181 近衛騎士団長
ナナと俺を含むグレイフィールド事件の再捜査チームが応接室で打ち合わせを行っていると、突然ドアが開いて誰か入ってきた。…って、またノック無しだよ。
刑事部長かな?…と思ったら、ナナと俺には面識のない人物だった。
「管理官殿、どうされましたか?」
警部さんが闖入者に問いかけた。管理官ってことは警部さんの上司かな。おそらく階級は警視ってところだろうか。
「なぜ冒険者風情がここにいる?まさか捜査に関する内部情報を話したりはしておらぬだろうな?」
「はい、彼とその妹さんは外部の協力者でして、冒険者ではありますが優秀な私立探偵でもあるのです。彼らにはグレイフィールド事件の再捜査にご協力いただいております」
もちろん、嘘です。刑事部長との話し合いでそういう体でいくことにしたのだ。
「私立探偵だと?胡散臭い奴め。そもそもグレイフィールド事件は被疑者死亡により捜査終了となった事件のはずだが?」
管理官の疑問も理解できる。なぜ、捜査本部を解散したあとになって再捜査が始まるのか?何か新たな事実でも判明したのだろうか?そう考えるのが自然だ。
「ええ、その被疑者の自殺に疑惑が生じましたので、刑事部長の命により特捜班が作られたのです」
本当は長官直々の命令だけどね。
「私は聞いておらぬぞ。というか、自殺ではなく、まさか殺人とでも言うつもりかね?だとすると、初動捜査をミスったのは致命的だぞ」
そう、今更って感じではある。初動の段階で早々に自殺として処理したのは、事件捜査においては確かに大きなミスなのだ(証言を得るべき目撃者の記憶は時間経過とともに薄れていくからね)。
「ま、まぁ良い。捜査の進捗状況は私にも逐一報告するようにっ!これは命令だ!」
「管理官殿はそもそもこの事件の担当ではありませんよね?捜査本部が立ち上げられた際も、特に関わりは無かったと思うのですが?」
「これは警吏本部の威信にもかかわる問題だ。したがって、私も協力してやろうと言っているのだ。良いから必ず報告するようにな」
管理官は言いたいことだけ言ったあと、そそくさと部屋を出ていった。
「ねぇ、お兄ちゃん。なぜ私たちを見て最初に『冒険者風情』って言ったのかな?私たちって別に冒険者っぽくは無いよね?」
「ああ、それに再捜査の進捗を気にするのはかなり怪しいな。これはもしかして『尻尾を出した』ってことかもしれない…。警部さん、あの管理官の係累に近衛騎士団長の身内はいませんか?」
警部さんは一度顎を撫でてから、少し考えるようにこう言った。
「長官から『人事部』に指示していただいて、奴の履歴情報を調べてみましょう。なに、すぐに分かりますよ」
このあと、本当にすぐ分かったのだが、あの管理官の妻の義兄が現在の近衛騎士団長の従兄だった。ややこしいが、とにかく近しい関係ってことだな。
これはビンゴかもしれない。
俺はふと思いついたことを警部さんに提案してみた。
「これは逆に、罠に嵌めるチャンスかもしれませんね。近衛騎士団長に繋がる重大な証拠が発見された等の偽の情報を管理官に流して、彼が黒幕に接触するのを尾行するという作戦も取れるのではないでしょうか?」
「ふむ、それは一考に値しますな。まぁ、近衛騎士団長が今回の事件に直接関わっているのか。それとも側近の暴走であり、近衛騎士団長自身は何も知らなかったのか。そのどちらの可能性も考えられるのですが…」
ああ、それは確かにそうだな。黒幕が近衛騎士団長と決めつけることはできないよね。
・・・
数日後、王城の第二騎士団を再度訪れたナナと俺は、グレイシアス第二騎士団長から近衛騎士団長に関する情報を得た。
「今の近衛騎士団長はある侯爵家の出身なんだが、三男であったため侯爵位は継いでいない。一応、騎士爵には叙されているものの、騎士として戦えるような能力は無いみたいだね。これは会議で顔を合わせた際に【鑑定】してみたから間違いはないかな。まぁ、親の七光りで出世したタイプだね~」
なるほど。今の地位は実家の権力を使ったってことなのかな?
「で、例の顔の広い俺の部下から得た近衛騎士団の内部情報なんだけどね。いわゆる、上には良い顔をして、下には高圧的な態度をとるという典型的な嫌われ者タイプみたいだよ~」
「何か不正行為に関与しているという噂はありませんか?」
「うん、噂レベルならあるみたいだね。騎士団長が代わった直後から、騎士団の予算に使途不明金が発生しているとか何とか…。それが本当であれば由々しき事態だけどね」
あ、もしかしてユーリさんの兄上であるアレン・グレイフィールド氏がそれに気づいたため、口封じとして殺されたのかも…。
これまでは元・近衛騎士団長の殺害に息子のアレン氏が巻き込まれたのかと思っていたけど、実は逆なのかもしれない。いや、不正に気づいたアレン氏が父親に相談するために実家を訪れていたところを殺されたという可能性も…。
「まぁ、きな臭い人物であることは間違いないね~。ただ、君たちも気を付けないといけないよ。もしかしたら殺人犯かもしれないんだからね~」
「第二騎士団としては捜査できないのですか?」
「うん、ちょっと無理かな~。陛下か宰相からの命令でもあれば別だけど」
「では警吏本部の主導で捜査を進め、決定的な証拠が見つかったら、第二騎士団に逮捕の協力を要請するという形になるのでしょうか?」
「そうだね~。まぁ、うちでもこっそりと調べることはできるけど、あまり動きを大きくすると警戒されてしまうおそれもあるよね。ここは君たちに任せておいたほうが良さそうだ。ツキオカ男爵のお手並み拝見ってところかな~」
笑顔で楽しそうにしているグレイシアス第二騎士団長だった。
ついに毎日更新が途切れてしまいました。今後も更新頻度は下がるかもしれません。
デスマ確定のプロジェクトに応援として入ることになったため、執筆時間が取れないおそれがあるのです(それでも息抜きがてら、執筆していく可能性は高いですが…)。




