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188 管理官

 とにかく、泥棒三人組の協力を得られそうで良かった。彼らの縄を解いて身柄を解放してあげたのは言うまでもない(住居不法侵入罪については不問に()したってこと)。

 ただし、配下にはしないよ。いや、待てよ。アインホールド伯爵様にお願いすれば、この国の暗部(の組織)で雇ってもらえるかも?

 まぁ、とりあえずは今回の事件解決に努めることとしよう。


 マリーナさんの書写が終わるのが明後日くらいになるらしいので、明々後日(しあさって)の朝にルイさんだけ屋敷へ来てもらうようにした。

 その足で一緒に警吏本部へ行くのだ。もちろん、ルイさんには変装してもらうけどね。


 そして出来上がったマリーナさん会心の作である証拠品の『写し』は、まさに本物そっくりの見事な出来栄(できば)えだった。人間コピー機かよって感じだ。

 朱色で押された印章すら再現していたからね。てか、裏帳簿なのに印鑑を押すって、近衛騎士団長は馬鹿なのかな?(アンナさんに聞いたら、現在の近衛騎士団長が叙されている騎士爵家の紋章だったのだ)

「黒髪の旦那。今日はよろしくお(たの)申します」

「いや、こちらこそだよ。君たちへ窃盗を依頼した人物をしっかりと見極めてほしい」

 頭頂部の少し薄くなっている茶系統の短髪で、本来は精悍な顔つきであるルイさんは、今日は銀色の髪の(かつら)によって肩までかかる長髪になっている。口の中に綿を含むことで顔つきもふっくらと丸くなっているし、腹部にも詰め物をしているせいでちょっとぽっちゃり体型だ。うむ、まず別人としか思えないだろう。

 なお、今日はルイさん、ナナ、俺の三人で警吏本部へ行くことになっている。もちろん、事前に刑事部長のアポイントメントも取っているよ。


 いつもの応接室で警部さんと若い刑事の特命捜査官二人、そして刑事部長と対峙している俺たち三人。

 ルイさんのことは外部の協力者である会計士だと紹介した(【鑑定】されると、泥棒という職業がバレちゃうんだけど…)。

「この書類をご覧ください。数字ばかりで分かりづらいですが、近衛騎士団の予算を不正に横領したことを示す証拠書類となります。グレイフィールド事件で毒殺された息子さんのほう、アレン・グレイフィールド氏が入手して隠しておいたものですね。元・近衛騎士団長であったランドン・グレイフィールド氏への怨恨も動機としてはあったのでしょうが、メインのターゲットはアレン氏のほうだった可能性が高いというわけです」

「ふむ、よくぞ見つけ出してくれた。近衛騎士団の不正であるということは、第一騎士団か第二騎士団に協力を要請せねばなるまい。ツキオカ殿からグレイシアス第二騎士団長へ伝えてもらえるだろうか?」

 刑事部長も敬語無しでの口調に慣れてきたみたいで良かったよ。最初は男爵である俺に対して敬語でしゃべっていたからね。

「はい、もちろんです。そう言えば、警部さん。例の管理官の方はあれから何か言ってきましたか?」

「ええ、毎日捜査の進捗状況を聞いてきますな。いい加減うんざりです。くくく、しかし今日は管理官へも良いご報告ができそうで、なによりですな」

 警部さんだけでなく、刑事部長もニヤリと悪い笑顔になっていた。管理官さん、ご愁傷さまです。


 このあと刑事部長が退室し、その数分後には例の管理官が入室してきた。やはりノック無しだった(てか、ノックしろよ)。

「何か捜査に進展はあったかね?いや、私立探偵がやってきて、刑事部長に面会を申し出たということはきっと進展があったのだろう。(すみ)やかに私にも報告したまえ」

 管理官はルイさんのほうをちらっと見たものの、すぐに興味を失った様子で、警部さんと会話を始めた。

 もちろん、証拠品(実は『写し』だけど)を見せながら、警部さんがドヤ顔で報告していたよ。焦っているのか管理官の額には汗が浮かんでいたけどね。冷や汗か?

 隣に座っているルイさんが、机の下でこっそりと書いたメモを俺に渡してきた。

『この男が依頼者で間違いありません』

 ふふ、予想通りだな。さて、この管理官から芋づる式に近衛騎士団長まで辿(たど)っていけるだろうか?


 ・・・


 その日の深夜、警吏本部内にある証拠品保管庫へ侵入者があり、張り込みをしていた警部さんたちによってあっさりと捕縛されたそうだ。

 当然、犯人は例の管理官だった。

 ただ、本当なら盗んだ証拠品(『写し』だけど)を近衛騎士団長宅へ持ち込むまで尾行していきたかったらしいのだが、その場で書類を破り捨てようとしたため、仕方なく拘束したそうだ。

 うーん、あとは自白によって近衛騎士団長との関わりを立証していくしかないかな。

 【闇魔法】もあるし、大丈夫だろう。そう思っていたのだが、事態は思わぬ方向へと進んでいった。


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