と【光魔法】を使える二属性の魔術師です。自衛できるヒーラーって感じですかね」
一応、冒険者ギルドに登録している情報だけは伝えておこう。てか、これ以外の魔法を使わないようにしないとな。
「うーん、二属性の魔術師とはなかなか希少な存在だな。数年後、最低でもCランクくらいには昇格できるだろうさ」
「ええ、それに治癒担当がいるのは、安心感があるわね。もちろん、ポーション類は常備してるんだけど」
そう、治癒ポーションや解毒ポーションがあれば【光魔法】の魔術師は要らないんだよな。だからこそ、オーレリーちゃんを俺たちのパーティー『暁の銀翼』へ引き抜いたんだけどね。
カミーラさんも別に嫌味(オーレリーちゃんを引き抜いたこと)を言ったわけじゃないのだと思う(多分…)。
「そういえば、マクベスさんとカミーラさんはゴルドレスタ語のほうは大丈夫なんですか?」
「俺は騎士爵家の出身だからな。仮想敵国の言語学習は必修だったよ」
「私って実はゴルドレスタ帝国出身なのよ。エーベルスタ王国のほうが住みやすくて、移住したのよね」
ゴルドレスタ帝国の周辺国家にとって、帝国からの侵略行為は常に考慮しておかなければならない事態らしい。周辺国から帝国へ宣戦布告することは無いけれど、帝国から攻め込まれる可能性はあるってことだな。なので、貴族階級にとってはゴルドレスタ語の学習が必要なんだそうだ。
あと、カミーラさんが帝国出身だったとは知らなかったな。冒険者が国に縛られない自由人だってのがよく分かる。まぁ、実際に国家間を移動するには『言葉の壁』という問題があるんだけどね(俺にはないけど…)。
「うちの商会員たちもペラペラとまではいかないが、ある程度は話せるぞ。でなきゃ連れてこないけどな」
イザベラお嬢様もドヤ顔を披露していた。
なお、検問所には少し広くなった空き地があって、現在、俺たちはそこに馬車を停めて小休憩しているという状況だ。順調にいけば帝都まであと二週間…。まだまだ先は長いな。
・・・
ゴルドレスタ帝国の街道も物流のためにしっかりと整備されているようで、馬車の旅は割と快適だ。
宿の食事もエーベルスタ王国とそんなに変わらず、文化的には似ている気がする。いや、少しは違うかな。同じヨーロッパで隣国同士であっても、フランス料理とドイツ料理が違うようなものか。
ある森を抜けたあと、小高い丘の横を通る街道にさしかかった。丸い丘に沿って街道が造られているので、先のほうの見通しは悪い。
左手には丘があり、右手には川が流れているため、街道の前後を塞がれるとかなりヤバい感じになるような地点だ。
そこに人相の悪い男たちがぞろぞろと現れた。前方に10名、後方にも10名ってところか。どうやら挟まれてしまったようだね。
こちらは総勢13名で、かつ護衛の冒険者は3名のみ。普通だったら降伏して命乞いする場面だな。もちろん、降伏なんてしないけど…。
顔中が髭に埋もれている大男が一歩前へ進んで、こう言った。
『お前ら、武器を捨てろ。積み荷は馬車ごといただくぜ。ああ、男は殺すが、女は助けてやる。ただし、死んだほうがマシだと思うかもしれねぇがな』
ゴルドレスタ語だな。いや、当然か。
先頭の馬車にいるマクベス氏が長い槍を掴んで御者台の上に立ち上がった。
『命が惜しくば立ち去れ。今なら見逃してやる』
『ああん?兄ちゃん、かっこつけてんじゃねぇぞ。真っ先に殺してやるよ。お前ら、殺れ』
…って、自分でやらんのかーい。
三人くらいの手下が一斉にマクベスさんに襲いかかったのが見えた。
しかし、流れるような槍捌きで賊たちを一瞬のうちに絶命させていた。すげぇ。さすがは【槍術】スキルが100だよ。
…っと、よそ見をしているうちに、後方からの賊たちが俺の乗る最後尾の馬車へと接近してきた。
俺は箱馬車の屋根の上に乗って、そこから【風魔法】の【ウインドカッター】をそいつらへと放った。
鮮血を撒き散らしながら、一人また一人と倒れていく賊たち。殺傷力の低い【ウインドブラスト】を使わなかったのは、威嚇の効果を狙ったからだ。
五人ほど倒したら、残りの賊たちは腰が引けたようになった。じりじりと後退しつつ俺から距離を取り始めたよ。逃げ出すのも時間の問題だな。
中央の馬車にいるカミーラさんは前方と後方のどちらに加勢しようか迷っていたみたいだけど、前方のマクベス氏を援護することにしたみたい。
【火魔法】の【ファイアアロー】を放って、マクベス氏を包囲しようとした賊を躊躇なく燃やしていた。
なお、最初にしゃべっていた髭面の大男だけど、丘の斜面を駆け上がって逃げようとしているのが確認できた。うーん、逃げられると厄介だな。
…っと、ここでイザベラお嬢様が御者台の上にすっくと立った。両手でライフル銃っぽいものを構えているよ。え?まさか魔道武器ですか?
おそらく引き鉄を引いたのだろう。大男が丘の斜面上にうつ伏せに倒れて動かなくなったのが見えた。
「イザベラお嬢様、それは?」
「こいつは【土魔法】中級の【ストーンライフル】を発動できる魔道武器さ。私の切り札だな」
中級魔法だって?それはかなりすごいのでは?
「初級魔法である【ストーンバレット】の魔道武器なら価格は350万ベルくらいなんだが、こいつは特注品でね。作るのに1000万ベルはかかったぞ」
たしか魔道武器って免許が必要だったのでは?
俺の疑問が顔に出ていたのか、イザベラお嬢様が上着の内ポケットから何かのカードを取り出して俺に見せてくれた。
「ほら、これが魔道武器の所持免許証だ。すごいだろ?しかもこの魔道武器、魔石の交換をカートリッジ式にしているから、魔石の残魔力量を気にせずバンバン撃てるのだ」
おっと、魔石のカートリッジ方式はすでに普及していたのか。俺が閃光銃で採用した方式だね。




