194 VS近衛騎士団④
敵は降伏することなく、戦闘を継続している。近衛騎士団長ではなく、各部隊の隊長がそれぞれの部下たちを指揮しているみたいなんだけど、降伏の判断ができないのかもしれない。
今度こそ勝利を確信した俺たちだったが、このままでは単なる虐殺だ。
俺は土壁の上に立ち上がって、大声でこう言った。
「栄えある近衛騎士団員諸君、これ以上の戦闘は無意味である。名誉ある降伏を選択したまえ。武装を解除するならば、命までは取らぬぞ」
隊長級の人物であれば、すでに逆転の目が無いことくらいは判断できるだろう。
案の定、部隊ごとにその隊長の命令によって剣を鞘に納めたあと、地面の上に置いて両手を上げる騎士たちが続出した。隊長がすでに死亡している部隊の騎士たちは、周りの状況を見てから自ら剣を手放していった。
喧騒が収まり、辺りには静寂が訪れた。ふぅ、なんとか勝ったな。
まぁ、ほとんどはメフィストフェレス氏のおかげだったような気がするけど…。
『メフィストフェレスさん、もうお戻りになって結構ですよ。おかげ様で助かりました。本当にありがとうございました』
『くくく、久々に虫けら相手の戦闘だったが、なんとも歯ごたえの無いことよ。できれば、もう一度お主と立ち会ってみたいものよな』
『ええ、また機会があれば…』
こうしてメフィストフェレス氏は帰っていった。てか、煙のように消え失せた。
どうでも良いけど(いや、良くないけど)もう一度戦うなんて冗談じゃないよ。勝てるわけないじゃん!ま・じ・で。
サリーがたった一人で降伏した騎士たちに縄を打っていった。ユーリさんは周囲の警戒を継続している。隻腕だから、縄でうまく縛ることができないのだ。
オーレリーちゃんと俺は【光魔法】で騎士たちの治癒を行っている。
軽傷者はオーレリーちゃんの【レッサーヒール】で、重傷者は俺の発動する【グレーターヒール】で、という役割分担だ。
土壁を元に戻して、現状回復を図る。ただ、建物には何本もの矢が突き刺さっているよ。借家だってのに…。
「お兄ちゃん、私たちって最強じゃない?相手は近衛騎士団だよ。それが無傷の完全勝利だからね」
「いやいや、敵に魔術師がいなかったから良かったけど、いたら厄介だったぞ」
「うーん、だとしてもメフィストフェレス氏が参戦した時点で、こっちの勝ちは確定だったよね」
まぁ、確かにな。
…っと、ここで突然、一人の騎士が治癒のために歩き回っていたオーレリーちゃんの身体を拘束した。左腕をオーレリーちゃんの首の部分に回し、右手には短剣が握られている。
縄で縛られていなかったのは、死んでいるものと判断されたからだ。…って、まさかの死んだフリかよ(しかも、めっちゃ元気だ)。
「お前ら動くなよ。ここに馬を一頭連れてこい。さもなくばこいつの命は無いぞ」
捕虜となった騎士たちは、全員漏れなくこいつに軽蔑の視線を向けている(ような気がする)。まじで近衛騎士団員とは思えない卑怯者だ。
短剣がオーレリーちゃんの首筋に当てられているため、下手な行動はとれないな。うーん、攻撃魔法で右腕ごと吹き飛ばすか…。いや、危険だろうか?
卑怯者の右腕が背後から誰かにねじり上げられた。間髪入れず、側頭部を鈍器のような物で殴られて昏倒していたよ。
え?誰?
そこにいたのは泥棒のルイさんだった。
「聖女様、お怪我はございませんか?怖い思いをさせてしまったこと、謝罪申し上げます」
「あ、ありがとうございます。えっと、ルイさんでしたっけ?助かりました」
「おお、聖女様に我が名を覚えていただくなど、光栄の極みでございます」
この会話を聞いていた騎士たちは『え?聖女様』って顔で困惑していた。いや、聖女様じゃないから…。ルイさんが勝手に言ってるだけだから…。
「ルイさん、俺からもお礼を言うよ。オーレリーちゃんを助けてくれてありがとう」
「黒髪の旦那、これくらい大したことはございませんぜ。娘の恩人、いやスラム街の恩人ですからな」
この会話の最中、門の外から馬の駆ける物音が聞こえてきた。
おいおい、まさか新手の敵か?




