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185 義賊

 侵入者をダイニングの椅子に強制的に座らせて、縄でぐるぐる巻きに縛り上げていった俺たち。

 その後、全員の覆面を順番に()ぎとっていったところ、驚いたことに一人は若い女性だった。

 三人の泥棒は50代くらいの年配の男性、20代くらいの若い男性、そして10代後半くらいの若い女性だったのだ。余談だが、ちょっと可愛い子だった。化粧っけは無かったけど。


「男爵家の屋敷に不法侵入を図るとは、なかなか大胆な泥棒ですね。いや、泥棒なのか暗殺者なのかは分かりませんが…」

 俺の言葉に最も年嵩(としかさ)の男が反応した。

「暗殺者じゃねぇよ。俺たちゃしがない泥棒だ。しっかし、まさかこんなドジを踏むとはな」

 いや、君たちは全くミスしていないと思うよ。俺たちのほうが(特にサリーが)上手(うわて)だったってだけだ。

「とりあえず依頼者の名前を教えてもらいましょうか。いるんでしょ?依頼者」

「名など知らん。だが顔は覚えてるぜ。だからこそ俺たちを殺すのはお勧めしないとだけ言っておこう」

 ふむ。なかなかの交渉上手だな。まぁ、元々殺すつもりなんてないんだけど…。


 俺はこの三人を鑑定してみた。

 男性二人の持つ【窃盗】スキルや女性の持つ【解錠】スキルなんかが特徴的だった。【解錠】スキルについては、ダンジョンで宝箱を開けるときなんかに役に立ちそうだな。

 あと全員が【隠蔽(いんぺい)】スキルを持っていた。これは自分自身の身体を隠して見つからないようにするスキルらしい。【認識阻害】スキルの下位互換みたいなものかな?

 ただ、【認識阻害】が【看破】と相性が悪いのと同じように、【隠蔽】は【索敵】と相性が悪いらしい。うん、サリーの【索敵】スキルが役立ったわけだ。

 てか、そもそも【隠蔽(ハイド)】は【隠密(ステルス)】と組み合わせて使わないと、あまり意味が無いみたい。【隠蔽】スキルだけだと、一歩でも動くとその効果が解除されてしまうのだ。

 逆にステハイ(隠密(ステルス)隠蔽(ハイド))スキルを持つ者は、隠れたまま動き回れるってことになる。暗部向きのスキル構成だな。

 で、この三人組は誰も【隠密】スキルを持っていなかった。いや、良かったよ。


 サリーが俺に確認してきた。

「こいつら警吏に引き渡すんだよね?ひとっ走り、警吏詰所(つめしょ)に行ってこようか?」

「いや、もしも依頼者が警吏本部の管理官だったら、こいつらは留置場の中で(ひそ)かに始末されることになるはずだ。うーん、どうすべきか…」

 俺の言葉に泥棒三人組が目を見張った。いや、口封じされるのは当然だよな。


「え?まさか依頼者は警吏の人間だったのか?…ってことは、やはりお前らは悪党ってわけだな。くそっ、悪党にやられて捕まるなんて、義賊の名が(すた)るってもんだぜ」

 ん?義賊?(ねずみ)小僧みたいなやつなのか?

「新興の男爵家なんぞ、悪いことをやってるに違いねぇと思っていたが、(あん)(じょう)か…」

 ここで今まで黙っていた若い男性がしゃべり始めた。

「親父、もう覚悟を決めようぜ。俺たちは失敗した。だから死罪であっても受け入れるしかねぇ。ただ一つ残念なのは、妹を巻き込んでしまったってことだ。なぁ、あんたからここの当主に頼んでくれねぇか?この女だけは見逃してくれるようにって」

 若い女性も会話に参加した。

「お父さん、お兄ちゃん、全て承知で手伝ったんだから、私だけ助かるなんてできないよ。死ぬときは皆一緒だよ」

 こいつらの会話を聞いていると、なんだか俺のほうが『悪』みたいに思えてくるよ。てか、君たち親子かよ。


「ああ、なんか勘違いしているみたいだけど、この屋敷の人間が『正義』の側で、君たちへ依頼した人間が『悪』の側だからね。ところで依頼者からは何を盗み出すように言われたんだい?」

「ああん?悪党に仕えるやつの言うことなんざ信じられるかよ。盗み出すのは、ここの家の当主が関わった犯罪の記録らしい。具体的には、数字がびっしりと書かれた書類を全て持ち出すように言われただけだ。もちろん、金目のものがあれば、一緒にいただくつもりだったがな」

 なるほど。マリーさんのところから横領の証拠書類を持ち出したのを察知されてたのか。敵もなかなかやるな。

 グレイフィールド家にはサリーを一緒に連れていくべきだったな。おそらくこの屋敷からグレイフィールド家への往復をずっと尾行されていたのだろう。全然気づかなかったけど…。


 それにしてもこいつらって、そんなに悪い人間には見えないよね。面倒だけど、一人一人余罪を確認していくか。

 俺は一人ずつ書斎へ連れていって、サリーと共に【闇魔法】による尋問を始めた。ダイニングの見張りはユーリさんだけで良いだろう。

 で、判明したのが、殺人、傷害、強盗、強姦などの経験は全く無かったものの、窃盗と住居不法侵入についてはかなりの頻度でやっていたこと。ただし、貴族や裕福な商人がターゲットで、盗んだものの半分はスラム街の人間の救済や孤児院への寄付に使っていたらしい。うむ、まさに義賊だな。


 最後の一人である若い女性を尋問してから、ダイニングに戻ってきたサリーと俺、そして泥棒の女性。

 若い男性が苦虫を噛み潰したような表情で言った。

「お前、まさか妹にエロいことをしてねぇだろうな。個室に連れ込んで何しやがった?」

 …って、尋問だよ。君らにやったことと同じだよ。エロいことなんかしてねぇよ!


「この子、サリーも一緒だったんだ。エロいことなんかできるわけないだろ。名誉棄損だよ」

「そ、そうか。一応、信じてやるぜ。それで俺たちゃどうなるんだ?お貴族様の屋敷に忍び込んだんだ。死ぬ覚悟はできてるが、できれば妹だけは助けてもらいたい」

「うん、それなんだけど、司法取引しようか」

「なんだ、それ?」

 おっと、この国には司法取引って無いのかな?

 ナナを叩き起こして、聞いてみるか。そろそろ明け方に近づいているみたいで、空もうっすら明るんできてるしな。


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