192 VS近衛騎士団②
現在、リビングにはこの屋敷にいる全員が集合している。
俺は彼女たちを前にして、現在の状況を簡潔に説明した。
「…というわけなんだ。戦闘力の無いマリーナさんとサーシャちゃんは1階の書斎にこもっておいてほしい。本棚に囲まれていて窓も無いから、そこが一番安全な場所だと思う」
「は、はい。了解です」
「…分かりました」
不安そうなマリーナさんに対して、サーシャちゃんはちょっと悔しそうにしているね。気の強い性格であるこの子には、先々戦闘系のスキルを【コーチング】してやっても良いかな。そう、戦闘侍女ってやつだ。
「アンナさんとナナは玄関前に設置した土壁の上から魔法攻撃をお願いします。もちろん、俺も一緒です」
「ええ、騎士団員に遠隔攻撃手段はおそらく無いと思いますので、一方的な攻撃が可能でしょう」
「お兄ちゃん、頑張るよ。でも人数差を盾に、人海戦術で来られたらどうするの?とても抑えきれる数じゃないよ」
そうなのだ。広範囲を一度に攻撃できる範囲攻撃魔法としては【火魔法】の上級である【インフェルノ】(指定した地点から半径数メートルを火の海にする)や【土魔法】上級の【ロックブラスト】(巨大な岩を投射する)等があるけど、いずれにしても上級魔法だからね。俺を含めて誰も使えない。
まぁ、メフィストフェレス氏だったら【ロックブラスト】を撃てるけど…。
「それなら大丈夫。すでにメフィストフェレス氏を呼び出しているよ。今は玄関前に作った土壁の内側に隠れてもらっている。彼が俺たちの切り札ってことだな」
メフィストフェレス氏が俺の眷属であることを知らないユーリさん、オーレリーちゃん、マリーナさん、サーシャちゃんには簡単に説明しておいた(詳しく説明している時間が無い)。
「ユーリさんとサリーは遊撃戦力として自由に戦ってください。いや、持ち場は決めておいたほうが良いかな?ユーリさんが右側、サリーが左側でどうかな?」
「ああ、それでいい。私には魔法による援護は不要だよ。逆に魔法が飛んでこないほうが戦いやすい」
「サトル、私も了解だよ。同じく魔法の援護は要らないからね」
あと残るはオーレリーちゃんだけだな。
「オーレリーちゃん、君にはユーリさんの回復をお願いするよ。あ、【フラッシュ】は使わないようにね」
閃光による目潰しは味方への誤爆が怖いからね。
「分かりました。回復に集中します」
「ユーリさん、回復が必要な場合は玄関前まで後退してきてくださいね。サリーは健康銃があるから自分で回復できるよな?」
「何だ?その健康銃って?」
ユーリさんが不思議そうに質問した。
「俺の作った魔道具ですよ。【レッサーヒール】や【レッサーキュア】を発動できます。あ、サリー、あらかじめ【レッサーヒール】のほうに切り替えておけよ」
「うん、当然だよ。それにしても自分自身で治癒ができるのって、安心感が違うよね」
「おいおい、お前って魔道具職人でもあったのかよ。てか、私も欲しいぞ」
「いやいや、ユーリさんは【剣術】が伝説なんだから要らないでしょ?【魔法抵抗】も高いし…」
ジト目で睨まれたけど、ユーリさんには不要だよ。それに隻腕だからカートリッジ交換も難しいし…。
どぉーん。
門のほうから大きな音が聞こえてきた。やはり襲撃目標はうちの屋敷か。
「それでは状況開始。皆さんよろしくお願いします」
惜しむらくはユーリさんの両腕が揃っていればなぁ。部位欠損を再生できる【光魔法】の【リジェネレーション】は、まだ俺のスキルレベルでは使えないのだ。
教会に大金を払って、ユーリさんの右腕を再生してもらっていれば良かった。いや、後悔先に立たずか。
・・・
門を破るための機材は準備してきたようで、さっきから再三にわたって大きな音と振動が伝わってくる。
そしてついに門が破られた。正確に言うと閂の部分が破壊されて、門が両側に開け広げられた。門の修理費は国に請求しても良いのかな?
庭に雪崩れ込んできた敵は煌びやかな鎧に身を包んだ騎士たちだった。高価そうな武具だよ。さすがは近衛騎士団。
俺は高さ2メートルの土壁の上に立って、彼らを出迎えた。
「ツキオカ男爵家の敷地内に不法侵入してきた賊ども、名を名乗れ」
すると後方から馬に乗った一際煌びやかな装いの男性が進み出てきた。残念なのは少し太り気味であることか。いや、はっきり言おう。デブだった。
「我らは賊ではない。栄えある近衛騎士団であ~る。儂は近衛騎士団長であるジャレド・ウィロードだ。ツキオカ男爵、そなたには国家反逆罪の容疑がかかっておる。大人しく縛につけ」
うーん、捕縛する気なんて無いくせに…。多分だけど、この屋敷にいる人間は皆殺しにするつもりなんだと思う。
一応、反論しておこうかな。
「国家反逆罪はお前のほうだろう。近衛騎士団の予算を横領した罪については、確たる証拠が揃っているぞ。しかも私的な目的のために近衛騎士団を動かすとは言語道断な所業である。団員の方々に申し上げる。団長に従って俺に敵対するのであれば、命の保障は無いものと思え。悪に従う者もまた悪とみなす!」
ここまで統率の取れていた騎士団員たちが、俺の言葉を聞いて騒めき出した。全く事情を知らされずにここへ来た者も多いのだろう。
「ええい、うるさい!お前たち、一斉にかかれ。奴を殺せ!屋敷にいる女は手籠めにしても構わんぞ」
おっ、本音が出たな。てか、この屋敷にいる皆を守るためなら近衛騎士団を壊滅させても構わないよな。人数に差があり過ぎるから、手加減できないと思うよ。
ちなみに、この会話はナナがスマホできっちりと動画撮影してくれていた。うむ、いつも通りだ。




