202 帝国へ出立
ミュラー公爵家やルナーク商会(イザベラお嬢様の商会)への挨拶回り、旅の準備などを進めるのに約2週間ほどかかった。
あ、もちろん冒険者ギルドの支部長には早々にこの指名依頼を受注することを伝えたよ。
問題はイザベラお嬢様がゴルドレスタ帝国へついてくると主張したことだ。いや、それは正確じゃないな。イザベラお嬢様の帝国行きに俺を護衛として雇うという話になったのだ。
「リバーシの販路を帝国へ広げるつもりだったから、ちょうど良かった。帝国の商会と代理店契約するのだが、ある程度の地位にいる人間が行かなきゃならなくてな。ちなみに、私はゴルドレスタ語がペラペラだぞ」
俺が単身で帝国へ行くよりも、商会の護衛依頼を受けた形にしたほうが怪しまれなくて(スパイ疑惑をかけられなくて)済むだろう。こちらとしてもメリットは大きい。
で、結局、ルナーク商会側の人員がイザベラお嬢様を含めて10名で、護衛の冒険者パーティーとしてAランクの『炎の蜂』を雇っていた。…って、懐かしいな。マクベス氏とカミーラさんのパーティーじゃん。
「サトル君、久しぶりだな。最近、冒険者ギルドに顔を出してないんじゃないか?」
「マクベスさん、お久しぶりです。ええ、どうも色々と忙しくて…。カミーラさんもお元気そうですね」
「ええ、ありがとう。君も元気そうで良かった。オーレリーは一緒じゃないの?」
オーレリーちゃんはマクベス氏とカミーラさんのかつての仲間だからね。気になるのも当然だ。
「この護衛依頼を受けたのは俺一人なんですよ。もちろん、オーレリーちゃんは俺の妹たちと一緒にいますからご心配なく」
なお、『炎の蜂』にはもう一人ポーター(運び屋)が所属しているらしいのだが、今回は護衛依頼ということで参加していないらしい。
旅の途中で魔獣を狩った場合、その素材については商会の荷馬車に載せてもらうという契約を結んでいるそうだ。
あと、彼らには俺が男爵位を叙爵したことは話していない。謙った態度をとられるのは嫌なので…。
俺を含めて総勢13名の大所帯だが、護衛が少な過ぎるんじゃないか?という心配は無用だ。
なぜなら、商会側の人員もある程度の戦闘力を持っているらしいからね。イザベラお嬢様は別として…。
「護衛同士の顔合わせも済んだな。では出発は明日だ。朝が早いから遅刻するなよ」
「「「はい」」」
まだ小さい女の子(イザベラお嬢様)が指揮を執っていることに、マクベス氏やカミーラさんは違和感を覚えないのかな?
あとで聞いてみたら、どうやらルナーク商会からの護衛依頼を何度も受注しているらしい。なので、イザベラお嬢様とも顔見知りなのだそうだ。
・・・
「お兄ちゃん、いってらっしゃい。帝国のお土産を楽しみにしてるからね」
「サトル様、ご無事のお帰りをお祈り申し上げます」
「ナナ、オーレリーちゃん、行ってくるよ。それと何度も言うけど、無理に冒険者活動をする必要は無いんだからね。大人しく待っててくれ」
「私たちのことなら心配しないで良いよ。イザベラちゃんから教わった『ツキオカ流アイビー護身術』もあるしね」
は?何だそれ?てか、『ツキオカ流』ってどういうことだよ。『アイビー』ってアイビーファッションのことか?
ここでイザベラお嬢様が口を挟んできた。
「サトル君、アイビーとはアイテムの『I』とボックスの『B』だ。つまり【アイテムボックス】を活用した護身術なのだ」
IVYではなくIBだったようだ。…って、どうやって護身するんだよ。
「敵が正面から掴みかかってきたとき、30kgくらいの岩を敵の足の甲の上に落とすツキオカ流秘伝『足甲粉砕岩』という技や、5kgくらいで先端が尖った石を敵の頭の上から落とすツキオカ流お留技『頭蓋穿孔石』という技なんかがあるのだ。あ、お留技というのは、門外不出の技という意味だぞ」
うわぁ~、中二病だ。中二病患者がいるよ。お医者さん、こっちです。
いや、それよりも…。
「その『ツキオカ流』って止めてもらえませんかね?ちょっと恥ずかしいので…」
「最初は『ハウゼン流』にしようかと思ったのだが、『ツキオカ流』のほうが古式流派っぽくて格好良かったからな。雰囲気だよ、雰囲気」
いや、その雰囲気のために俺が恥ずかしい思いをするのですが…。
出発直前だというのに、なんだか精神的に疲れた俺だった。
なお、オーレリーちゃんはマクベス氏やカミーラさんと旧交を温めていた。満面の笑顔で、嬉しそうにしていたから良かったよ。
ルナーク商会の事務所前から出発するんだけど、見送りに来てくれたのはナナとオーレリーちゃんの二人だけだ。残りの人員は屋敷で留守番ってこと(全員で来るとさすがに迷惑だと思ったので…)。
もちろん、今朝の時点で屋敷の全員とは別れを済ませているからね(別に永久の別れってわけじゃないんだけど…って、これはフラグじゃないよ)。




