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183 証拠品

「あらためましてマリー・グレイフィールドと申します。この子は息子のタッカー・グレイフィールドです。あなた方が事件の捜査中であるということは、義父と夫を毒殺した犯人は(いま)だ捕まっていないということなのでしょうか?」

「いえ、おそらく実行犯と(もく)されている男はすでに死んでおります。ただ、この男、最初は自殺という扱いでしたが、その後の捜査で他殺ではないかという疑惑が浮上しているのです。つまり、この事件は単なる怨恨による殺人ではなく、その裏には黒幕が潜んでいる可能性があるということですね」

 マリーさんが目を見開いて驚いていた。

 ユーリさんにも実行犯であるマクレガー氏の存在は知らされていなかったからね。奥さんであるマリーさんも初耳だったようだ。

 俺は現在までに分かっていることを詳しく説明した。


「なるほど。それで夫の遺品に何か不正の証拠品が残っていないかと探しに来られたわけですね。実は夫の書斎は全くの手つかずで、そのままの状態にしております。心の整理がつくまではと、書斎に立ち入らないようにしていたのが幸いでした。皆様の手で捜索していただければありがたいです。どうぞこちらへ」

 マリーさんに案内されて俺たちが書斎に入ると、そこは整然と片付けられていて、アレン氏の几帳面さがよく分かる部屋だった。

 このあと、机の引き出し(鍵無しと鍵付きの両方)や書棚を手分けして捜索した俺たち四人(ユーリさん、マリーさん、ナナ、俺)だったが、特に怪しい物は見つからなかった。

 ちなみに、5歳のタッカー君も一緒に捜索してくれたよ。ちょっとほっこりだ。まぁ、当人は遊びのつもりだったのかもしれないけどね。


「何も無いですね。やはり犯人に持ち去られたのか、それともそもそも不正の証拠があるという推理自体が間違っていたのか…」

「お兄ちゃん。何も無いってことは、それはそれで安心だよ。この家に泥棒が入ったり、押し込み強盗が入ったりする可能性が低くなったってことだし…」

 俺の愚痴に反応して、ナナが前向きな答えを返してくれた。確かにナナの言う通りかもしれない。


 …っと、ここで緊張感の全くないのんびりとした声が響いた。

「ユーリおばちゃん、これ何かな~?」

「ん?ター坊、どうした?」

 書斎の机の下の狭い空間に潜り込んでいたタッカー君がユーリさんを呼んでいる。小さい子は狭い空間が好きだよね。


「ここに何か書いてるよ」

 大柄なユーリさんは無理として、俺にとっても少々キツイ狭さだ。

 小柄なナナが机の下に入って、タッカー君の指し示す個所を確認した。

「お兄ちゃん、照明の魔道具があったら貸して。ちょっと暗くてよく見えないよ」

 俺は【アイテムボックス】から取り出した懐中電灯(自作です)をナナに手渡した。余談だけど、既存の照明魔道具はランタンみたいな形状のものしかなかったので、懐中電灯っぽい形状のものを自作したのだ。


 ナナが魔道具のスイッチを入れて机の引き出しの下側を照らしている。

「これはビンゴだね。ひょっとはってへ」

 多分『ちょっと待ってね』って言ったのだろう。懐中電灯を口にくわえたナナが両手を使って何か作業していた。

 ごつっ!

「いったぁ、頭を打っちゃったよ」

 机の下から出てくるときに頭をぶつけたのだろう。涙目で机の下から這い出てきたナナの右手には薄い木の板が、左手には懐中電灯が握られていた。

 …って、これってまさかの証拠品か?


 その薄い板にはこう書かれていた。

『ユーリへ。私に何かあった場合、これを第一か第二騎士団へ届けること。決して近衛騎士団には奪われないように』

 うん、間違いないね。近衛騎士団が絡んだ不正の証拠品だろう。

「開けても良いでしょうか?それともこの遺言に従って、このまま第二騎士団長のグレイシアス様に届けましょうか?」

 俺の質問にユーリさんとマリーさんが答えた。

義姉(ねえ)さん、どうする?私としては開けて中を確認したい」

「そうですね。空っぽだったら申し訳ないので、開けてみましょう」

 二人の許可を得た俺は超薄の木箱に向き直った。それは接着剤できっちりと密閉されていたけど、俺の【細工】スキルと【アイテムボックス】から取り出した木工用の工具によって問題なく開けることができたよ。

 そして、中には予想通り数枚の書類が入っていた。数字がびっしりと並んでいて、一瞥(いちべつ)しただけではよく分からない書類だった。これは屋敷に帰ってから【会計】スキルを持つマリーナさんに見てもらったほうが良いな。


 俺は心からのお礼を言った。

「タッカー君、お手柄だよ。きみのおかげで悪い奴を懲らしめることができるよ」

 母親の脚につかまりながら、褒められたことが照れ臭いのか、はにかんでいる様子のタッカー君だった。


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