191 VS近衛騎士団①
今回の一連の事件において、残すは近衛騎士団長の捕縛だけだ。グレイシアス第二騎士団長からもたらされるその連絡を待っていた俺たちだったが、捜査に万全を期しているのだろうか、なかなか逮捕の知らせは届かなかった。
そんなある日の早朝、青い顔をしたサリーが俺の寝室へとやってきた。ちょうど着替えが終わったところだった。
「サトル、おはよう。早速だけど、以前にハウゼン侯爵領騎士団と戦ったときのことを覚えてる?」
「おはよう。もちろん覚えてるさ。あれはかなりヤバかったよな」
そう、総勢32名にも及ぶ騎士団との戦闘は、アークデーモンのメフィストフェレス氏がいなければおそらく負けていただろう。
「あのときよりもヤバい気配が近づいてきているよ。50人以上100人未満ってところかな。どう考えても目的地はこの屋敷みたいなんだよね」
「はぁ~?まさか近衛騎士団なのか?」
近衛騎士団の人数は100名、第一と第二騎士団がそれぞれ150名という定員だそうだ(グレイシアス様から教えてもらった)。
近衛騎士団員が全員参加したとは考えづらいけど、7~8割が来たとしても70名~80名ってところか。ハウゼン領騎士団に襲われたときの二倍以上ってことだな。近衛に選ばれるくらいだから、きっと戦闘力も高いに違いない。
質、量ともにハウゼン領騎士団を上回っているとすると、俺たちに勝ち目は無いかもしれない。もちろんメフィストフェレス氏を呼び出したとしても…。
「とにかく、屋敷の全員を緊急招集して、戦闘態勢を整えよう。まだ時間はあるんだろう?」
「うん、ただ10分以内には姿を見せると思う。サトルは【土魔法】でバリケードとなる土壁を作っておいてよ。できれば屋敷の全周を囲むような」
「了解だ。メフィストフェレス氏も呼び出しておく」
俺がこの世界に転移してから最大の危機かもしれない。しかし、男爵家の屋敷を襲撃するとは、近衛騎士団長は自棄になっているのか?
理性ある行動とはとても思えないよ。
・・・
【土魔法】の【クレイウォール】で屋敷の一階の窓部分、裏口(勝手口)を塞ぐ。本当は屋敷の周りを取り囲むように土壁を設けたいんだけど、時間も魔力も足りそうにないからね。
玄関の前には半円状に土壁を作り、魔法攻撃の際の足場となる階段状の踏み台も作った。
屋敷の門を破壊して玄関前の庭先へと侵入してきた敵をここから攻撃するのだ。
その作業の合間にアークデーモンのメフィストフェレス氏を呼び出した。
『随分と久しいな。我はお主の眷属である故、お主が息災であることは分かっておったがな』
『お久しぶりです。メフィストフェレスさんもお元気そうで何よりです。それで大変申し訳ないのですが、また俺たちを助けていただきたいのです。お時間は大丈夫でしょうか?』
『別に気にすることはない。ちょっとグレータードラゴンの奴と戦闘中だったのだが、こちらが優先だ』
はぁ?グレータードラゴン?ちょっと強さが分かんないよ(Aランク魔獣であることは間違いないんだろうけど)。
俺は久しぶりにメフィストフェレス氏を【鑑定】してみた。
・名前:メフィストフェレス(サトル・ツキオカの眷属)
・種別:アークデーモン
・種族:悪魔族
・スキル:
・耐鑑定 84/100(+5)
・状態異常耐性 250/250
・魔法抵抗 77/200(+14)
・徒手格闘術 300/300
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・土魔法 175/200(+9)
・空間魔法 76/200(+4)
カッコ内は前回の鑑定結果からの増加分だ。
うーん、彼は戦闘狂なのか?【土魔法】や【魔法抵抗】がめっちゃ上がってるじゃん。
てか、彼さえいれば、敵が100人以上であっても勝てそうなんだけど…。
とりあえず【光魔法】の【グレーターヒール】をかけておこう。戦闘中だったのは本当みたいで、切り傷や火傷の痕があったからね。
『すまんな。助かる。お主の治癒魔法を受けるのも久々だな』
『いえ、このくらいは当然ですよ。一応、玄関前に設置した土壁の裏に待機、というか隠れていてもらえますか?』
『うむ、分かった』
切り札として、決定的な場面で投入したい戦力だからね。戦闘の序盤から投入したくはないのだ。




