020 通貨
食事中、エイミーお嬢様と様々な話をした。
お嬢様からはこの国の話、アインホールド伯爵領の話、複数存在する隣国の話など…。
俺からは日本の義務教育制度や高校、大学の話なんかをしたんだけど、めっちゃ驚いていた。いや、俺って普通の大学生だし、政治っぽい話なんかできないよ。
ちなみに、この国では教育を受けられるのは貴族や騎士階級までで、平民は簡単な読み書きや計算を寺子屋みたいな有料の塾で学ぶだけだそうだ。
当然、塾に通えるのはそこそこ裕福な家の子弟に限られるので、この国の識字率はかなり低いらしい。でもそれは隣国などでも同様で、別にこの国が特に劣っているわけじゃないってさ。
うーん、教育を普通に受けられる日本人に生まれたってのは幸せなことなんだよな。今まで意識したことは無かったけど…。
なお、俺がこの国の言葉を読み書きできるのかは未検証なんだけど、この分だとたとえ読み書きができなくても目立つことはないみたいだ。
あ、それからマヨネーズやトマトソースの製法を聞かれた。すいません、知らないです。
…っと、そうだ。今後絶対に必要になる知識も学んでおきたいな。それはこの国の貨幣制度。
元の世界にすぐに帰れない場合、この国(隣国でも良いけど)で金を稼いで生活していかなきゃならない。貨幣(紙幣か硬貨かは知らんけど…)や物価の知識は必須だ。
「食事のあと、応接室でお待ちください。この国で発行されている全種類の通貨をお持ちします。アンナ、応接室へのご案内、よろしくね」
アンナさんにはお手数かけます。
・・・
んで現在、俺の目の前には材質や大きさの異なる様々な硬貨が並べられている。全て円形で薄型の金属だ。
左端にあるのが鉄製の小さな硬貨で、1ベル鉄貨というらしい。その隣が少し大き目の鉄製の硬貨、10ベル大鉄貨。
次が10ベル大鉄貨と同じ大きさだけど、銀製の100ベル銀貨。それより少し大型の1,000ベル大銀貨と続く。
10ベル大鉄貨と同じ大きさだけど、純金製の10,000ベル金貨。1,000ベル大銀貨と同じ大きさで、純金製の100,000ベル大金貨もある。
さらに一番高額な硬貨が、右端にある10ベル大鉄貨と同じ大きさだけど、材質が白金製の1,000,000ベル白金貨だ。
それら硬貨の表面には王家の紋章が彫り込まれていて、裏面にはその硬貨の額面が記されていた。良かった、これなら額面を間違えることは無いだろう(文字の読めない平民でも硬貨に彫られた文字くらいは読めるってさ…まぁ材質と大きさでだいたい判別できるんだけど)。
そして、その硬貨の文字(数字)は俺にも読めたよ。どうやら【全言語理解】が良い仕事をしてくれているようだ。
きっとこの世界にある本なんかも読めるんじゃないかな?うん、将来的には書店(あるのかどうかは知らんけど)にも行ってみたいな。
物価については、白パンが(大きさにもよるけど)一個100ベル前後で、黒パンはその半分くらいの値段だそうだ。
一般的な宿屋の宿泊費は、一泊二食付きで5,000から10,000ベルくらいらしい。
…ってことは、1ベルが1円と等しいくらいと考えて良いのかな?分かりやすいのはありがたいのだが、ご都合主義的にも感じるよ。
ここで最も言いにくいことを言わねばならない。俺は意を決して、エイミーお嬢様に対してあるお願いを口にした。
「俺はこの国の通貨を全く持っておりません。できれば少々融通していただけるとありがたいのですが…。もちろん利息はお支払い致します。元本と利息を合わせた総額の返済期限につきましては、できれば長めに取っていただけると嬉しいのですが…」
「ツキオカ様にお貸しするなどとんでもない」
エイミーお嬢様のこの言葉に愕然とした。やはり担保も持たない外国人(俺)へ気軽に金を貸すことなんてできないよな。あ、そうだ。ノートを売るという手もあるな。
ただ、お嬢様の言葉はこれで終わりではなかった。
「ここにある硬貨を全て差し上げます。私たちを助けていただいたお礼としては、この程度の額ではその恩義の万分の一にもなりませんが…。領都にいるお父様に相談すれば、この百倍は進呈できるのですが申し訳ありません」
…って、ここには1,111,111ベルもあるのですが…。えっと、これ全部?
さすがに白金貨は除外ですよね?って確認してみたら白金貨も込みだった。まじかよ…。
てか、この百倍って約1億ベル?いやいや、それはさすがに貰い過ぎだよ。
あらためて貴族ってやつの金銭感覚に困惑する貧乏人の俺だった。
説明っぽい話が続くため、あまり面白くないとは思いますが、今後必要になることなのでご容赦ください。