201 帝国行き
男爵位に叙されて以降、冒険者活動をやっていない…。あまり休んでいると、冒険者ランクの昇格に支障が生じるかもしれないな(判定基準は知らんけど)。
余談だけど、ステータスにおける職業表示って、確認した時点のメインの職業なんだけど、俺の場合『冒険者(Fランク)』ではなく『ツキオカ男爵家当主』になっているんだよな。その事実からも冒険者活動をさぼっているのがよく分かるという…。
実はすでにアンナさんはCランクに、サリーはDランクに、ナナとオーレリーちゃんですらEランクに昇格しているのだ(やはり、職業表示が『冒険者』ではないけど…)。
なので、冒険者ギルドを退会したマリーナさんやサーシャちゃん、そもそもギルドに入っていないユーリさんを除くと、Fランク冒険者なのは俺だけだ。
いや、俺だってあと1~2か月でEランクに上がれるはずだけどね(多分…)。
そんなFラン冒険者である俺だが、現在、冒険者ギルド『エベロン支部』の支部長室にあるソファに座っている。
なお、他の『暁の銀翼』メンバーは同行していない。俺だけが支部長さんに呼び出されたのだ。
「ツキオカ男爵、お呼び立てして申し訳ありません。建前としてはギルドからの指名依頼ですが、実際は王室からの依頼でございます。何卒受注していただきたく、よろしくお願い申し上げます」
ああ、O-157事件(正式名称:第3号病毒事件)のときと同じ形式か。
「とりあえず依頼内容をお聞かせ願えますか?それによってはお断りするかもしれませんが」
いや、パーティーメンバーの命を懸けるような依頼だったら受けたくないよ。まぁ、冒険者ってのは常に命懸けと言えばそうなんだけど…。
「はい。今からご説明申し上げます。実は…」
支部長の話を要約すると、以下の通りだった。
・この国『エーベルスタ王国』の諜報員が隣国『ゴルドレスタ帝国』に潜入しているが、10か月ほど前、その国に三人の特別な異国人が現れたのを察知した。
・問題はその異国人が『ニホン』人だと自称していることにある。
・俺とナナが『ニッポン』人であり、『ニホン』と『ニッポン』が同一の国であるということなので、その異国人の持つ能力が王国の脅威になる可能性が高い。
・俺と同程度の能力を持つ人物が帝国に味方することになった場合、王国としてその事実を無視することはできない。
・したがって、俺一人だけで帝国へ入国して、その『ニホン』人の情報を探ってもらいたい。できれば『ニホン』人と接触できれば言うことはない。
うーん、その異国人の三人って、帝国が何らかの方法を使って日本から召喚したのかな?おそらく、俺と同じように転移させられたのだろう。まぁ、自然現象で勝手に異世界転移した可能性もあるんだけど…。
要するに同胞ってことだ(味方とは限らないが…)。
「なぜ、俺だけなんです?」
「ツキオカ男爵はこの国の言葉『エーベルスタ語』もビエトナスタ王国で用いられている『ビエトナスタ語』も堪能であるとお聞きしました。おそらく『ゴルドレスタ語』もしゃべることができるのではないですか?」
「ええ、全く問題ありません」
「それが理由でございます。ゴルドレスタ帝国では『ゴルドレスタ語』が分からないと、諜報活動はできませぬ故…」
なるほど。確かに…。
ゴルドレスタ帝国の帝都への移動に必要な期間が馬車で一か月程度、諜報活動に2~3か月と考えると、かなり長い間屋敷を離れることになるよな。
しかも情報収集にはそれ以上の時間が必要になる可能性もある。
ちなみに、報酬は月額1000万ベルだそうだ。これは馬車で移動している期間についても支払われる。さらに成功報酬として、(情報の有益度合いにもよるが)1億ベル以上を用意しているとのこと。
金額的に不満は無いんだけど、長期間に渡るってのがなぁ。なので、『検討させていただきたい』と、この場での返答は保留にさせてもらった。
・・・
屋敷へと戻った俺は全員をリビングに集合させた。
「お兄ちゃん、支部長さんの話って何だったの?」
「ああ、それがなぁ…」
ナナの質問に答える形で指名依頼の内容を説明していった俺…。
「えええぇぇぇ、私も行きたい。でも帝国の言葉が分からないんだよね…」
俺としては、一人のほうが身軽で気楽だ。屋敷に残る人数が多いほど、留守を任せるにしても安心できるからね。
「サトルさんの同郷の方ですか。もしも全属性の魔術師だったりしたら、かなりの脅威ですね」
「はい。将来、この国に敵対する可能性がありますので、事前に情報を得ておくのは安全保障の観点からしても重要なことだと思っています」
「お兄ちゃんのようにAランク魔獣を使役できる人だったら、かなりヤバいよね」
いや、『使役』してるわけじゃないぞ。あくまでも『お願い』して助けてもらっているだけだ。
「私だけでもサトルと一緒に行ったらダメかな?」
「いや、サリーはこの屋敷にいる全員をユーリさんと共に守ってもらいたい。俺が後顧の憂いなく安心して活動できるように」
「むぅ~、分かった。屋敷の守りは任せてよ。でも必ず帰ってきてね」
「当然だ。早ければ半年、長くても1年ってところかな。できるだけ早く帰ってくるようにするよ」
年度初めの王宮への登城もあるしな。まぁ、これは王室からの指名依頼だから、登城できなくても大丈夫だと思うけど…。
「アンナさん、屋敷のことを侍女長としてよろしくお願いします」
「はい。お任せください」
「ナナ、アンナさんの言うことをよく聞くんだぞ」
「もちろんだよ。ただ心配なのは、お兄ちゃんが帝国でま~た新しい女の人を引っかけてくることだよ。いや、絶対だね。絶対、誰かを連れ帰ってくることに100ペリカ賭けるよ」
…って、どこの国の通貨単位だよ。
てか、『引っかけてくる』って、まったく人聞きの悪い…。




