180 第二騎士団長
今、ナナと俺の目の前にはグレイシアス騎士団長が座っている。
王城の第二騎士団を訪れて、騎士団長への面会を申し込んだところ、あっさりと奥の会議室みたいな部屋へ通されたのだ。
「きみがサトル君か~、グレゴリー兄さんから聞いてるよ。かなりヤバめの魔術師様らしいね。いやいや、謙遜しなくても良いよ。分かってる、分かってるから~」
なんか、えらく軽い人だな。
アインホールド伯爵によく似た感じの風貌ではあるんだけど、言動が軽すぎて伯爵の従弟とは到底思えないよ。てか、アンナさんから事前に聞いていた通りの人だった。
でも、騎士団長にまで昇りつめたってことは、戦闘力や統率力に関してはきっと大したものなんだろうな。ちなみに、彼を【鑑定】することについては自粛した。
「はじめまして。サトル・ツキオカと申します。こっちは妹のナナです。どうぞよろしくお願い申し上げます」
「固い、固いよ。サトル君はエイミーの恩人なんだろ?だったら俺にとっても恩人だ。もはや親戚と言っても過言ではないね。もっとフランクに行こうや」
いや、なんかめっちゃ良い人だな。
これで目が笑ってなかったりしたら怖いんだけど、全くそんなことは無かった。心から俺たちのことを歓迎してくれているのが分かったよ。
ちなみに、グレイシアス騎士爵家のユリウス様というのが本名らしい。
俺たちはグレイシアス第二騎士団長にグレイフィールド事件の概要を説明した。
現在の近衛騎士団長に疑惑の目を向けていることも…。
「へぇ~、近衛が代替わりしたことは知ってたけど、以前の騎士団長が死んでいたなんて全く知らなかったよ。同じ王城勤めの団長仲間なんだから、知ってれば弔問に赴いたんだけどな~」
ん?こんな大事件なのに知らなかったって?もしや近衛騎士団の中で箝口令でも敷かれていたのだろうか?
「とにかく、近衛の内情が知りたいんだよね?うーん、そうだな。俺の部下に顔の広い奴がいて、そいつなら近衛にも友人がいるはずだ。聞いといてあげるよ。知りたいのは現在の近衛騎士団長の人柄とか評判なんだよね?」
「はい、その通りです。あと、もしかしたら近衛騎士団員の捕縛が必要になるかもしれません。そのときはご協力の程、よろしくお願い申し上げます」
「あぁ、分かったよ~。何らかの犯罪行為を騎士団員が犯していたのなら、それを捕まえるのは俺たちの仕事だからね」
この言葉を発したときだけは、顔つきが凛々しくなって、目つきも鋭くなったよ。どうやら軽いだけの人じゃないみたいで安心した。
・・・
この面談のあと、警吏本部を再度訪れたナナと俺…。
『刑事部』では警部さんが待っていた。グレイフィールド事件の再捜査チームと打ち合わせの約束をしていたのだ。
「ツキオカ殿、ナナ嬢、ご足労をおかけします。現在、こちらで調べがついていることをお伝え致します。実行犯と目されているマクレガーですが…」
応接室には警部さんと若い刑事、ナナと俺の四人だけだ。さすがに今回は長官や刑事部長はいない。
警部さんから捜査状況の詳細を聞いたのだが、まとめると以下の通りだ。
・ラルフ・マクレガーが近衛騎士団を解雇された理由は、酒場で酔って一般人に暴力を振るったこと。
・処分を下したのは当時の近衛騎士団長であり、ユーリさんのお父上でもあるランドン・グレイフィールド氏。
・暴行罪については被害者と(金銭による)示談が成立したため、不問とされた(喧嘩両成敗でもある)。
・しかし、騎士団を辞めさせられたことを逆恨みしていたようで、これがランドン氏への殺害動機となっていたことは間違いない。
・かつての同僚であったアレン・グレイフィールド氏(ユーリさんの兄上)との仲も良いとは言えないそうだ。
「うーん、これだけ見れば、確かにマクレガー氏の怨恨による犯行という見立てが間違っていたとは思えませんね」
俺の率直な感想に警部さんがニヤッと笑って、さらなる情報を伝えてきた。
「ですが、この男。かなり自分本位な性格で、とてもじゃないですが自殺するような性格ではなかったそうです。また、毒物の入手経路についても不明です。薬局などから購入した形跡が無く、誰かから渡されたものなのではないかと思われます」
なるほど、やはり背後に何者かの影が見え隠れしているね。
ただ、その存在は全く表に出てこないけど…。




