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184 侵入者

 マリーさんの許可を得て、(くだん)の書類を屋敷へと持ち帰った俺たち。

 さっそくマリーナさんに見てもらったところ、間違いなく近衛騎士団の予算を横領して裏金を作ったことを示す記録であり、犯罪行為の証拠品とのことだった。余談だがユーリさんのお義姉(ねえ)さんがマリーさんで、うちの経理担当がマリーナさんなんだけど、名前がめっちゃ似ていてこんがらがりそうだよ。


「ツキオカ様、この書類が裏帳簿から抜き取られたものであることは明白です。いかがなさいますか?」

 マリーナさんの質問に即座に答えた俺…。

「第二騎士団長のグレイシアス様に届けましょう。あとは騎士団内部の問題です。たとえ横領の主犯が近衛騎士団長であっても、グレイシアス騎士団長であれば厳正に対処してくださるはずですから」

「ねえ、お兄ちゃん。警吏本部のほうは良いの?」

 あぁ、ナナが心配しているのは、警部さんや刑事部長、あと長官であるグレンナルド伯爵の顔を潰すことにならないかってことかな。

 確かに、毒殺事件の実行犯であるマクレガー氏を自殺に見せかけて殺害した犯人の目星はついていないからね。うーん、どうしよう?


 ここでサリーが発言した。

「ねぇ、サトル。警吏本部にいる例の管理官に、この証拠品の情報をわざと流してみたらどうかな?きっと何か動きがあると思うんだよね」

 むむ、(おとり)捜査ってことか?ちょっと危険じゃないかな?

 ちなみに、例の管理官というのは、現在の近衛騎士団長の親族だ。


「お兄ちゃん、それ良いかも。長官や刑事部長も巻き込んで、罠を張り巡らせよう」

「うーん、GPS発信機があればなぁ。てか、そもそも人工衛星すら無いんだけど…」

 証拠品が警吏本部内から盗み出された場合、それを追跡できる仕組みが無いのだ。気づかれないためには、認識阻害のローブを着て盗み出した人間(おそらく管理官)を尾行するしかないか…。

「相変わらずサトルの言ってることがよく分からないんだけど、気にしたら負けだね。とりあえず、証拠品の『写し』を作ってもらおう。マリーナさん、どう?」

 サリーがマリーナさんに問いかけると、満面の笑顔で答えてくれた。

「お任せください。寸分(たが)わぬ『写し』を作成してご覧にいれますよ」

 おお、自信ありげだ。頼もしい。


「よし、それでは『写し』の完成次第、警吏本部へ行って刑事部長と面会することにしよう。念のため、この屋敷の警備は万全にね。サリー、ユーリさん、お願いします」

「任せてよ」

「おう、分かったぜ。任せときな」

 まぁ、証拠品を入手したことについては真犯人に知られていないとは思うけど、まじで『念のために』だね。


 ・・・


 その日の夜、寝ていた俺は誰かに身体を揺すぶられたことにより目が覚めた。

「サトル、起きて」

 耳元で(ささや)かれたのだろう、息が耳たぶに当たってこそばゆい。

「ん?」

 はっきりと覚醒した俺が目を開けて横を見ると、自分の頭のすぐ横に月明りに照らされたサリーの顔があった。めっちゃ驚いた。夜這いか?

「何者かが屋敷の敷地内に侵入したよ。悪意ある者の気配が私の【索敵】スキルに反応したんだよ。だから、すぐに起きて」

 夜這いじゃなかったよ。てか、侵入者だって?

 泥棒かな?


「ユーリさんは?」

「サトルより先に起こしたよ。今は裏口のほうを警戒してもらってる」

「賊の人数は?」

「気配は三人だね。それもあってサトルにも起きてもらったんだけど」

 なるほど、サリーとユーリさんの二人だけでは取り逃がす可能性があるからね。確実に全員を捕縛したいところだ。

 俺はベッドから出て【アイテムボックス】から十手を取り出した。寝間着のままだからちょっと間抜けな格好だけど…。


「よし行こう」

 ユーリさんと合流すべく、裏口のほうへ向かうサリーと俺。

 サリーの【索敵】スキルはまじで有用なのだ。おそらく賊は全員、屋敷の裏手のほうへと回っているのだろう。

 屋敷の厨房には裏口、というか勝手口があるのだが、そこの物陰にユーリさんが潜んでいた。

 俺は声を出さず、ハンドサインを使って『そのまま待機するように』という意思を伝達した。


 しばらく待っていると、勝手口のドアの鍵がカチャカチャと鳴りだした。ピッキングかな?

 実はチェーンロックもあるんだけど、今は外している。賊たちを厨房内に侵入させたいからね。

 カチャリ。

 お、なかなか良い腕だ。時間にして30秒くらいか。どうやら解錠できたようだ。

 ゆっくりとドアが開き、するりと人影が入ってきたのが分かった。警戒するように左右を見回していた賊は、後続に合図を出した。

 すると残りの賊たちも厨房内に侵入してきたため、賊の総数は三人になった。サリーの予測通りだな。


 俺は認識阻害のローブを着て、ゆっくりとドアの前へと移動した。退路を断つためだ。

 すぐに照明の魔道具のスイッチを入れた俺。窓から入る月明りだけだった室内が、煌々(こうこう)と照明魔道具の明かりで照らされることになった。

「なっ!」

 覆面を付けた三人組が驚愕のためなのか棒立ちになっている。サリーとユーリさんが神速の動きで賊の元へと接近し、剣の()の部分で鳩尾(みぞおち)を突いた。これで二人は膝から崩れ落ちた。

 残る一人が(きびす)を返して逃げようとしたけど、当然のことながらドアの前には俺が立っている。一人も逃がさん。

 十手で鳩尾(みぞおち)を突いてやったら、両手で腹部を押さえて(うずくま)ったよ。なお、きっちり手加減したので失神はしていない。


 俺はローブを脱いでから、サリーとユーリさんに声をかけた。

「サリー、ユーリさん、お見事です。完全勝利ですね」

 まぁ、手ごたえの無い相手で、不完全燃焼かもしれないけどね。それでも見事な手際だったことは間違いない。


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